こんな話だけはこの美しいサイトに書いてはいけないという話をあえて書く。 実は以前某所に書いたもののリライトで、 これだけは読んでほしくないと思っていたシロモノだ。 なぜそんなことをするかといえば、 あなたに笑ってほしいからだ。 このサイトに寄稿させて頂くからには、 それにふさわしい素晴らしい文章を書きたいのに、 今の私にはこんな愚かな駄文しか書けない。 何も考えていないわけではないのだが、 真剣な文章がいますぐには書けない。 ただただ道化になることしかできない。 申し訳ない。 でも、 道化として今できる精一杯をつくした。 笑ってもらえたら。 あなたの気分をちょっぴりでもよくできたら。
私はお腹が弱いのだが、 お腹が弱い話というのは結構おしゃべりのネタとしてはウケがいい。 たぶん誰もが同じような目にあったことがあるから分かりやすいのだろう。 あとギックリ腰の話題も一定の年齢を超えてから急にウケがよくなる。 これも若い頃なら全然ピンとこなかったのが、 自分が年を取って経験したり、 友達が酷い目にあって次は自分かと怯えるようになったりすると、 現実味を帯びて面白くなってくる。
私はギックリ腰の話は 「植木鉢を移動しようとしただけで腰がギックリして丸一日四つん這いで過ごした」 という地味なネタしか持っていないのだが、 腹壊しネタは結構なものがいくつかある。 お腹が弱く大抵の腹痛では動じない私が 「こ、 これは命に関わるかもしれない」 と思ったレベルの強烈な食あたりの話だ。 あれは本当に酷かった。 二度と経験したくない。
その悲劇の原因は、 ひとえに私のだらしなさ及び私の部屋の汚さによる。 以下の駄文は完全な自業自得の話である。
実家暮らしの私の自室は酷く散らかっている。 ドアを開閉するためのスペースだけちょっと床が空いていて、 他の部分はすべて物が積み上げられている。 主に脱ぎ散らかした洋服と洗濯済みの洋服と本と本とマンガと本と食いかけの徳用煎餅の袋なんかが積み上がっている。
そんな部屋でどうやって暮らしているのかと言えば、 ドアを開けて入ったら物をまたいでベッドの上に乗り、 そこでずっと過ごしている。 テレビでたまにゴミ屋敷のドキュメンタリーを見ると、 私の部屋もこんなんだわと思う。 ちなみにさすがに家の共用スペースはちゃんと綺麗にしている。 自分の部屋だけだ。 共用スペースは散らかすと迷惑だが自分の部屋なら自分にしか迷惑がかからないという理屈である。
いや、 分かっているのだ本人も。 こんな部屋ではいけない、 片付けなければいけないと。 次の休みの日にはやろう。 仕事の繁忙期が落ち着いたらやろう。 そう思って先伸ばしにしていると、 モノはますます堆積していく。 たまにちょっと片付けたところで、 散らかすスピードが速いのですぐに元に戻ってしまう。
ネットのどこかで読んだゴミ屋敷清掃の話で、 ゴミ屋敷からも未使用のゴミ袋などが何枚も出てきて片付けようとした形跡が見られるというのがあった。 私はそういう屋敷の主の気持ちが分かる。 片付ける気は本人にもあるのだ。 家に帰るたび、 朝目覚めるたび、 「あぁ部屋を片付けなきゃなぁ」 と思う。
なのに、 できない。 時間が足りない。 本や雑貨などの細かい買い物でしか気持ちが満たされない。 モノを捨てられない。 整理整頓が苦手。 片付けても片付けてもいつまで経っても終わらない。
そんなわけで、 いつかはちゃんと部屋の隅から隅まで綺麗に片付けるつもりで仕方なく酷い部屋で暮らしている。 たまに実印が見当たらなかったりパスポートが見当たらなかったり間違って買った T バックのパンツが見当たらなかったりして青ざめることもあるが、 おぼろげな記憶を頼りに堆積物をかき分ければ大体出てくるので、 今のところなんとか大事には至っていない。
ちなみに T バックのパンツは自分の部屋のドアの前に落ちていた。 たぶん親に見られた。 違うんだ! アレはドンキホーテで三枚組のパンツを買ったらそのうち二枚が T で、 履けやしないから放っぽっといたんだ! と言いたかったが何も聞かれなかったので言えなかった。
⋯⋯という汚い部屋で、 ある夜、 私は寝ていた。
丑三つ時も過ぎた頃だったと思う。 ふと喉の乾きを覚えて目が覚めた。 たぶん大口を開けていびきでもかいていたからだろう。
