読書を好むひとは少なく市場は限られます。 したがって普段は本に関心がない 「その他大勢」 に買わせたほうが、 より大きな利益を効率よく得られます。 Amazon はその方向でのみアルゴリズムを発展させます。 もしも本好きに訴えるほうが利益と効率を最大化できるのであれば、 彼らはそうします。 本の魅力を伝え、 視点や文脈を提示する棚づくりをアルゴリズムで実現するでしょう。 実際には彼らはその道を選びません。 株取引の瞬間暴落のようなことが読書の世界でもいずれ起きます。 市場がそれを乗り越えたあともアルゴリズムは水面下で暴走しつづけるでしょう。
違いには学習コストがかかります。 異なるものを知ろう、 理解しようと努めることで自分を知り、 理解する体験が読書にはあります。 あるいは自分を知り、 理解しようと努めることで他者を受け入れる体験です。 読書を愛さないひとにその労力は厭われます。 だから Amazon 的なアルゴリズムがランキングに露出させサジェストする本はどれも必然的に似通います。 即時的に最多のクリックを引き起こすのが、 彼らにとって絶対的な正義です。 効率よく最大の利益を稼ぎ出せればいいので、 商品が人間の心にどのような作用を及ぼそうが構いません。 むしろ何らかの作用を及ぼす商品はひとを選ぶので売りにくいのです。
効率の純度が極限まで高められたとき、 本は、 人間には理解できないものになるでしょう。 高度に発達したアルゴリズムによってのみ消費されうる商品となります。 ゲームの攻略ツールのような、 効率的に利益を最大化する商材ばかりが売場に並び、 読みたい本が見つからない。 ストアに残るのはゴミで商売する世渡り上手と、 実社会やソーシャルメディアにおける取り巻きだけ。 彼らが Amazon 的アルゴリズムをさらに肥らせます。 そのようにして瞬間暴落と、 その後の永遠の平和——人類が疎外され、 アルゴリズムだけが読書をする世界——が訪れます。
米国では若者が電子書籍よりも印刷本を好むようになりつつあるそうです。 貧しい若者は安い商品を選ぶでしょう。 すると粗悪な商品に出くわす率が高まります。 地元の書店で売っている本のほうが愉しめる、 と気づく者が現れるかもしれません。 その店のその棚だけにある魔法に気づく若者が。 世界中の何もかもが同じになるよりは、 だれかひとりくらいは違うことをやっていたほうがいい。 焦土が広がる未来、 地元書店の焼け跡でその若者はどんな言葉を書き、 刷るのでしょう。 だれにも届かないと知っていても彼はそうするに違いありません。