D.I.Y.出版日誌

連載第60回: サヴァンなき出版

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
07.07Fri

サヴァンなき出版

発達障害は遺伝エラーによる脳の不具合であって育て方のせいではありませんそれでも本人がほしがった場合は他人と同じ玩具を与えたほうがいいでしょうさもなければ世間にますます適応できなくなります2歳の頃裏にマグネットのついたプラスティックのひらがなの玩具が好きでした両親も定型発達者ではなかったのでゲームやアニメグッズは許されず教育玩具のようなものを与えられたのですひらがなの玩具はひと文字ずつしかなくかぎられた言葉しかつくれませんでした自由に組み合わせられる無限の文字がほしかったものです長いときが過ぎた今キーを叩けば文字は無限に現れますスクリーン上でいくらでも言葉をつくれます

サーバ移転とサイトの模様替えが終わり大きくいじることは当分ありませんそろそろ次の本に取りかかりたいとずっと考えていますだれも招かない部屋の家具に凝るようなものですインテリアには本文の意味もあると最近知りました)。 定型発達者が当然とする複雑さに耐えられないのであれば好きなものや必要なものだけで生きればいいのですその事実に気づいて多少は楽になりました職があって飲み仲間がひとりいれば充分部屋にはなるべくモノを置きません掃除機もガステーブルも食器も棄てました若き日のルー・リードの部屋にはギターとベッドしかなかったそうですたしかバロウズの部屋だったかタイプライターを載せた机と椅子ベッドのほかには天井の配管にスーツが吊されただけの写真を見た憶えがあります

なぜ現代人は嗜好性を排除するのでしょう好みよりも優先すべきことがあるのでしょうかランキングや関連商品の表示はたまたま巻き込んだ塵が芯となって巨大化するさまを見せつけられるかのようですAmazon は膨大な商品からアルゴリズムで機械的に選び出して表示します嗜好を無駄とみなして切り棄て反射的なクリックの誘発で効率を高めます個別の事情はひとを孤立させますその孤立を通じてひとは自らや他者を知りますしかしだれも己だろうが他者だろうが生存や生活を困難にしてまで知りたくはありません現代では孤立は死を意味しますだから自らを排除するアルゴリズムにおもねって最適化されようとします風潮に抗いいいものを読んだり出版したりしたいと願うのであれば別の場をつくるしかないでしょう


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。