夜の雑記帖

連載第36回: その後の日々を生きていた

アバター画像書いた人: 一夜文庫
2023.
08.10Thu

その後の日々を生きていた

今年の春まで夜の雑記帖を書いていた頃の私はちょっといやかなりどうかしていた

この美しいサイトに自分の文章が載ることが尊敬する作家や周りの仲間に自分の文章を読んでもらえることが執筆者仲間ができることが嬉しかったそれは甘美な蜜のようであり毒薬のようでもあった

毎日文章のことを考えていた隙あらばスマホをポチポチしていた私はフリック変換ができないおばさんなので一昔前のギャルの如く高速で画面を連打していた

元々汚かった部屋の掃除はますます後回しになった仕事中でも我慢できなくてスマホをチラ見する時間が増えた積読は読む暇がなく積み上がり口元に薄らヒゲは生え放題T シャツを後ろ前に着てジーパンのチャック全開で勤務先の店に立ちお客のおばちゃんにそちらの柄のチュニックのほうがお似合いですよなんて言っていた全く説得力がない

それでも私は書くことに必要以上にのめりこんでしまった自分の実力を見誤ったそしてこの春酷い過ちを犯してすべてをなくした

私はもうここで書いてはいけないのだと思った

そのあとはしばらくぱったりと書けなくなった無理やり毎日 note に書いたりしたけれどだめだった

連載中の自分の文章を夜中にそっと見にきたこともあった自分で書いたはずなのにどうやってこんなものを書いていたのか分からなかった自分から出たものと思えなかった

私は本好きなのでどうしても人生のいろいろなことを物語と比べたり物語で例えたりしてしまうのだけれど私の人生が私の物語だとするなら物語のクライマックスはもう終わってしまったのだと思った

私は物語の結末のその後の日々を生きている作品として描かれるなら真っ先に切り取られるような無為な日々を生きているあれからずっとそう思っていた

現実を生きる人間はその後の日々をスキップできないしんどい時間をあれから十年後なんてすっとばせたらどんなにいいだろうそんなふうに思っていたそれでも日々を過ごしていればスキップしなくても自然に時は経つ

気がつくと私は仕事仲間やお客さんと笑って話していた本を何冊も読み古本屋やブックオフをハシゴしていた銭湯や健康ランドに行きまくった旅に出たくなってずっと行きたかった街に行ってフラフラした

派手なクライマックスなどなくていい華やかな日々が終わってしまってもいいその後のなにもないような時間もしっかり生きることが実は大切なんだと分かったそんな暮らしのなかにも喜びがあることを

連載をしていた頃の私はりきみすぎていたがんばろうとするあまり周りもみえなくなり自分の力量も見誤り空回りしみんなに過度に甘えてしまったりご負担をおかけしたりご迷惑をおかけしたりしてしまったいま思い返せば大変に申し訳ないあの頃の私は本当にどうかしていた

すこし書くことから離れて落ち着いてやっとそれが分かった

この連載が途中のままだったことはずっと気になっていた恐る恐るログインしてみたらまだ入れてもらえるではないかではこっそり書いてみようダメならもう私の駄文などまるごと消して頂いてかまわない掲載に際して多大なお手間をおかけしたことにはずっと感謝してもしきれないからそのお仕事の結果の美しい表示が消えるのはさみしいけれど私は自分の書いたものには執着がない自分の書いたものに関してはぜんぶなくなってもかまわない

今日はそれを書いておきたかったもしここにある私の駄文がぜんぶ消えても私はもう大丈夫

だけど私は私のいいと思う文章を書くひとには書き続けていてほしい

つくづく分かった書き続けることは大変なことだどんなに書くことが楽しくて書き始めたとしてもつらくなることがあるそしてそうなったとき書くことを大事にしていればいるほどきっとよけいにつらい

無責任に書き続けてほしいですなんて言うのは酷いことだと今の私は思うそんなのはただのエゴだあんな苦しみを知っておきながら他人に味わえと言うのは鬼や悪魔の所業だそれでも私は言わずにはいられない

いま文章を書いている皆さんどんな言葉でもいい書き続けていてくださいあなたの書いた言葉を大切にしてくださいその言葉はあなたの人生であり生き様であり魂でありかけがえのないあなたそのものなのだから


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。杜作品を読み人格OverDriveに憧れている。