D.I.Y.出版日誌

連載第1回: 評価経済の換金装置をハックする

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2014.
04.12Sat

評価経済の換金装置をハックする

個人の人格の社会的価値を換金するサービスばかり増える印象があるKDP もそのように利用される傾向があったけれど、 「一冊の本を書くという労力の要素がまだあったnote はそうした不純物の除去をめざすかに思える個人の社会的価値を文字どおり切り売りしようとするかに見える

 たぶん今後のウェブサービスは、 「お友だちになる権利そのものに課金するようになるだろうウェブは万人にひらかれているあらゆるテキストボックスはたしかにだれでも書きこめるでもそのようにして公開されたテキストは書き手がだれであるかによってあらかじめ貴賤が決定しているユーザは等価ではないのだバズる個人とおれみたいな圧倒的無名人とではその社会的価値によって書く前から階層が分かれている

 はてなブログを開設するなりホッテントリにのぼるひともいるおれみたいにどれだけ書きつづけていても、 「(味方がいないのでやりたい放題できる捌け口として消費されるばかりの人間もいるおれの書いたものには、 「人目にふれさえしなければ迷惑行為にならないという程度の意味しかない継続の問題だというひともいるがそれは祝福された成功者の後づけの逸話でしかない

 もしあなたがおれみたいな無名人でありウェブ上で知られた書き手のファンになったとしたらその有名人の友だちになりたいと願うだろう見分けのつかないその他大勢のひとりではなく名前のあるただひとりとして存在を認めてもらいたいと望むだろうかれらの輝きに近づくことであやかれるように感じるのだそうしてあなたは汗ばんだ手に握手券を握りしめて行列に加わるなりtwitter でリプライやメンションをせっせと飛ばすなりありふれた迷惑行為にいそしむだろう

 ウェブ上のコンテンツにはまぎれもない身分の格差がある高低差は金を生み出す流れ落ちる水がエネルギーを生みだすようにそこに商売の余地がある

 ただしそこには幾ばくかの誤算が含まれるように感じるおれみたいな無名人がかならずしもホッテントリを望んでいるわけではないかといって祝福されたユーザをありがたやと伏し拝み身分の格差から生じる価値に金を投じたいわけでもないそして祝福されたユーザもまた自覚的に換金しようとする一部を除けばそうしたことを望んでいるわけではないように思う業者はそこを誤解しているだれもがウォーホルの十五分間を望むともバレリー・ソラナスであるともかぎらない

 どうせそうした安易な換金装置をめざすならば中途半端にまとまった作品めいたものではなくより断片的なものに課金したほうがいいのではないか一文ではなく一ツイートに対してふぁぼではなく投げ銭するイメージそういう意味でnote がトークテキストを分けた理由がよくわからない。 「トークで社交的な営業をしてテキストで回収するイメージなのかもしれない

  ask.fm がザ・インタビューズよりすぐれていたのは自動質問の弾数がやや多かったからあやしい日本語の千本ノックにいかに短く即答するかという遊びができた匿名での投稿を禁じたりブロックしたりする機能もあったザ・インタビューズは無名人をいじめる遊びに特化した構造になっていたので利用者は危険にさらされることなく安心して誹謗中傷を楽しむことができた)、 これは大きなちがいだったでも ask.fm の自動質問もやがては弾切れになりおなじ質問がループするようになるしばらくは異なる返答をして遊ぶものの飽きるのは時間の問題だ

 本来意図された利用法ではごくかぎられたユーザ評価経済において価値の認められる個人しか楽しめなかったサービスでも人工無能による千本ノックとして使うことによって無名の一般人でも楽しめるようになるしたがって ask.fm は本来そのように最適化されるべきサービスであった回答から収集したテキストデータをもとに質問を自動生成するようにすべきだったのだその質問は必ずしも意味をなす文章でなくていい)。 すぐに弾切れになるようではよくない

  SUZURI にもそのようなことがいえる無名の一般人であるあなたがどんなキャラクターグッズを作成したところでどうせだれも買わないのだであるならば T シャツマグカップiPhone の三種だけではなくもっといろんなものにあなたのくだらない画像を合成できるようにすべきなのだ

 こうしたウェブサービスは基本的に評価経済の勝ち組が小銭を稼ぐために設計されているその他大多数である無名人は有名人になれるかもしれないという幻想で釣っておけばいいという発想だもしくは有名人のとりまきになることを喜ぶという考えあたかも有名人を特権階級と思っていて大衆が憧れそのようになりたいと夢みていると錯覚しているかのようだつまりほとんどのユーザは舐められばかにされているのだザ・インタビューズも note もそうした発想のもとに設計されている流行の遊びで楽しみたかったはずなのに業者やごくかぎられた有名人のために自尊心を搾取されるばかりでいいのか

 評価経済の換金装置をわれわれ一般人が楽しむにはハックが必要だ設計を裏切りイリーガルな使い途を見いだすしかない有名人の自己プロモーションのために設計された ask.fm を人工無能によるまぬけな質問にいかに気のきいた即答をするかという千本ノックとして楽しむ有名人が気軽に iPhone ケースで小銭を稼ぐための SUZURI でくだらない画像を iPhone に合成しいかにもそのような商品が存在するかのような幻想を楽しむそのような裏技が必要なのだ

 しかしウェブ上に流通する情報はすべからく勝ち組による勝ち組のための情報だそれ以外のニーズがあるなんて彼らには思いもよらないその存在に気づいたとしても見下すだけだ有名人のためのプラットホームで無名人が同格にふるまおうだなんてかんちがいもはなはだしいと非難され片づけられる一般の無名人は己の無価値を思い知らされ社会的に孤立させられるばかり別に有名人みたいにふるまいたいわけでもなければ有名になりたいわけでもないただ楽しみたいだけなのに無名であるがゆえにその権利がないと排除されるのはいかがなものか


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。