万年筆インクの種類は多い。 ここ 10 年のあいだに爆発的に増えたといっていい。
万年筆を使ったことのない人にとって、 ボトルに入った液体のインクというのがそもそも珍しいかもしれない。 しかし 2007 年にナガサワ文具センターが KobeINK 物語を、 同年に PILOT が iroshizuku 色彩雫を発売して以降、 万年筆のカラーインクは増え続けている。
このころのボトルインクの容量は 30 ~ 50ml が基本だった。 けれども PILOT が kakuno を発売してからしばらくののち、 10ml 程度のミニボトルが販売されはじめた。 kakuno をきっかけに新規の万年筆ユーザーが増え、 万年筆以外の他のカラーペンと同じくらいの手軽さで色を選びたいというユーザーのニーズに応えたかたちで、 カラーインクのミニボトルはよく売れたのだろうと考えられる。
例えば、 カートリッジ式に対応している万年筆は購入するとたいてい黒か青のインクがサービスで 1 本ついてくるのだが、 プレピーは軸の色を 7 色で展開していて軸と同色のインクがついてくる。 イエローの軸のプレピーを買ったら、 中に入っているのはイエローのインクというわけだ。 販売当時、 プレピーは 「万年筆」 で売っていたものの 210 円だったから、 価格帯の近いゲルインクボールペン等のカラーペンをかなり意識していたのではなかろうか。
格安万年筆からミニボトル販売のカラーインクが増え、 その後ご当地インクと呼ばれる地方の文具店がつくるオリジナルインクも増えた。 近年はガラスペンが流行している余波でラメインクが増えているように見える。 2015 年にはダイアミンがシマ―リングインクを発売していたが、 異物であるラメがペン先に詰まる恐れがあるため、 万年筆に入れるインクとしては向かないと言われていたし (それでも使いたい場合は自己責任でいう感じ)、 あのインクが表すキラキラはカリグラフィーなどのつけペンで書かれるのが似合っていたと思う。 つけペンと同様に、 ガラスペンもシマーリングインクを使う際にラメが詰まる心配をしなくてもいい。
万年筆メーカーはペンと共に歩んでいる。 だから万年筆メーカーにとって自社のペンの歴史はそのまま会社の歴史だ。 しかし万年筆インクは違う。 KobeINK 物語はシリーズ名のとおり色には神戸の街をイメージした名前がつけられている。 そして iroshizuku 色彩雫も色の名前は日本の美しい情景から1 つけられている。 ペンには歴史が、 インクにはそのシリーズに合った物語が付与されているのだ。
好きな色で字を書くのは楽しい。 書写の文章のイメージでインクの色を選んだり、 季節によってインクを変えたりすることもできる。 そういうとき、 インクそのものの色がもつイメージだけでなく、 インクの名前やシリーズがもつイメージといったものもわたしたちは大切にしている。 カラーインクにはまるということはインクに付与された物語を愛しているということだ。 そしてそれはそのままシリーズ化されているインクのブランディングにつながっているのである。
使用した文房具
インクのもちをよくするためにリザーバーパーツをつけて使っている。
ラメが下に沈むので書いているあいだでも適宜かき混ぜる必要がある。
ツバメノートの紙は厚みがありなめらかなのが良い。 ラメインクも裏写りしない。