D.I.Y.出版日誌

連載第56回: 備える

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
06.24Sat

備える

Google アナリティクスは性別をどうやって調べているのか不思議です関心分野から割り出しているという説明を読んだこともありますが彼らのやることにしては雑すぎますそんなことで性別は推測できませんおそらく家庭向け体脂肪計のように行動から統計的な近似値を割り出しているのでしょうだとしたら単に閲覧履歴の追跡を許可するだけではなく積極的に情報を提供する被験者が世界のどこかにいるはずです統計の取り方によって近似値と実態の誤差は大きくなるでしょうローカライズをどの程度やるかによっても変わりそうです

企業であれ国家であれ個人情報をあたかも神の御業のように正しく知り理解するのであれば怖くはありませんたとえば確かにわたしは尊敬や友情に値する人間とはいえませんしかし社会に大きな危害を及ぼす能力もありません適切に評価されたら不利益を被ることはないでしょう海辺を散歩しながら与謝野晶子の詩集に線を引いたという情報で少女が逮捕されるのは危険性の評価が不適切だからです情報収集そのものではなく扱いが問題なのですあいにく企業も国家も神ではありませんだれがそのように取り違えようとも

アルゴリズムに評価の仕方や評価を学んで発展させる方法を教えるのは人間です——少なくとも当分のあいだは当然ですが人間はあらかじめ知っていることしか知り得ません足りない情報は経験からの推測すなわち統計的な近似値で埋めようとしますしかしその統計は非常に局所的で限られたもので近似値を割り出す仕組みも精確ではありませんわたしたち生身の人間は、 「あらかじめ知っていることしか知り得ないという制約からはどうしても逃れられないのですアルゴリズムが自律的な進化を重ね神のような世代へ到達することは現代に暮らすわたしたちの存命中には難しいでしょう

当時の国家は本を読む少女を畏れましただれもがそのように言葉を伝え合い自分で考えるようになれば確かに彼らには不利益だったでしょうそれこそ一般人ではない」 「共謀という評価になったに違いありませんその扱いが誤りだったことは歴史が証明していますただ当たり前に暮らしているだけのひとびとから個人情報を集めるのは容易な時代ですそしてまた一般人ではない」 「テロに備えるとはもっともな理屈ですしかしそれらの言葉が何をどう扱うかは注意して対処していかねばなりません


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。