D.I.Y.出版日誌

連載第76回: 趣味に生きる

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.01Sun

趣味に生きる

ボラーニョ2666を読んでいる遅読の自分としても呆れるくらい進まない先が気になる物語で文章も読みやすい世の中にはピンチョンのようにおもしろいけれども読みにくいあるいは読みにくいのにおもしろい本もあるがそれとは異なる読みにくさはテキストそのものではなく重量に起因するただもう物理的に重すぎるのだ遺された家族の生活のために本来は分冊されるはずだったが文学的価値のため遺言に背いて一冊で刊行された本なのだKindle 化されていればと以前なら愚痴ったところだが現在は紙の本をより好ましく思うようになった哀しい事故が原因だ本は寝る前に読むことが多い自然と枕元に本が配置されるこれから読むつもりの本はいまは亡き BEAUX-ARTS という雑貨屋で買った折りたたみ式のコーヒーテーブルに積む読みさしの本は枕の隣だKindle 端末は薄いので寝相が悪いと枕に隠れる知らずに手をついてパキッという厭な感触がしたごく小さな傷だがフロントライトを点灯すると偏光して光の筋を放つ紙の本ならこんなことはない明かりを消すと読めなくなるのが玉に瑕だが画面に傷よりはまだマシだ物理的な重さを別にすれば読むのに気を削がれることがないいったいどんな姿勢で読めばいいのだ支える腕が筋肉痛になった

若い頃は書くために読んでいた仕事ではないにせよ書くのも読むのも自分とは何かに関わる作業であり趣味ではないと感じていた自分はただの発達障害だと気づいたのでいまは楽しみのために読んでいる書くための読書とは読み方がちがう脳に筋肉があるとすればその筋肉の使い方が異なる感じだ思えば子どもの頃から多趣味だった玩具を与えられなかったし交友や外出にも制約があった上そもそも協調運動障害のため体を動かすことを楽しめなかったので自力でさまざまな遊びを考案した書くことも読むこともそのごく一部だった自分にしか理解できない遊びばかりしているのでますます友人がいなくなったが他人のしている遊びは自分には理解できないので差し支えなかった今はその生活の延長であるように思える金も時間も自力で得たものだから自由に気兼ねなく使える子どもの頃はすべては大人たちの顔色次第だったし CreateSpace も BuddyPress もなかった趣味はどこにもつながらず何者にもなれない人生を無駄にする喪失感がかつては募った今はそういうものだと感じている自分の人生はそういうものなのだだれともつながれない発達障害者であるからには受け入れて楽しむしかないどこかへ至る作業でないからには楽しめればそれでいいボラーニョだって 7800 円もしたのだ最低でもひと月はかけてチビチビと楽しみたい

サイトに地味に手を入れている撃たない猟銃の手入れをするようなものだTheme My Login でログイン画面をつくって管理画面の出入りを制限しヘッダにログイン・ログアウトのボタンをつけようかと考える投稿機能についてはこのサイトで実現している機能をすべて盛り込むことはむずかしいたとえばカテゴリを日記限定にすれば簡単だ本の紹介を入れるとしたら ASIN と要約文の入力欄はどうにもならないプラグインに頼らず投稿フォームを自作するしかない方法の目星はついているが手間がかかりすぎるもし本の紹介にこだわるのであれば日記はあきらめたほうがいい本の紹介を実現したとしても著者タグページの問題があるこのサイトでは ASIN の入力でリンクが自動生成され要約文を入力すれば内容紹介ができるタグを指定することで著者ページが生成されるがそのページには著者画像と紹介文を紹介せねばならない本の紹介をするにせよいずれかの機能は断念すべきだ不特定多数に開放するには複雑すぎるアイキャッチに書影を指定する機能だけにとどめるべきかそれなら既存のプラグインでどうにかなるしユーザの負担も少ない

そもそも何を目的とするか考えねばならない本の紹介をメインにするのであれば日記は不要だ本の紹介をメインにするのであれば著者タグの準備は管理者が代行するとしてASIN だけでも指定してもらう必要があるならば管理画面の機能を制限するか投稿フォームを自作するしかない参考サイトを小一時間睨んで断念した労力をかけても期待したほどの結果は得られそうにない貴重な休日に何をやっているのだろうと一瞬われに返りそうになるがいいのだ酒を飲んで無為に過ごすこと自体が趣味なのだから小説は書けば大勢から憎まれる声の大きなひとびとの顔色次第だった苦しみの代償がそれではやる価値がない人生は有限だ楽しまなければ少しでも心躍るものを探すのだそうして死ぬまでの空虚な時間を埋めるのだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

コメントは受け付けていません。