何か飲みたくなった。 実は、 こんな時に汚部屋というものは便利なものなのである。 つい五時間くらい前に飲んでいたペットボトルのジャスミンティーが、 ベットと同じ高さに積まれたガラクタの上に転がっているからだ。 何か飲みたくなったらすぐ飲めるのだ。
私は電気も点けずに、 さっきペットボトルを放っておいた辺りをまさぐった。 おぉあったあった。 程よく室温になったジャスミンティーの芳香で喉を潤しつつ再び眠りにつくとしよう。 ペットボトルのフタを開けて、 一口がぶっと飲んだ。
沼の味がした。
お前は沼の水なんか飲んだことがあるのかと問われれば答えは否だ。 いやしかし、 そういうものを飲んだら絶対にああいう味がすると思う。 生臭いというか土臭いというか、 澱んだ水の臭いというか味。 田舎のドブ川の近くを通ると臭うのと同じ臭いを味に変換したものが私の口の中を通り喉を流れていった。
これは飲んじゃいけないものだ! と舌が感知した時には、 すでに一口分を飲み込んだ後だった。
何が起きたのかはすぐに分かった。 たぶん、 相当前に飲みかけて放置して忘れていたペットボトルを間違って取ってしまったのだ。
ちょうどその頃、 口臭が防げる気がして狂ったようにジャスミンティーばかり飲んでいたので、 ペットボトルの形状も薄明かりで目に入ったラベルも同じで、 古いものだと気づけなかった。 普段なら新しいペットボトルは積まれたガラクタの一番上にあるはずなのだが、 何かの拍子に堆積物の地殻変動が起こって、 埋もれていた古いペットボトルが上にきてしまっていたらしい。
それまでの私はペットボトルのお茶は二日三日常温で放置したくらいなら全然飲めた。 日常的にしょっちゅう飲んでいた。 が、 このとき私が口にしたものは、 そういう短期間の熟成ではとても醸し出せないような豊潤な泥臭さに満ちていた。 絶対に開封して放置してから一ヶ月以上は経過していたはずだ。
飲んでしまったものは仕方がない。 吐くことができなかったので軽く口をゆすいで、 また寝た。 私は頑丈なブスだからこれくらい何ともないさ。 泥水状態に発酵したジャスミンティーを飲んじゃうなんていい話のネタができたな、 くらいの気持ちでベッドに横になるとすぐに眠りに落ちた。
⋯⋯すさまじい腹痛で再び起きたのは、 その約一時間後のことだった。
トイレに駆け込んだ。
上から出したのと下から出したのと、 どっちが先だったか覚えていない。 とにかく、 どっちからもたくさんでた。 食道から大腸までのすべての消化器系が、 入れてしまったヤバいものを出すべくフル稼働している感じだった。
絶え間ない嘔吐感と腹痛に攻められ、 便器の上で次はどっちを出すか悩んだ。 私がヨガマスターだったら、 洋式便器の上で両足を首にかけるポーズをして上下同時に出すという荒業で難を逃れることができただろうに、 そうでないのが残念すぎた。 痛きもちわる苦しすぎて、 血の気が引いて倒れるかと思った。
どのタイミングで救急車を呼んだものか⋯⋯というところまでいったが、 とりあえず出すものを出しきると何とか動けるようになり、 トイレから脱出することができた。 体が本調子に戻るまでには数日を要した。
このトラウマのお陰で、 私は開封して半日以上経ったペットボトル飲料を飲むことができなくなってしまった⋯⋯。
後で飲んでしまったペットボトルの中身を見てみたところ、 ジャスミンティーの色が麦茶並みに濃くなっていた。 飲みかけのお茶は放置するとどんどん色が濃くなっていくのだというどうでもいい知識をこの件で得た。 ちなみに麦茶を放置すると烏龍茶色に、 烏龍茶を放置すると黒烏龍茶色になる。 この目で見た私が言うんだから間違いない。 なにしろこの一件のあと、 部屋にあるペットボトルだけでも片付けようと思って堆積物を掘り起こしたら、 そういう色の液体の入ったペットボトルが何本も何本も出てきたからっ⋯⋯!
というわけで、 経験者として声を大にして申し上げたい。
開封して時間が経って麦茶色に染まったジャスミンティーは、 絶対に飲んではいけませんよ!
あと私が持っている凄い腹痛ネタは 「父が常温で食卓に二時間放置した生ガキを全部たいらげ夜中にしにそうになったのに翌日無理やり出勤してお昼休みに病院に駆け込むハメになり診察が終わってから治った気がして濃厚チャーシューたぬきうどんを食べて己の食欲と愚かさ故にさらに苦しんだ⋯⋯」 なのですが、 生ガキは熟成ジャスミンティーの三倍くらいヤバいので、 皆さん本当にお気をつけください!