D.I.Y.出版日誌

連載第57回: 焦土と言葉

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
06.25Sun

焦土と言葉

読書を好むひとは少なく市場は限られますしたがって普段は本に関心がないその他大勢に買わせたほうがより大きな利益を効率よく得られますAmazon はその方向でのみアルゴリズムを発展させますもしも本好きに訴えるほうが利益と効率を最大化できるのであれば彼らはそうします本の魅力を伝え視点や文脈を提示する棚づくりをアルゴリズムで実現するでしょう実際には彼らはその道を選びません株取引の瞬間暴落のようなことが読書の世界でもいずれ起きます市場がそれを乗り越えたあともアルゴリズムは水面下で暴走しつづけるでしょう

違いには学習コストがかかります異なるものを知ろう理解しようと努めることで自分を知り理解する体験が読書にはありますあるいは自分を知り理解しようと努めることで他者を受け入れる体験です読書を愛さないひとにその労力は厭われますだから Amazon 的なアルゴリズムがランキングに露出させサジェストする本はどれも必然的に似通います即時的に最多のクリックを引き起こすのが彼らにとって絶対的な正義です効率よく最大の利益を稼ぎ出せればいいので商品が人間の心にどのような作用を及ぼそうが構いませんむしろ何らかの作用を及ぼす商品はひとを選ぶので売りにくいのです

効率の純度が極限まで高められたとき本は人間には理解できないものになるでしょう高度に発達したアルゴリズムによってのみ消費されうる商品となりますゲームの攻略ツールのような効率的に利益を最大化する商材ばかりが売場に並び読みたい本が見つからないストアに残るのはゴミで商売する世渡り上手と実社会やソーシャルメディアにおける取り巻きだけ彼らが Amazon 的アルゴリズムをさらに肥らせますそのようにして瞬間暴落とその後の永遠の平和——人類が疎外されアルゴリズムだけが読書をする世界——が訪れます

米国では若者が電子書籍よりも印刷本を好むようになりつつあるそうです貧しい若者は安い商品を選ぶでしょうすると粗悪な商品に出くわす率が高まります地元の書店で売っている本のほうが愉しめると気づく者が現れるかもしれませんその店のその棚だけにある魔法に気づく若者が世界中の何もかもが同じになるよりはだれかひとりくらいは違うことをやっていたほうがいい焦土が広がる未来地元書店の焼け跡でその若者はどんな言葉を書き刷るのでしょうだれにも届かないと知っていても彼はそうするに違いありません


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。