杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第83回: 主体的に楽しむ

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
10.15Sun

主体的に楽しむ

表紙画像を直したよというメールがきたので配信を依頼した。メールの文面といい細やかな気遣いといいアフターケアといい文句なしだ。商品紹介にはgoogle翻訳を使った。英語がわかるひとが読めば噴飯物だろうがやむを得ない。旧版のほうは販売停止を依頼した。旧版では自前のISBNを使うために5400円もとられた上に、苦情をいわなければ商品ページの記載は金を払わなかったのと何も変わらなかった。ほかにもPNGをPDFに変換するためだけに2000円とられたり、1600円の本なのに見本を作成すると2000円とられたり(無料のデジタルプルーフが存在しないので購入するしかない)、こちらとしては意味がわからない金を次々にとられる。無料を謳いながら実際には何をするにも「実は有料です」といわれたら、詐欺とまではいわないが心情的には騙されたように感じる。

それでもサポートがこちらの言葉に耳を傾けてくれるとか、質問に対して的確で充分な説明をしてくれるとか、サービス内容が優れているとかであれば不満は出ない。Amazon PODを外部企業が利用しようとすると何かと金がかかるのは理解できるからだ。メールの態度やサービス内容を好意的に解釈しようと努力したけれども無理だった。だいたい無駄なやりとりに手間がかかりすぎる。出版に必要な最低限の工程が、サポートの手を煩わせなければ行えない。サポート担当者の心理として「本来やらなくていい仕事をやらされた」「面倒な仕事を増やされた」と感じるのは無理もない。無理もないが、だからといって客が受け入れなければならない道理はない。おかげで一日でやれる作業にひと月もかかった。よく我慢したものだ。CreateSpaceなら謳っているとおり無料だし、実物見本の料金だって販売価格と変わらない。不快になるために9000円払ったようなものだ。

新版の『Pの刺激』はAmazon.comにはもう配信済みだ。co.jpには数日かかるだろう。やはり事前に申請していれば最初から正しい書影で表示されるようだ。企業の規模が異なるので当然とはいえ、この対応の差はそれだけではないように感じる。根本的な発想や価値観からして異なるのではないか。CreateSpaceはユーザが主体的に利用する発想でサービス全体が設計されている。日本の場合はどこのウェブサービスも「下々のユーザがありがたく賜る」のを前提につくられていると感じる。ウェブサービスという「お上」に平伏して従うのが当然、といったような。そう勘違いさせるだけのユーザが実際この国には多いのだろう。ユーザの側でもそこから逸脱しないよう互いに目を光らせ合い、足を引っ張り合うかのような印象がある。この国では主体的であることは罪なのだ。

『KISSの法則』ペイパーバック版は今週中に作業を完了させられそうだ。次の休日を利用する。『Pの刺激』旧版の経験がひどすぎたせいで困難な作業のように錯覚していたけれども、CreateSpaceならたいした手間ではない。むしろ呆気ないほど簡単だった。近々『ブレードランナー』の続編が公開されるので、P・K・ディックオマージュの『黒い渦』を出し直してもいいかもしれないと考えはじめた。電子版はまだ客層が悪いのでペイパーバックをつくりたい。新潮クレスト・ブックスも電子版が出るようになったし、状況は少しずつ変わりはじめてはいるけれども充分ではない。ただ表紙は変えたいんだよなぁ。自前のイラストにしたい。はからずして赤、黄色、緑の表紙で揃えてしまったから次は青がいい。CreateSpaceには商品ページに日本語を使わせてくれと改善要望を出しておいた。欲をいえば日本の口座でも印税を受け取れるようにしてほしいが、どうせ自分しか買わないのだからこだわらない。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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