D.I.Y.出版日誌

連載第77回: 48億の迷走

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.02Mon

48億の迷走

拒否しても拒否してもおかしなアクセスがある流入元と思われるので RSS を停めたわざわざ不快になるために訪れる人間の多さに驚く憎み蔑む相手にどうしてここまで執着するのかお望み通り小説を書くのもセルフパブリッシングもやめてさしあげたのにもう関係ないのだから放っておいてほしい市中引きまわし晒し首の罪人に石を投げる快感が忘れられないのかあるいはそれこそがひとびとにとってインターネットの快楽そのものでありそしてまたインターネットで交流とされるものの本質なのかもしれない

かつて twitter アカウントでだれでも簡単に登録できるようにしたらスパムが群がったユーザにアカウント登録をさせない方法を考えた管理者が登録を代行してメールでログイン URL とパスワードを知らせパスワードはあとから変えてもらうその方向で検討するうちに気づいたBuddyPress のメニュータブに追加した著書という項目がおかしいこのままでは個別に設定できずおれの本が表示されるそもそもユーザを著者と結びつける仕組みが強引だったアカウントページの見栄えを著者ページに寄せた上でリダイレクトしているメニュータブの欠陥を解決しても本来が不自然なのだ複数のユーザにこの仕組みを適用するわけにはいかない

実利的であろうとするとどうしても複雑になり管理の手間やリスクが増大する広く開放するのであれば欲ばらず極力シンプルにしなければユーザと著者の概念は切り分ける必要がある著者ページは廃止して Amazon リンクの自動生成もやめるシンプルに本の感想をフロントエンドから入力するサイトにするその方向で突きつめれば読書を口実とした交流サイトができあがると気づいた複数ユーザでの利用を想定すれば実利より交流を優先せざるを得ないのだこのサイトがめざす機能とは致命的に相容れないブクログにも読書メーターにも Facebook のようなウォール機能はないからそこが独自性にならなくもないとはいえそんなものを今さら増やしてどうなる

世渡りやご近所づきあいのような中身の伴わないうわべばかりの交流が幅をきかせる理由が腑に落ちたインターネットでは構造的にそうならざるを得ないのだ芸ではなく交流のために書くと恥ずかしげもなく言い切ったひとがいて愕然とさせられたものだがインターネットではそれが正しいのだむしろそれこそが唯一絶対の正義でさえある芸の価値などだれも求めてはいないそして何よりおれは他人と関わりたくない優れた才能を見出し送り出すことを以前は夢みていたが業者とのゴタゴタを経てその意欲も失せたやはり個人利用に特化した方向を目指すべきだなるほどひとびとはリンチ死体に投石するセルフィーにいいね!するだろうそんな時代に従う才覚はない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。