わたしたちが日常生活において紙の質を気にすることはあまりない。
わたしたちの身の回りにある多くのモノは工業製品で、 JIS 規格1によって品質が保証されている。 そして、 紙もそのひとつだ。
JIS 規格とは国内の産業を標準化し、 互換性や品質の保持・安全性の保持を目的として制定された規格である。 JIS にはそれぞれ固有の規格番号が与えられ、 その番号は部門を表すアルファベット 1 文字、 数字 4 桁~ 5 桁の組み合わせ ( 及び発行年 4 桁 ) で表示される。 パルプおよび紙は P のアルファベットから始まる。 そして、 JIS によって規格化されていた筆記用紙 (P3201) は 1998 年に廃止されている。
JIS 規格が廃止される理由としては、 (1) 現内容を包含する新しい JIS ができたために当該 JIS の必要がなくなった (2) 技術の進展により当該 JIS が使用されなくなった (3) 当該 JIS が技術の進展、 経済の発展を阻害している (4)ISO に基づく同じ内容の JIS ができた (5)ISO 規格が廃止されたことにより、 当該 JIS の存在理由がなくなった (6) その他、 特に廃止の必要性が高い (理由を明らかにする) 等があるらしい。
日本規格協会グループの HP2で調べたところ、 廃止された筆記用紙 (P3201) の JIS 規格は規格概要が 「ノートブック, 事務用紙, 便せん, 帳簿などに使用する筆記用紙について」 の規定であった。 廃止理由については 「JIS のゼロベース見直しの結果, 廃止しても差し支えないと回答があり, 検討の結果, 問題がないので廃止する。」 とある。 ところで、 『JIS ハンドブック (紙・パルプ)』 には P で始まる JIS 規格以外にも紙に関係する JIS 規格が収録されている。 例えば段ボール・箱は Z から始まる規格番号だが紙・パルプのハンドブックに掲載されている。
そして、 S で始まる日用品で、 紙加工品の規格は紙・パルプのハンドブックに書いてあり、 ノートブック, 事務用紙, 便せん, 帳簿などに使用する筆記用紙についての規定であった筆記用紙 (P3201) が廃止されても、 日用品規格のなかにある便せん (S5503)、 ノートブック (S5504)、 原稿用紙 (S5508)、 レポート用紙 (S5509) の JIS 規格はまだ活きているのである。
さて、 書写である。
書写で使う用紙には便箋、 ノートブック、 レポート用紙、 原稿用紙などいろいろある。 書写をするさいには、 ペンやインクの相性を考えて、 なるべく書いた文字が裏に写らない紙を選びたい。 とはいえ、 工業製品である紙は、 わたしたちの生活のなかで品質がある程度保証されていて、 不自由を感じることがほとんどない。 JIS 規格に沿った製品は JIS のマークがつけられるけれど、 たとえそのマークがなくても、 差別化のためにわざわざ品質を落とすという会社はなさそうに見える。
また、 工業製品である紙にはインクに付随するような物語が少ない。 ブランディングが成功し、 一般に名前を知られている用紙といえば、 トモエリバーがある。 トモエリバーは、 ほぼ日手帳に採用されることでその名前を有名にした。 糸井重里が運営するほぼ日刊イトイ新聞はさまざまなコンテンツを展開しているが、 ほぼ日手帳を制作する動機や過程をもコンテンツ化することで物語を付与し、 ほぼ日手帳をブランディングした。 そしてトモエリバーには現在 「もっとも手帳に適した紙」 という物語がある。 3
紙は、 紙そのものではなくノートという形に加工されることで、 わたしたちにぐっと近づいてくる。 ジャポニカ学習帳は児童用の学習ノートとして有名だし、 ツバメ大学ノートは発売から変わらないデザインが特徴として目をひく。 書き味を追及しているミドリの MD ノートも人気が高い。
表紙のデザインが好き、 紙の色と罫線が目にやさしい、 書き心地がきもちいい。 好みの紙製品を持ち、 その理由が自分のなかで明確だということは 「ただの好み」 であることの域を超えてひとつの意見の表明となる。 それは紙に限らないけれども、 手書きの機会が少なくなった現代において手で文字を書くということを愛し、 紙に対するこだわりを表明するというのは自己表現のひとつとなるのである。
現在でているジャポニカ学習帳 宇宙編は表紙のデザインが美しい。 リンクは 5 冊パックだが単品だと 220 円くらい。
本文で名前を出したのでリンクを貼るけれど、 探せば大きめの図書館においてある。 ただし貸し出しはできないかも。 日本規格協会グループの HP で項目ごとに買える。
使用した文房具
参考サイト