書写という趣味

連載第11回: アートとしての文字

アバター画像書いた人: 28(にわ)
2023.
10.10Tue
書写
文章は洋書de書写(@yousho_shosha)から.用紙はLIFEの便箋.万年筆はAURORAのイプシロン.

アートとしての文字

以前述べたように小中学校での書写書道はあくまで硬筆を基本としたものだった毛筆を使った書道もその筆使い・筆の運びから硬筆での文字の書き方を理解するためのものであるしかし高校で選択する書道は芸術科目毛筆で字を書くことをアートとして捉えるNHK 高校講座の書道Ⅰ現役高校生はもとよりわたしたち一般人もアートとしての書道を学ぶことができる入門として最適だ

文字は基本的に情報を伝達するためのツールであるそして人に書かれることで文字は形成され変化もしてきた文書を複写するのに長い間ひとの手を使ってきたからだ漢字の書体でいうと隷書の速書き・簡略化から草書が生まれ同じく隷書の簡略化から行書・楷書が生まれているまた日本では明治 33 年以降それまで使われてきていた変体仮名を義務教育で扱わなくなったひらがなの字体が一音一文字に統一されたからだ

現代ではすべての日本人が草書・変体仮名を読めるわけではなくなってしまったこれらの文字は可読性が低くなったために情報を伝達するためのツールというよりもデザインとしての文字という認識が強くなったそして、 「デザインとしての文字は装飾やアートになりやすい

日常的に手書きする文字でもわたしたちは整った字そのものや文章になった文字の全体のバランスがよかったときそれらを美しいと感じるしかしわたしたちは日常の手書きをアートにしているわけでは当然ない

可読性・視認性を高める技術が文字の形を整えさせ人はそこにバランスの良さを見る可読性・視認性を高めるということは自分が読めればいい・わかればいいという態度ではなく他人のために書いているという態度が必要になる読んでもらうこと理解してもらうことという意識が書き手には必要だ日常生活において文字はあくまで伝達するためのツールなのだからそれでもわたしたちは日々目にする文字を判別してそれが整っていれば美しいと感じたりする

たとえアートや芸術ではなくてもわたしたちは毎日の生活のなかでそうやって美を感じることがある柳宗悦らは日常使いの雑器の素朴さを民藝と称したが文字の美しさはそれともまた少し違う日常的に書かれる文字でも素朴な字か流麗な字かは書く人間によって変わる

また文字は文字としての形の美しさ書かれた内容という二つの面を持っている音楽や絵画に比べて文字は書かれた内容を読むことで表現が理解しやすくなるという面がある

字を書くことはほとんどの人ができることであるそして芸術というのは何かを表現することであり表現するためには技術・テクニックが必要だ文字をアートとして表現しようとするとき使う紙筆記具の種類墨やインク文字をどう配置するか題材である文章に何を選ぶかまですべてを考えなければならないそのうえで自分の書く字をどう見せるかという技術が必要となる

さてそれでは趣味でわたしが書いている書写はアートだろうかそれともそうではないのだろうか

日常的に使うメモでも伝達のための文章でもなくしかしときどき SNS に投稿するのは他者の目を気にしているようにも見えるさりとてアートというほど文字の表現にこだわっているわけでもない書かれた字は手習いの域を出ないからだ

自分自身が納得できるきれいな文字が書きたいという欲はコツを掴み練習時間を重ねればある程度満たすことができる書写は私にとってアートではなく文字を美しく書くための技術を磨く場所なのである

使った文房具

なめらかでインクの裏写りもしないから万年筆との相性がよい便箋

あまり見ないイエローの軸が気に入って買った 1 本書き味も良くて好き

色彩雫のなかでも好きな色のひとつ透明軸の万年筆に入れるとよりきれいに見える気がする


遠つ人。日常+ 読書。Huginn(思考)とMuninn(記憶)