D.I.Y.出版日誌

連載第53回: 移る

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
06.20Tue

移る

誕生日の翌日、桜桃忌にサーバを移転しました。 42 年間でやったことのうちでいちばん気に入っています。小説はうまくなれなかったけれどもこのサイトだけは進歩がありました。やはり mixhost に移転してよかった。キャッシュを使わなくても高速だし、 LiteSpeed なる推奨プラグインを使えばさらに高速になります。 W3 Total Cache には長いこと世話になりましたが消去が反映されるまで非常に待たされました。 LiteSpeed は一瞬です。プラグインではなくサーバの性能がいいからかもしれません。必要な作業がすべてわかりやすく説明されていて、 SSL の導入もあっけないほど簡単でした。はじめて WP を導入したとき、参照した情報がよくなかったので、おかしなディレクトリにインストールしてしまったのですが、それも追加料金なしで直してもらえました。不具合いっさいなし。何よりサポートが懇切丁寧なのに感動しました。五千円以下で移転作業をすべて代行してもらえた上に、しつこい質問に快く何度でも即答してくれました。ここまで親切なサポートは日本では珍しいと思います。逆に悪い例ならいくらでも挙げられます。これまで使っていた某社など、どのサービスでも厭がらせで問合せを撃退する方針があからさまでした。肝心のサービス品質も、いくら「安かろう悪かろう」でもせめてもう少しどうにかならないのか、と驚き呆れるばかりでした。 mixhost はまだ歴史が浅く、利用者が少ないので高速なのかもしれませんが、もし仮にそうだとしてもサポート品質がこれほど高ければ文句はありません。大ファンになりました。

手篤い代行サービスのおかげで移転そのものはうまくいきましたが、旧サーバの劣悪な品質をごまかす対策の撤廃や、はじめての SSL 導入などによる影響はありました。たとえば PageSpeed Insights の数値は一桁に落ちました。得点を上げるためのプラグインやブラウザキャッシュをやめたからです。 JS の圧縮はヒーローヘッダのカルーセルが動かなくなりますし、ブラウザキャッシュは CSS の更新が反映されなくなります。 CSS と HTML の minify だけ試しましたが得点は変わりませんでした。 retina で美しく見えるように巨大な画像を多用したのが響いています。これもどうにもなりません。体感速度が良好なので余計なことはしないことにしました。 SSL 化の影響としては、一部の記事でサイト証明書がどうとかで識別情報がどうとか、という警告が出ました。原因は URL を記述することで自動的に埋め込まれるブログカードでした。 WordPress 標準の埋め込みカードは使わないほうがいいかもしれません。また今回はネームサーバの変更にも戸惑わされました。実際には反映されていて、 iPhone からは新サーバにつながるのに mac からは旧サーバになります。それも Chrome からだと一度は正しくつながり、ログインしようとすると旧サーバに転送されるというわけのわからない状況でした。 mac の DNS キャッシュを消去したら正常に接続できました。 HTTP Strict Transport Security なるものを htaccess に設定し、 hstspreload.appspot.com なるサイトで登録をして無事に完了。

アイキャッチと要約文を自動的に反映させるために、 All in One SEO の代替として OGP を手動で設定しました。そのため固定ページがすべて同じように表示されるようになりました。本の紹介がうまく表示できないので改善したいです。共有ボタンは悩んだあげく設置しました。ソーシャルの文脈に寄りかかって成立するものは自分には向きません。文章は単独で完結させたいのです。サブテクストはなるべく外部に置きたいのでコメント欄は設置しません。でも掲示板くらいならあってもいいかもしれないと考えています。これまで試したプラグインはどれもしっくりきませんでした。 BuddyPress の標準機能はグループもスレッドも余計。 bbpress はスレッドが余計。トピックだけで充分です。ある程度だれでも書き込めるのが望ましいとはいえ、通りすがりの書き棄てごめんにしてしまうと悪意の掃きだめになります。レーベルの会議室として実現するなら承認メンバーだけで使えればよいのですが、感想を書き込む場所にするのであれば、うーん、 Facebook ログインかなぁ。 twitter のほうがカジュアルですがセキュリティ的に苦い経験があります。今回は採用を見送りました。移転を完了し、ネームサーバの変更も浸透したところで、遠ざかっていた読書に戻りました。

『すべての見えない光』をようやく読み終えました。緻密な構造で見えにくくなってはいますが一種のお宝争奪戦ものとも考えられます。思いのほかベタなエンタメ要素が盛り込まれていて、病に冒された悪役とか妙に既視感がある感じ。情景を積み重ねた塔のような語り口がいかにも短編作家の長編だなと思いました。エピローグは余計じゃないでしょうか。対戦ゲームや twitter もまた利用者によっては「見えない光」だからです。われわれが小説を読み、書く理由は手紙を瓶に詰めて海に流すようなもので、見知らぬだれかに届くかもしれないし届かないかもしれない。そういう営みにひとは生かされるのだという話でした。であればそれはひとによっては対戦ゲームであるかもしれない。何もあんなふうに浅薄なやり方でこき下ろさなくてもいいだろう、せっかくいい小説だったのに最後の最後で、ちょっと興ざめだな⋯⋯と思いました。作品全体としては傑作で、長く想い出に残る一冊になりそうです。他人と関わるのをやめたおかげで今年は悪くない誕生日を過ごせました。


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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