書写という趣味

連載第3回: 手紙の愉しみ

アバター画像書いた人: 28(にわ)
2023.
05.25Thu
書写
文章は青空書写(@aozorasyosya)から.用箋は榛原の蛇腹便箋,ペンはPelikanのTwist.

手紙の愉しみ

字を手書きする愉しみには書写以外に手紙を書くという行為がある

Twitter をつうじた書写での活動は自分の書いた字を不特定多数の人に見てもらえる一方手紙を書くという行為は個人に向けて文章をつづる

個人情報保護法がある今では考えられないことだけどその昔雑誌には文通募集のコーナーがあり個人宅住所とフルネームがばんばん載っていた雑誌には情報を載せる以外にも同じ趣味を持つ仲間を求める人たちを繋ぐ役割があったといえる

また電子メールが手軽な連絡手段になる以前は電話と手紙が連絡のための主なツールであった単に近況を伝え合ったり趣味の話をしたりするだけなら今では電子メールや chat などのメッセージツールがある電話と同じく即時性があることが第一のメリットなのと文章としての内容が双方に残るという利点がメッセージツールにはある

手紙のほうはどうかというと即時性はない返事は相手次第で来ない場合もある便箋封筒切手を用意しなくてはならないそもそも普通郵便がちゃんと届いているかどうか本人の手に渡っているかどうかの保証もないしかしこの即時性のなさというのは裏を返せば相手にも自分にも十分時間が与えられるというメリットにもなる時間をかけて相手に言葉を投げかけ受け取った側も時間をかけて言葉を受け取って投げ返すことができる反射で返すことが苦手な人間にとってこの時間をかけてもよいという特徴はメリットだろう文通というやり取りでは双方に時間がゆっくり流れる

現在では自分の本名も住所も知られずに手紙をやりとりできる有料サービスがある一番大手で有名なのは文通村だろう入会するとペンネームと架空の住所で会員同士の手紙のやり取りができる文通村では個々の会員へ手紙を書くということを基本的なサービスとしているけれど誰に届くかわからない風船便というシステムもあり新規加入者にもなるべく最初に手紙が届くよう配慮されている

手紙というのはもらうと嬉しいものだけど最初に自分から書くという能動的な行為が重要になるただ自己紹介文を載せ自動的に誰かが自分を見つけてくれるのを待っているだけでは手紙は来ないむしろ手紙を書く行為が好きでないと文通は続かない

文通村では誰に言われたわけでも強制されているわけでもないがよほどの事情がない限りほぼすべての人が手書き文字の手紙をくれるワープロで出力した文章でもそれが個人に向けて書かれている以上手紙に変わりはないしかしわたしたちは手書きの文字から温かみを読み取る選ばれたレターセットとか自分に向けられた話題とか丁寧に書かれた字などから時間や手間や相手の人間性を推し量る

文通は字を手書きするという愉しみより文字だけのコミュニケーションを楽しむという側面が強いけれどそもそも文字を手書きするという行為を苦痛に感じる人には続けられない自分の言葉で日常をつづるそれを手書き文字で特定の相手に届ける手紙には字を書くという行為に情報伝達以上の意味が込められることが多くそれは過去も現在も変わらないことだと思う目に見える形だとレターセットの趣味だったり字の美しさだったりするし目に見えない形で感じるとしたら、 「時間がある手紙を書いているあいだは相手のことを考えて想像しながら対話しているつもりで文章をつづる自分が文字を書きながら手紙を送る相手に語りかける時間を相手も同じように作ってくれていると思うからこそわたしたちは手紙をもらって嬉しく感じる

だから手紙に意味を込めるのは手紙を送る側の人間というより受け取る側にあるのではないだろうかわたしたちは手紙そのものというより手紙にまつわる色々なものを楽しんでいるのでありそれを文通と呼んでいるのである

今回使用した文房具

折り目にミシン目が入っていて書き終わったところで切ることができる便箋手紙の長さを気にせず書けるのが良いしデザインもいくつかある

海外万年筆は同じ F細字表記でも国内産のものより若干太め細かい漢字を小さく書くのには向いてないかもしれないけれどツイストは入門向けだし書き味はいい

まず海外万年筆は欧州規格のカートリッジが使えるメーカーと使えないメーカーがあるので心配ならばコンバーターを買ってボトルインクを入れるのがベターとはいえこのエルバンのカートリッジを入れている小さな缶は可愛いのだ


遠つ人。日常+ 読書。Huginn(思考)とMuninn(記憶)