D.I.Y.出版日誌

連載第355回: 叫ぶ場所

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2023.
01.17Tue

叫ぶ場所

別に何かあったわけじゃないけど砂糖と脂肪をたっぷり使った食品を山のように買い込んで吐くほど平らげて大声で泣きたい人間が怖くて買い物に出る元気がないしアパートの壁も薄いので実際にはやらないNetflix と Amazon Prime の東宝チャンネルを解約した後者は黒澤明と怪獣映画のためだったけれど望むものはだいたい観てしまって数ヶ月まったく利用していなかった前者は期待したほど観たいものがないわりに観たくもない韓国ドラマをごり押ししてくる。 『ウェンズデーのつづきを観ろって? つまらないからやめたんだっていい加減わかれよ。 『これいただくわの LGBT 作家が脚本を書いた映画がよかったのは普通正しさとの対比があるから。 「正しさを押しつける普通の人間がいちばん怖いんだそんなこともわからない JR 君たちはせいぜい肩をすくめるアトラスでも読んでりゃいいさ⋯⋯

 さいきん身も蓋もないことがわかってきたまずおれを褒めてくれた作家とならうまくやれるみんな感性が合っていて技量に秀でていてコミュニケーション能力が高い商業作家になろうとした若いときおれの書くものに合う投稿先なんてないんでしょうがないから似ても似つかない雑誌やら新人賞やらに投稿して当然はじかれてばかりだったいまでは断る側の理屈もわかるなむさんに憧れて原稿もってくるひとがたまにいるんだけどさうちの掲載作ちゃんと読んだ? って感じなんだよもっとふさわしい場所があるんじゃない? ロリペド礼賛ならよそでいくらでも需要あるでしょうがよ⋯⋯おれが書いたものでさえも好意的に受け入れてくれる親切なひとたちならそんな心配はないイエスマンを集めてるだけじゃないのと問われたらなんもいいかえせないうしじまいい肉さんが自分を肯定してくれるひととだけ関わって何が悪いのといっていてなるほどと感心したとはいえなむさんもイシュマエルさんもだめなときはちゃんと指摘してくれるその指摘が信頼できるからやっていける才能がないやつみたいにとんちんかんな否定をすることがないからねあとどうもおれは自分で書くより他人に書いてもらうほうが得意らしいおれでさえなければそれなりにちゃんと読まれて評価されるばからしいから自分では書かないことに決めた

 一般的にはインターネットでは才能のないやつほど評価されるそこでは話題性だけが重視されなじみ感や使い勝手のよさは必須とされる才能があればなじみ感は損なわれる響いた相手だけの特別なものとなりそこから広がっていくことはない一般的にはねそういう世間での泳ぎ方バランスの取り方が寄稿者とりわけなむさんはうまい独自の才能を別に隠してもいないのだけれどそうでありながらちやほやされる要素を技法として狡猾に使いこなして使い勝手のいい消費財となっているそれは擬態ですらない技能であり機能なんだそういう才能なんだろうな皮肉でも妬みでもない自分がそうなろうとは思わないけれど素直にあこがれる天性のものに加えて泥臭い地道な努力の積み重ねで研ぎすまされたものなんだよなイシュマエル氏だってそうだ休まず書いてピアノの練習と研究も怠らず絵まで描いている一夜文庫さんの生産量や行動力にも驚かされるおれだって努力はしてきたけれどあまりに報われないんでもう元気が失せた寄稿者諸氏ほど努力してきたかと問われたらそれほどじゃないと認めざるを得ないけれど⋯⋯報われなさはいいわけでしかないといわれたらまぁそうかもしれない学習性無力感というやつどうすればいい報われなくてもいいしこのままだれにも受け入れられなくてもからせめてまた自己満足の努力ができるようになりたいおれでないだれかであれば書いたらリスペクトされ読みたいと思われるおれならキモい迷惑な自己愛者の印象しか生じないそれが人間の価値というもの人格 OverDrive だっておれがかかわってさえいなければもっとずっと読まれていたどの寄稿者も十万 PV の mimei さんとおなじくらい読まれていたはずだおれがおれでさえなければと不甲斐なく思う

