D.I.Y.出版日誌

連載第81回: 気分を上げる

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.12Thu

気分を上げる

気分が上がるものだけを選ぶのが正解だとわかった上がらないものは全力で避ける。 『Pの刺激ペイパーバック版の出来に不満があったそんなものが書店に並んでいることを思うだけで気が滅入るそもそも出版からして楽しめなかった悩んだが絶版にして CreateSpace で出し直すことにした前回は丸ひと月かかった作業がたった一日で完了し現在は評価待ちだ。 『ガラスの泡を併録しなおかつ取り分を上乗せしても 1300 円程度に抑えられた某社の POD サービスでは取り分ゼロで 1728 円CreateSpace は無料で手軽で何度でもやりなおせるし何より使っていて楽しい気分が上がる某サービスがいかに自分に向かなかったか実感できた無駄金もかなり突っ込んだし精神的にも疲労させられた日記をふりかえってみても急にテンションやモチベーションが失速したのがわかる

あのサービスでは出版に必要な最低限の作業をするために何をするにもサポートに頭を下げてイレギュラー対応をお願いしなければならなかった些細な作業もいちいち代行してもらわねばならず迷惑をかけることに負い目を感じたやりたい修正を思ったようにやれず残念な結果に終わった有料の表紙作成支援と称するものはオンラインの無料サービスでやれるような単なる PDF 変換だった自前の ISBN を使うだけで二千円をとられた上に苦情をいわなければそのサービスの銘柄で出版社表記がされるところだった商品ページに日本語が使えることだけが取り柄なのにそれすらままならないのでは話にならないAmazon POD のシステムなどさまざまな制約があるのはわかるしかし思ったように出版するというニーズが満たされなかったのも事実そういうサービスではないということだろう

悪魔とドライヴのときは Amazon 以外でも売ることを考えていてむりやり JAN コードを載せたりしたけれどどのみちそんな面倒なことは実行しないことがわかったので今回は ISBN だけを表紙に記載することにした失敗から学ぶことは多いCreateSpace と Amazon POD の違いも学習できたしそれなりに得るものはあった何より表紙の歪みに気づけたのがよかった正確にいえば歪んでいるのは知っていたが四六版のペイパーバックを実際に手にするまで気にしていなかった実物は画面で見るよりも絵の下手さが際立つ今回の再出版でようやく人前に出せる本がつくれそうだ。 『悪魔とドライヴも二度ペイパーバック版をつくっている何事も最初からうまくはやれない可能であれば年内にKISS の法則もペイパーバックにしたいと考えている

だれにも期待されずに書き編集し出版している地道な作業で得るものは少ないが自分にとってよいことだと信じている吉野寿さんイースタンユースのインタビュー記事を読んで人格 OverDrive がやっていることと似ていると感じた何もないところから音楽をつくり演奏を録音して編集しプレスし受注して梱包し出荷する公演や巡業を企画するそうしたすべてをアーティストが責任を負って主体的に行う音楽の世界ではすでにそれが当然になりつつあるあるいは本来がそのようなものだった)。 出版もまたこれからは同様だろう


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。