字を書くことの意味について考える前にまず、 書写は楽しい。
前回私は書写と美文字を雑につなげてしまったけれど、 文字を書くことそのものが楽しみで、 なんでもいいからとにかく文字を書きたいという欲求が沸き上がるときがある。 筆欲と呼ばれたりする。
筆欲がおこるタイミングは人それぞれだろうけど、 たいていは新しい手帳を買ったときだったり、 筆記具を手にいれたときだったりだろう。
『枕草子』 のなかでも清少納言が 「美しい紙といい筆があると気分が上がる」 1と言っているので、 真っ白な紙になにかを書くとか、 筆記具の書き味を味わうことの楽しみは、 昔から変わらないことのひとつなんじゃないだろうか。
清少納言は中宮である定子からいただいた紙で 『枕草子』 を書いたけれど、 現代を生きるわたしたちは目的に応じて用紙やノートを使いわけることができるし、 筆も鉛筆もペンも使い分けることができる。
筆欲が高まって 「なにか」 を書きたいけれど何を書くか。 清少納言は 『枕草子』 で日々思ったことや宮廷のやり取りを書いて、 結果的にそれは宮廷で読まれた。
日記は人に見せづらく、 それは自分だけの楽しみになる。 そしてそれだけでは物足りないこともある。 『枕草子』 みたいにエッセイを書くなら、 手書きでなくブログに載せたほうが読まれるだろう。
自分が書いたものを自分だけの楽しみに留めるだけでなく、 他の人と共有したい気持ちは誰にでもあると思う。 今、 Twitter をはじめとする SNS で手書き文字の画像が投稿されるとき、 それは共通の 「お題」 にハッシュタグを添えてあることが多い。 Twitter で今一番多く目にするのは朝活書写 (@ asakatsu_shosha) さんだろう。 Twitter アカウントで毎朝5時に投稿されるお題はそれぞれ 15 万以上の閲覧がある。 お題の文章は著作権に配慮して、 青空文庫に収録されている作品から抜粋されており、 書写のために抜粋された文章は 100 字前後を最大としている。
毎日与えられた文章をただ丁寧に書き写す。 書くための文章をわざわざ自分で考えなくてもいいのはラクだ。 文字を書くことだけに集中できる。 縦書きでも横書きでも、 升目に沿ったノートでも罫線だけでも無地でも、 好きな紙と筆記具で書けばいい。 添削する人はいなくて、 ただ同じように書写をしている人たちの目に触れるだけである。 上手く書ければ嬉しいし、 気に入らないと思えば練習すればいい。 現代は実用でなく趣味として、 自由に字を書くことができて、 その自由を選択できる時代だ。 だからこそ今、 手書き文字が楽しいのである。
Rollbaahn はクリーム地の紙に目立たない方眼が入ったリングノートで表紙のバリエーションも多い。 文房具店での入手もしやすい。
PILOT の代表的な格安万年筆。 入門にぴったり。 ペン先は EF (極細字)、 F (細字)、 M (中字) の 3 種類がある。
万年筆を買うとたいていインクカートリッジがついてくるが、 他社のボトルインクを使いたいときはコンバーターを使用。
紫グレーの仲秋は書いてみるとぱっと見、 黒ぽいけれど黒ではない。
注釈
- 世の中の腹立だしうむつかしう、 かた時あるべき心地もせで、 ただいづちもいづちも行きもしなばやと思ふに、 ただの紙のいと白う清げなるに、 よき筆、 白き色紙、 みちくに紙など得つれば、 こよなうなぐさみて、 さはれ、 かくてしばしも生きてありぬべかんめりとなむおぼゆる ( 引用元: https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/makura26)