 数年前まで日本の Fediverse はペドアニメアイコンのギークが卑語をわめくだけの地獄だった最近はおれと考えの近いまともなひとが増えてきたかに見えた錯覚だったがっかりした偉そうな態度で小難しいことをいって他人をばかにしたいだけの連中だった一見もっともらしい主義主張はだれかをばかにするための手段でしかないペドギークにしても説教強盗にしても要するに Twitter のもっとも苦手な連中が流れてきただけだったソーシャルメディアというかインターネットそのものの特性としてそういうひとたちしか目につかないそうしたものの表示が増幅されまともなものの表示機会は抑制されるってことなんだろうプラットフォーム企業は儲かる表示を追求するそりゃまぁ営利企業は利潤を追求するのがあたりまえなのだけれど人類の大半が本を読まず差別や暴力を好むからにはインターネットで効率よく儲けるためには知性や論理を排除して差別や暴力を増幅するのがいいに決まっているアルゴリズムで効率的にそれを突き詰めたあげくかれらはインターネットを差別と暴力の温床にしたいや温床って言葉じゃ生ぬるいな極限までとことん増幅したんだAmazon だってそうでおかげで出版は差別と暴力の下僕に成り下がった米国でもブラジルでもアルゴリズムに操作されて民主主義を憎むに至ったひとびとが議会を襲撃し日本では若年女性を支援する事業を人権を憎むひとびとが潰したはてブのホッテントリとか見るとさもうこの国はタリバンみたいな連中に支配されたんだって実感するわプラットフォームのアルゴリズムは防衛省が研究に着手するくらい世論操作に活用されている加えて日本の Twitter の運営会社は某政党とかかわりの強い大手広告代理店と資本関係にあるこうした事実とこの国の変化とは実際にかかわりがあると思うFediverse で陰謀論や人権侵害を見たことがないとしたら単に日本のサーバをブロックしているからだよ日本人が鳥小屋から Fediverse へ移るのは中央集権プラットフォームでさえ許容され得ない虚言や人権侵害をおおっぴらにやるためだからさ

 おれがおれであることが許される場所はどこにもない実生活のプロトコルにもプラットフォーム企業のアルゴリズムにも適応できない非営利の Fediverse でさえ場としては適応できない居場所として建てたはずの楽犬舎でさえActivityPub でよそと連合したせいでそんなことになる他人の目に触れたらばかにされるだから自分ひとりで自己完結したい手段あるいは道具としての Fediverse/Mastodon と場としての Fediverse/Mastodon は切り分けて考えなきゃいけないよな理想のすべてを実現できるわけではないにしても、 「生煮えの思考を垂れ流すという目的に前者はおおむね適っているWordPress に ActivityPub プラグイン入れるなりドメイン買ってさくら VPS のスクリプト使うなりして簡単にはじめられてある程度のカスタマイズもできたでも場としては他人を視界から排除することでしか安心を得られないだいたいなんで Mastodon には他人に話しかけられる機能があるんだびっくりするし怖いだいたいにおいて好意からじゃないし嫌悪敵意憎悪蔑み嘲笑⋯⋯そうしたネガティブな意図しかない読みたいものは購読したいさでも大きな石をひっくりかえして出てきた虫を観察するみたいにしてフォローされる機能はいらん通知もいらん一方通行がいいそもそも出版や読書ってそういうもんだろ前は好きな小説を読んでいれば居場所に感じられたいまはなんで祝福された他人の本を読んでやらなきゃいけないんだ⋯⋯とまるでくそ扱いされ堆肥にでもされたかのように感じさせられる価値ある他人の養分にはなりたくないんだよただ物語の世界へ現実逃避したいだけだ読者として容認されたかに錯覚しているけれど実際にはおれは書いたやつにも出版社にも受け入れられない分際だそのことを思い知らされるばかり本を読むことそのものがおろしたてのバラ色のシャツを着ておまつりの街へ出かけるようなものに成り下がったみんながその本を褒めたたえている調子にのっておれも発言するそしたらみんな怒っておれを殴るバラ色のシャツもやぶれそうおまつりへ行くときっと泣いてしまう結局のところ望ましいユーザ体験ってRSS リーダのフロンドエンド的なものでしかない気がする価値のある連中にとっては別だよ? かれらは大勢から言及され指数関数的に祭り上げられるそうでないおれら何者でもないおれらはくそ扱いされ養分にされるだけそういう世渡りから距離をおいたらFediverse は RSS と変わりなくなる

 プラットフォーム企業への不信感が日に日に増しているアパルトヘイトで成り上がった家柄の富豪がフロントエンドアプリをのきなみ廃業に追いやったことにいまさらみんなが不平をいっている理由がよくわからない別の会社が自分たちの商売にのっかることをこれまで許してきたことのほうがおれには奇妙に思える中央集権プラットフォームってそういうもんだろ?  Google をやめて DuckDuckGo にしようかな⋯⋯とちょっと考えたんだけどあれだってアフィリエイトで成り立っているからには利用者の視界はコントロールされてるよな非営利オープンソースの検索エンジンってないものかあれこれ考えると寡占企業でありつづけるがゆえに利用者の視界をあえてコントロールする必要のない Microsoft がビッグテックではいちばんまともに見えてくるかれらにしてもポータルに表示するのは政権とかかわりの深いメディアの記事なのだけれどGoToSocial と Elk の組み合わせ試したいんだけどやり方がわからないただやれたとしてもガワがよそにあってコントロールできないという考えが気に入らない自分が見ているように他人にも見せたいどれだけ凝った組版で書いても配信先では醜い表示がされるのが他人には異なる見栄えで読まれるのが気に入らないFediverse の仕組み上しょうがないのはわかっているおれはおれの視界をコントロールしたいでも他人の見るものはコントロールできないんだなこれが連中の目におれは堆肥に見えているせめて悪臭で悩ませないよう人前に出るのはシャワーを浴びてからにしている柄の長いブラシと大量の石鹸で全身をすりむけるまで擦っているこんな人間であることから解放されたい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。