部屋 - Rooms

第1話: 序/どこでもない場所

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖, 投稿日時: 2023.01.21

まず正方形の白い床を用意する。隅に白いレンガを積んで壁を作ろう。床を壁でぐるっと四角く囲むんだ。でもこれだとなかに入れないね。レンガをいくつか抜いて扉をつけよう。正方形の白い屋根を載せて完成だ。
 今日からここが君の居場所だ。入ってみて。何もないね。何が必要かな……トイレ、お風呂、洗面所。コンロ、シンク、冷蔵庫。ゴミ箱、ベッド、クローゼット。椅子、机、棚。これでよし。
 なぜ扉を閉めるの、だって? 美しい立方体を完成させるためさ。なぜ鍵をかけるの、だって? 君を閉じこめるためさ。人聞きが悪いな、騙してなんかいない。冷蔵庫には食べ物が何でも入っているし、蛇口からはお湯も出る。ベッドもふかふかだ。外に出たい? 自由がほしい? 考えてみてくれ、最初から外を知らなければ自由など求めない。そこを出たいとすら思わないだろう。
 君はもう外のことを忘れている。
 ほら、今日はもう眠ったらどうだい?

 目を覚ましたら顔を洗って、着替えて朝食にしよう。さあ何をする?
 君は棚にずらりと並んだ白い箱に目を留める。全てブロックで作られた美しい立方体で、一面だけ透明だ。覗きこんだ君は息を飲む。それぞれの箱のなかで小人が動いている。小人は君に気づかず、これは映像だと君は思う。窓越しに映画を観るように彼らを観察する。彼らは目覚め、食事をし、本を読み、運動し、絵を描き、音楽を奏で、煙草を吸い、排泄し、喜び、怒り、悲しみ、笑い、愛し合い、眠り、生きている。箱の数だけ物語がある。
 君は使われていない白いブロックを見つけ、組み立て始める。板を床にする。レンガに似たブロックを積んで壁を作る。四辺を壁で囲んで、扉をつけ、正方形の屋根を載せる。
 完成品を棚に置くと、翌日には新しい小人がそこに住んでいた。君は嬉しくなって次から次へとブロックを組み立てる。材料は尽きない。いつしか箱は棚に入りきらなくなり、床に広がり、積み重なり、壁を隠し、君の居住空間を圧迫する。
 ある日、君が見ていた箱のなかで、男の小人が女の小人をナイフでめった刺しにした。女の胸から血が噴き出して、壁が赤く染まり、ガラス窓にもべったりとついた。君はそこで初めて、彼らが映像ではなく実在の人間だと気づいた。
 君は振り返る。白い壁だと思っていたガラス窓の向こうから、巨大な眼が覗きこむ。
 しかし翌日になれば、君はすべて忘れるだろう。
 今日はもう眠ったらどうだい?


目を離したすきに小説を書き 本を読むことがあります
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