D.I.Y.出版日誌

連載第59回: 伝え広める

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
07.02Sun

伝え広める

youtube のサジェストは優秀で訪れるたびに好みの音楽を教えてくれますGoogle のサービスだけあってアルゴリズムが興味・関心を重視するおかげですしかしコンテンツがなければ出逢いもありません音楽好きの目利きによる違法アップロードのおかげだと気づきましたよく見られる気に入ったら買ってアーティストを支援して!という文言は権利者からすれば盗っ人猛々しいというところでしょうしかし実際 youtube で全曲試聴して気に入ったら購入したり Spotify月額 980 円は安すぎます五千円くらいでもいいので権利者にちゃんと還元してほしいですで聴いたりしています違法行為をしてまで魅力を伝え広めようとする目利きがいなければそれらの音楽との出逢いはありませんでした

映画は最近 iTunes で観ていますハッピーオフされるまでは Hulu でも愉しんでいましたここでの作品との出逢いにはふたつの道筋がありますまずトップ画面の UI と公式の目利きが機能していますそれから映画については twitter や個人ブログが作品を発掘し周知するのに役立っていますつまり公式・非公式の目利きがともに機能しているのです音楽の場合だとまずは Bandcamp がありyoutube の非公式目利きによる違法アップロードがありアルゴリズムが適切に縁を結びます映画だと iTunes の公式目利きがあり個人ブログやソーシャルの評判があって二時間を視聴に費やそうと決めますところが Kindle にあるのは小遣い目当てのアフィリエイトと経済効率のみのランキングや機械的なサジェストだけです営利企業なのだから効率と利益を最大化するのは当然ですしかし消費者は機械ではありません一時的には莫大な利益を稼ぎ出していても人間性を軽視しつづければ顧客はいずれ離れていくでしょう

映画と音楽では話題作が自宅で愉しめるようになるまでが早いというのもあります音楽は発売日当日に iTunes や Spotify で愉しめます過去作の発掘は個人の目利きがやってくれて入口は違法アップロードであってもその先の導線は iTunes や Spotify につながっています品物が揃っていて買い逃しがないからです映画は twitter で知り個人ブログの評判で期待を高め存在を忘れないうちに iTunes でレンタルできますところが本では購入へ至る導線がそもそも充分に考えられていません目利きのいる書店に気軽に通えるのであれば、 「そこでたまたま出逢った本を買うという体験も含めて読書を愉しみます残念ながら魅力ある棚づくりをしている店は少ないしあっても遠くて通えませんここ数年の早川書房の新刊であればFacebook ページで知って関心をもちtwitter や個人ブログで評判を調べてKindle ですぐに買って読めますしかしそのような例は稀です

読書においてストアが出逢いの場として機能しない理由は人間性軽視のアルゴリズムだけではありません。 「公式・非公式ともに目利きが機能していないもしくは存在しない)」 「ほしいときに買えないあるいはそもそも存在しない)」 の2点も大きいです後者は権利が絡んでひと筋縄ではいかないでしょう消費者として行動できるのは後者ですわれわれ自身が目利きになって購入への導線をつくらなければなりませんよい本は積極的に伝え広めましょうBandcamp のような支援コミュニティをつくるのもひとつの方法です。 「目利きとは独自の視点ですひとそれぞれの事情に立ってその視点から物事を捉える営みですこの国は現状だれもが同じでなければいけないという強迫観念に支配されていますアルゴリズムは消費者が望むように発展します変えるなら今がそのときです


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。