D.I.Y.出版日誌

連載第75回: 過程を可視化する

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
09.29Fri

過程を可視化する

BuddyPress を当初は思考の過程を可視化するために使いはじめたtwitter のような既存 SNS においてその性質はあくまで副産物でしかないインターネット特有の世渡りを楽しむゲームであり社会的能力に欠陥のある人間には適さない他人とうまくやれない自分を隔離しつつ目的を果たすには BuddyPress が最適だったやがて出版を民主化する道具の一部として考えるようになったアクティヴィティで企画や編集の会議をしつつその過程を見せ本の紹介で文脈を形成して周知と販促につなげる試みだったその後紆余曲折を経てごく私的で小規模な出版システムの一部として捉えなおした現在は単純にライフログとして使っている思考の過程を記録してあとで確認するためだ

複数ユーザで運営する可能性も棄ててはいない最小の権限でだれでも気軽に本の紹介や日記を投稿できるようにしたいしかし現状はどの手段も一長一短で管理画面を使わせるほかない書影と本文のほかに ASINリンクが生成されると要約文内容紹介として表示されるの入力欄が必要だし著者名のタグを指定できなければならないかつ自動生成された著者タグページに顔写真や紹介文を設定することまでフロントエンドで完結させるとなるとどう考えても荷が重すぎる管理画面からはそれらの操作が簡単に行えるのでむしろそちらの表示を限定するほうが近道かもしれない

本の紹介と日記アクティヴィティを備えたサイトを複数ユーザで運用する意義は何か例えば随筆を投稿したり編集会議をしたり日常について語ったり情報やアイディアを共有したりできる古今東西の名作にまじえて自主刊行物を紹介すれば書店の棚づくりのように読書の文脈を付与できる紹介記事をまとめれば自主刊行物を紹介する本をつくれるタグを付与すれば自動的に特集ページが生成されるので販促にも使える副次的に交流が派生する余地は残しつつもそれを前提としないあくまで最終目的は出版だ管理画面に遷移せずフロントエンドだけでという理想以外は実現した有益な仕組みに思えるがなぜ悪意の標的にされたのか

インターネットで商売するひとびとにとっては著者や読者に主体性を獲得されては不都合なのだろう縄張りを荒らされたように受けとられたのだそうした権威におもねるのがこの国のセルフパブリッシングだったコミケ文化の延長でありムラ社会的な世渡りを楽しむゲームでしかなかったそこでは読むこと書くことも出版もご近所づきあいや世渡りの手段にすぎず声の大きな人物に従うことが責任として語られる彼らの風習がどうあれ自由とは責任を負う権利であって主体的なものだその権利を憎むひとびとからは距離を置きたい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。