夜の雑記帖

連載第36回: 大変尾籠な話

アバター画像書いた人: 一夜文庫
2023.
10.05Thu

大変尾籠な話

こんな話だけはこの美しいサイトに書いてはいけないという話をあえて書く実は以前某所に書いたもののリライトでこれだけは読んでほしくないと思っていたシロモノだなぜそんなことをするかといえばあなたに笑ってほしいからだこのサイトに寄稿させて頂くからにはそれにふさわしい素晴らしい文章を書きたいのに今の私にはこんな愚かな駄文しか書けない何も考えていないわけではないのだが真剣な文章がいますぐには書けないただただ道化になることしかできない申し訳ないでも道化として今できる精一杯をつくした笑ってもらえたらあなたの気分をちょっぴりでもよくできたら

私はお腹が弱いのだがお腹が弱い話というのは結構おしゃべりのネタとしてはウケがいいたぶん誰もが同じような目にあったことがあるから分かりやすいのだろうあとギックリ腰の話題も一定の年齢を超えてから急にウケがよくなるこれも若い頃なら全然ピンとこなかったのが自分が年を取って経験したり友達が酷い目にあって次は自分かと怯えるようになったりすると現実味を帯びて面白くなってくる

私はギックリ腰の話は植木鉢を移動しようとしただけで腰がギックリして丸一日四つん這いで過ごしたという地味なネタしか持っていないのだが腹壊しネタは結構なものがいくつかあるお腹が弱く大抵の腹痛では動じない私がこれは命に関わるかもしれないと思ったレベルの強烈な食あたりの話だあれは本当に酷かった二度と経験したくない

その悲劇の原因はひとえに私のだらしなさ及び私の部屋の汚さによる以下の駄文は完全な自業自得の話である

実家暮らしの私の自室は酷く散らかっているドアを開閉するためのスペースだけちょっと床が空いていて他の部分はすべて物が積み上げられている主に脱ぎ散らかした洋服と洗濯済みの洋服と本と本とマンガと本と食いかけの徳用煎餅の袋なんかが積み上がっている

そんな部屋でどうやって暮らしているのかと言えばドアを開けて入ったら物をまたいでベッドの上に乗りそこでずっと過ごしているテレビでたまにゴミ屋敷のドキュメンタリーを見ると私の部屋もこんなんだわと思うちなみにさすがに家の共用スペースはちゃんと綺麗にしている自分の部屋だけだ共用スペースは散らかすと迷惑だが自分の部屋なら自分にしか迷惑がかからないという理屈である

いや分かっているのだ本人もこんな部屋ではいけない片付けなければいけないと次の休みの日にはやろう仕事の繁忙期が落ち着いたらやろうそう思って先伸ばしにしているとモノはますます堆積していくたまにちょっと片付けたところで散らかすスピードが速いのですぐに元に戻ってしまう

ネットのどこかで読んだゴミ屋敷清掃の話でゴミ屋敷からも未使用のゴミ袋などが何枚も出てきて片付けようとした形跡が見られるというのがあった私はそういう屋敷の主の気持ちが分かる片付ける気は本人にもあるのだ家に帰るたび朝目覚めるたび、 「あぁ部屋を片付けなきゃなぁと思う

なのにできない時間が足りない本や雑貨などの細かい買い物でしか気持ちが満たされないモノを捨てられない整理整頓が苦手片付けても片付けてもいつまで経っても終わらない

そんなわけでいつかはちゃんと部屋の隅から隅まで綺麗に片付けるつもりで仕方なく酷い部屋で暮らしているたまに実印が見当たらなかったりパスポートが見当たらなかったり間違って買った T バックのパンツが見当たらなかったりして青ざめることもあるがおぼろげな記憶を頼りに堆積物をかき分ければ大体出てくるので今のところなんとか大事には至っていない

ちなみに T バックのパンツは自分の部屋のドアの前に落ちていたたぶん親に見られた違うんだ! アレはドンキホーテで三枚組のパンツを買ったらそのうち二枚が T で履けやしないから放っぽっといたんだ! と言いたかったが何も聞かれなかったので言えなかった

⋯⋯という汚い部屋である夜私は寝ていた

丑三つ時も過ぎた頃だったと思うふと喉の乾きを覚えて目が覚めたたぶん大口を開けていびきでもかいていたからだろう

何か飲みたくなった実はこんな時に汚部屋というものは便利なものなのであるつい五時間くらい前に飲んでいたペットボトルのジャスミンティーがベットと同じ高さに積まれたガラクタの上に転がっているからだ何か飲みたくなったらすぐ飲めるのだ

