D.I.Y.出版日誌

連載第90回: 休日

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.31Tue

休日

昼夜切替で一日半の休日休みは今夜だけで明日はいつもの時間に出勤どうも頭もからだも理解していないうっかり一日余計に休みそうな気がする休日の過ごし方もよくわからないやるべきことは山ほどあるのに。 『黒い渦の改稿はあまりに重労働でうんざりしたとにかく文章がひどすぎるおそらく強迫性障害を発症していたのだろう考え方の筋道が混乱していて日本語として意味が通らないこんなゴミをよくも人前に出していたものだ逆にいえば実家と絶縁したことで治癒しつつあるのだと思う両親とは異なり本物の異常者ではなかった改稿は毎日数行ずつチビチビやることにするとなるとやれるのは映画を観るか本を読むか本は山積みになっているどれに手をつければいいのか読みさしのアーダ映画を観たいような気もするけれどもまさにいまこれを観たい! というのがないいつか観たい作品なら山ほどある

これまで試してきたさまざまな可能性を洗練させる時期なのかもしれないと考えている既刊書のゴミのような文章を書きなおしてまともにしたフォントやペイントツールの使い方を学んで表紙をつくりなおしたWordPress はプラグインや人力に頼っていた部分をテーマの PHP を書き直して自動でやれるようにしたSNS は百害あって一利なしと見極めたあれは幼稚なお友だちごっこのツールだ)。 インデザを必要最低限は使えるようになり三作品を刊行し電子版より読まれやすいことを確かめた常時無料配布をしてみたり出版社と変わらない価格にしてみたりさまざまな価格を試したけれどペイパーバック版を出すことで 99 円の電子版を値引き価格として表示させるところに落ち着いた結局のところどうすれば効果的に自己満足できるかという話でしかない商売ではないからだ

CreateSpace はやはり言葉の壁が大きすぎる塗り足しありの画像を書影として使われたので苦情をいったらカバー画像そのものの話と取り違えられそうじゃないといったら今度は裏表紙を商品画像にされたわけがわからないCreateSpace 側で出稿している画像は正しいようだLook Inside が適用されたとたんに裏表紙になったやはり書影の修正は出版前に依頼しなければだめだ依頼をかけるタイミングの最適解があるはずまず配信前に依頼するのが第一次のタイミングは Look Inside 適用後かもしれないPUNK の問合せもしているのに KISS のほうしか返事が来ない四日も経過している日本のウェブサービスなら無視されるのも珍しくないがCreateSpace の仕事としては珍しいので情報を追加して問い合わせたまだ答えはない

やっぱりメール配信はやったほうがいいような気がする週に一度更新した記事の一覧を通知するだけでいい古い時代の通知方法という印象があったのだけれども自分の消費行動をふりかえってみてもメールのお知らせは案外ばかにならない読まれるためにやっているわけではないとはいえまともな客層に読まれるのであればそのための努力はしたいメールマガジンは固定客の確保に有効だろう登録してもらうにはまず一見の客を集めなければならないまともな客は SNS にはいないある程度の読書習慣がありかつインターネットに親しみのない層は客筋がいいその層に訴えるにはやはりペイパーバックを配るのがいいようだなおかつ書いている人物への関心があらかじめ多少なりともあったほうが読まれやすい印象がある本来はそういうひとたちに配ってレビューを書いてもらったり SNS に感想を書いてもらったりするのがいいのだろうそんな世渡りの才はないしやるつもりもないけれど

他人と同じになるよう強いられる機会がインターネットでは多いけれども人物への関心という導線を考えると同調圧力に従う利点は感じないそういう意味でも梁山泊のようなインディ出版レーベル/編集・品質向上ツール/ブランディング手段をつくる着想は悪くなかったただし参加者を悪意から護る方法がなかったし個人情報や文章を預かる責任を自分がどれだけ負えるのかにも疑問があったひとりでやるのが最適解だおれに対する関心は悪意でしかあり得ないので導線のためにはならないけれどもツールとしての精度を高めるのはやっておいて損はない自分ひとりが楽しめればいいのだ出版にかぎらず他人と関わるのは苦痛でしかない若い頃は愛されたくて無理をした孤独は埋められず蔑まれ憎まれて惨めになるばかりだったひとりでいることを意識的に選んだら幸せになった自由とは責任を選び取る権利だ身の丈に合う責任を負いたいひとりで好きなように読んだり書いたりするのがいい

