夜の雑記帖

連載第30回: 間奏曲

アバター画像書いた人: 一夜文庫
2023.
03.13Mon

間奏曲

自分の書いたものは普段あまり読み返さないのだけれど最近まとめて読み返しているイベント用の冊子を作るためでそんなことでもないとズボラな私は書き終わったものはほとんど読まないのでいい機会かもしれない

読み返すとしみじみ思う

私は私の書くものは凡庸だなぁ

空が青いとか雲が白いとかそんな当たり前のことを当たり前に書いているだけみたいだ

だけどたぶん私はそれでいい

今日も仕事を終えて帰宅して飯を食って風呂に入ってこれを書いている凡庸な毎日の繰り返しなるべく心穏やかにしていたいけれど全然なにごともないなんていう日はめったにない仕事で困ったひとに絡まれたりうっかり書類に記入もれしたり物をこわしたり自分にふりかかることや自分でやらかしたことでなくても広いこの世界にストレスを感じてしまうこともある街で右往左往する観光客の女の子たちを怒鳴りつけるひとを見た電車の遅延で駅員に難癖をつけるひとを見たSNS で誰かの発した差別的な発言が流れてきた世界では毎日いろんなことが起きるでももし何かがあっても少しの間テキストメモを開いて文章を打ち込んでいれば少なくともその間はそのことを考えなくてすむ

いやなことを忘れることは難しい楽しいことや嬉しいことがあってもそのときの気持ちはすぐに溶けるように消えてしまう苦さや痛さのほうが感じやすくて長く残るそれも必要なことなのだろうでも少し疲れたらひととき違うことを考えることももしかしたらできるかもしれない

楽でも苦でもないなんでもない些細なことを

私は青い空を青いと書く

白い雲を白いと書く

おひさまがあついくらいあたたかい日のことを満月がこわいくらいおおきい日のことを星も見えない都会の夜をその都会を白々と照らす街灯の光のことを書く

いつもの日常のなかにあることを書く

春になってあたたかいなぁとかそろそろたけのこごはんが食べたいなぁとか桜の花はまだかなぁとかそんな当たり前の凡庸なことを書く

そんな当たり前の凡庸なことでもそのことを頭に浮かべていたら少なくともそのときだけはそのことだけを考えていられる

梅が咲いて散った

いまは河津桜が見頃だ

木蓮の白い花も開きだした

すぐに桜も咲くだろう

この季節の花は目まぐるしく移ろう冬が去れば春の訪れは怒涛のようで次々と芽吹き花開き散っていく私はそれをそのまま書く淡々と

今夜は少しすずしくて少しあたたかい気持ちのいい春の宵です


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。杜作品を読み人格OverDriveに憧れている。