私は電気も点けずにさっきペットボトルを放っておいた辺りをまさぐったおぉあったあった程よく室温になったジャスミンティーの芳香で喉を潤しつつ再び眠りにつくとしようペットボトルのフタを開けて一口がぶっと飲んだ

沼の味がした

お前は沼の水なんか飲んだことがあるのかと問われれば答えは否だいやしかしそういうものを飲んだら絶対にああいう味がすると思う生臭いというか土臭いというか澱んだ水の臭いというか味田舎のドブ川の近くを通ると臭うのと同じ臭いを味に変換したものが私の口の中を通り喉を流れていった

これは飲んじゃいけないものだ! と舌が感知した時にはすでに一口分を飲み込んだ後だった

何が起きたのかはすぐに分かったたぶん相当前に飲みかけて放置して忘れていたペットボトルを間違って取ってしまったのだ

ちょうどその頃口臭が防げる気がして狂ったようにジャスミンティーばかり飲んでいたのでペットボトルの形状も薄明かりで目に入ったラベルも同じで古いものだと気づけなかった普段なら新しいペットボトルは積まれたガラクタの一番上にあるはずなのだが何かの拍子に堆積物の地殻変動が起こって埋もれていた古いペットボトルが上にきてしまっていたらしい

それまでの私はペットボトルのお茶は二日三日常温で放置したくらいなら全然飲めた日常的にしょっちゅう飲んでいたこのとき私が口にしたものはそういう短期間の熟成ではとても醸し出せないような豊潤な泥臭さに満ちていた絶対に開封して放置してから一ヶ月以上は経過していたはずだ

飲んでしまったものは仕方がない吐くことができなかったので軽く口をゆすいでまた寝た私は頑丈なブスだからこれくらい何ともないさ泥水状態に発酵したジャスミンティーを飲んじゃうなんていい話のネタができたなくらいの気持ちでベッドに横になるとすぐに眠りに落ちた

⋯⋯すさまじい腹痛で再び起きたのはその約一時間後のことだった

トイレに駆け込んだ

上から出したのと下から出したのとどっちが先だったか覚えていないとにかくどっちからもたくさんでた食道から大腸までのすべての消化器系が入れてしまったヤバいものを出すべくフル稼働している感じだった

絶え間ない嘔吐感と腹痛に攻められ便器の上で次はどっちを出すか悩んだ私がヨガマスターだったら洋式便器の上で両足を首にかけるポーズをして上下同時に出すという荒業で難を逃れることができただろうにそうでないのが残念すぎた痛きもちわる苦しすぎて血の気が引いて倒れるかと思った

どのタイミングで救急車を呼んだものか⋯⋯というところまでいったがとりあえず出すものを出しきると何とか動けるようになりトイレから脱出することができた体が本調子に戻るまでには数日を要した

このトラウマのお陰で私は開封して半日以上経ったペットボトル飲料を飲むことができなくなってしまった⋯⋯

後で飲んでしまったペットボトルの中身を見てみたところジャスミンティーの色が麦茶並みに濃くなっていた飲みかけのお茶は放置するとどんどん色が濃くなっていくのだというどうでもいい知識をこの件で得たちなみに麦茶を放置すると烏龍茶色に烏龍茶を放置すると黒烏龍茶色になるこの目で見た私が言うんだから間違いないなにしろこの一件のあと部屋にあるペットボトルだけでも片付けようと思って堆積物を掘り起こしたらそういう色の液体の入ったペットボトルが何本も何本も出てきたからっ⋯⋯!

というわけで経験者として声を大にして申し上げたい

開封して時間が経って麦茶色に染まったジャスミンティーは絶対に飲んではいけませんよ!

あと私が持っている凄い腹痛ネタは父が常温で食卓に二時間放置した生ガキを全部たいらげ夜中にしにそうになったのに翌日無理やり出勤してお昼休みに病院に駆け込むハメになり診察が終わってから治った気がして濃厚チャーシューたぬきうどんを食べて己の食欲と愚かさ故にさらに苦しんだ⋯⋯なのですが生ガキは熟成ジャスミンティーの三倍くらいヤバいので皆さん本当にお気をつけください!


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。杜作品を読み人格OverDriveに憧れている。