ブックパスですでに読んでいたのに印象がまったく残らず米代恭僕は犬を BookLive! で買ってしまった読み終えるまで気づかなかった悔しくて数日間そのことばかり考えていたその直前には iTunes で薦められるがままにジョン・カサヴェテスグロリアを観てなるほどレオンの元ネタということはよっくわかったで? というつまらさなだったのでプロットの必然性や登場人物の動機がまったく理解できなかった)、 このふたつについて丸一日ぐじぐじと考えつづけたそういえばディック・ロクティ笑う犬なんてのがあった90 年代に入ってから続編の短編が書かれたけれどもおっさんの探偵もローラースケートの美少女中学生もそのままの年齢でただのモチーフが時代に合わせてスヌープ・ドッグ風になっただけそれでもいいから長編で読ませてほしかったなぁなどと感慨にふけりそうだ次の本公開はしないはこれで行こうと決めたこの三年間ずっと考えていたぼっちの帝国はしばらく放置するいまの自分に独身中年男のゆかいなシェアハウスの話が書けるとは思えないもうちょっと加齢臭を熟成させてからにする

僕は犬ではたぶん著者が若いせいだと思うのだけれど子どもにペット扱いされる青年がいちいち湿っぽい弁解をするあれがつまらないし生理的に理解できない一方の生意気な子どものほうもさも鋭い洞察であるかのように描かれるわりには大したことをいっていない日本的な湿った情緒を描きたかったのだろうしおれには逆立ちしても思いつかない普通さがあるからあれはあれでいいのだけれどもっと生理的になじめる書き方があるはずだ探偵ならそもそもが犬だし護衛兼話し相手ということで呼ばれるのはプロット上まったく不自然ではないそしてそもそもが犬だという前提から出発すれば違う先が見えてくるだろうこのやり方のいいところはさんざん書き尽くされてきた凡庸なプロットだということださまざまな試みをしてわかったのだけれどもプロットは断然凡庸なほうがいい新しいことをやってもろくな結果にならない

誕生日のプレゼントに犬をせがんだら探偵が来たというのはどうだろうそのイヌじゃない! 的なわがままなひきこもりの令嬢の護衛として探偵が雇われるとなるとプロット上の要請として当然その金持は資産家であるか暴力団であるか資産家は悪魔とドライヴで使ったから暴力団になるだろう当然その金持は何やら後ろ暗いものを抱えていてそのために令嬢の命が危険に晒される展開になるわけだ父親と探偵とには過去に関わりがあって物語の謎はその因縁につながってくるそこまではいいのだけれども次に問題となってくるのが変節点だマクガフィンを何にするかにもよるだろうけれども依頼人のために令嬢を護ろうとがんばるうちにマクガフィンの謎の意味合いが変わってきて七割か八割の時点で依頼人そのものが黒幕であることがわかるとか何か大きな転換があって令嬢を護るという一貫性のためにそれまでと真逆のことをしなければいけなくなるという展開がなければならないマクガフィンは令嬢の命にかかわるような何かでなければ父親は娘の安全などどうでもよくて⋯⋯という展開を成立させる何か

KISSのときにはそこにベタなひねりを加えたんだよなぁ書類ではなく鞄そのものが狙われていた的な今回はそれは使えないもしくはそのままでは使えないSF 的な要素には逃げたくない変節点には仲違いも必要だ令嬢がイヌと仲違いしネットで知り合ったボーイフレンドを信頼して身を寄せたら敵に売られたというくだりを入れようとびきり残酷にしかしこういうベタな話を書くためにはスピレイン的なジャンクな探偵ものを山ほど読んで勘を取り戻したいところだし、 『アーダを読みはじめてしまった今ではそれも難しそうだ実際に取りかかるのはかなり先になるだろうその前に黒い渦を片づけなければならない。 『悪魔とドライヴ改稿版の最後の仕上げも待っている


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。