D.I.Y.出版日誌

連載第89回: 満たす

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.27Fri

満たす

三冊のペイパーバックを刊行しつぎの動きを考えている実現の可否はさておきさまざまな可能性を空想する技術的には実現したが発想そのものに疑念が生じて断念したこともあるセルフパブリッシング本の品質向上と著者のブランディングを目的としたツールがそうだBuddyPress のフォーラム機能は使いにくい実際の運用にはアクティヴィティだけで充分のようだ話題ごとにまとめることができないのが難点ではあるがその場の勢いでわーっと集まって議論するほうがいい会議室を用意してもだれも参加しない思考や議論を見せることが読者サービスやプロモーションになると考えていたしだれかを目当てに訪れた客がほかの著者を知る機会にもなるとも考えていたそのようにして著者の個性を印象づけてブランディングする計画だった

ASIN書影抜粋感想文を入力すれば本の紹介ページが生成される仕組みは実装した縦書き epub を自動生成するプラグイン PriPre とフロントエンドから記事を投稿できるプラグインを組み合わせればセルフパブリッシング本の紹介をだれでも気軽に投稿し記事が溜まれば単行本化までシームレスに行えるサイトを理論上は実現できた実際には ASIN と抜粋をフロントエンドから入力できないのでそこだけ管理者が代行する必要がある参加者を著者一覧にリンクさせることを諦めれば投稿一覧をプロフィールに載せなくてもよくなるのでASIN と抜粋の入力も投稿用の固定ページから行えるようにできる

以前の試みは悪意によって妨害され参加者を護るため断念せざるを得なかった匿名で新たなサイトを立ち上げることも考えたけれどもそこまでする価値はないと思えた著者の主体性などという理想を考える前にまともな本を読みたければちゃんとした出版社の本を読めばいいしまともな本をつくりたければプロ作家になればいいと感じるようになったセルフパブリッシングを標榜するひとびとは趣味を口実とした交流をしたいだけあるいはゲームのように金を稼ぎたいだけとわかった読書も読者も想定されていないそこに別なものを期待するのは魚屋で人参を買い求めようとするようなものだ日本には著者が主体的であることの文化は根づかなかった

自分が何をやりたいのか見つめ直した主体的であることを突きつめたら自己満足にたどり着いただれにも存在や活動を知られていない社会的に不可知であるからこそやれる自由があるその自由の先に出版の未来を見るようになったオンデマンドによるペイパーバック版の可能性を模索するのもその一環だ自己満足として作成し名刺として知人に配る老人の自叙伝とは異なり感想は求めないいまこんなことが簡単にできるんですよ楽しいですよと話すだけだ人生に楽しみがある幸福を相手構わずいいふらせばいつかほんとうに幸せになれる気がする

CreateSpace から納得のいかない回答がきた書影の修正を依頼したら塗り足しを含めた画像を使われたそれが正常なのだという商品ページの書影がおかしいと訴えたのにカバー画像の規格について説かれた話題をすりかえられているやはり Google 翻訳では伝わらなかったかよく見たら悪魔とドライヴの書影にも塗り足しがある購入して届いた実物はちゃんと裁ち落とされていたさらに注意して見たら絶版にしたほうの書影にも塗り足しがあった裏表紙が書影として表示されている時点のすべてのイメージを見るでは正しい表示だ修正の際に不具合が生じたのは間違いない絶版にしたPの刺激は業者向け AmazonPOD によるもので CreateSpace とは関わりがないAmazon 側の不具合であれば CreateSpace に苦情をいっても仕方がない当然 Amazon は窓口はうちではないといいはるだろうco.jp ならなおさらだ

そもそもが無理なお願いだし言語の壁があるから諦めるしかなさそうだインターネットのサービスでは日本企業なのに日本語が通じないことさえ往々にしてありその場合は異常なストレスになるIT 企業ではないけれどおれ自身エンドユーザ対応の業務をしていて現場管理でそうしたケースの二次対応をしばしば担当するログを確認するとたいがい全体の文脈を理解せぬまま客がたまたま使ったわずかな単語だけに反応してまったく無関係な案内を押し通している先の見えない領域に踏み込む不安からつい手持ちの確かなものにすがろうとし結果としてテンプレにひっぱられ客の要望からかけ離れた回答をするのだ期待が大きければ裏切られた失望や怒りもそれだけ大きくなる

言葉の壁がありながら CreateSpace はよくやってくれるほうだ主体性に価値を見出す文化があることに加えさまざまなケースが想定されているからだと思う日本のウェブサービスは往々にして自分たちに都合のいいケースしか想定しない加えて当世の花形産業である特権意識からか、 「してやっている式の発想がどこかにあり快い対応はまずもって期待できない。 『Pの刺激ペイパーバック版を CreateSpace で出し直すことにしたのも日本企業の対応がサービス内容が詐欺的であってことに加えて不信感を抱かざるを得ないものだったことが理由だ

自分しか利用しないので Amazon にこだわる必要はない知名度の高い大規模モールだろうが個人サイトだろうが集客力が絶無である事実に変わりはないからだ将来的には電子版もペイパーバック版もこのサイトでの直販に限定しようかと考えているそのため製本直送なるサービスを検討している5×8 インチが使えないので縦横比の異なる表紙画像をあらたに用意しなければならないepub を直販するのであれば KDP の規格にこだわる意味はない最初から四六版の縦横比で表紙を用意すればいいAmazon はあくまで商材を扱う場であって突きつめれば読書とも出版とも相容れない同人誌的な交流やゲーム感覚の小遣い稼ぎ評価経済の換金装置としては最適だろうがいずれもおれには向いていない脱却するつもりだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。