D.I.Y.出版日誌

連載第356回: M51のファー付きフード

Avatar photo書いた人: 杜 昌彦
2023.
01.09Mon

M51のファー付きフード

去年の秋に M51 のぱちもんを買ったんだよジミー少年みたいにでかすぎるサイズがよかったんだけどよくわからなくてジャストサイズになっちゃったライナーをとりはずせるんで秋も冬もいけるモッズスーツにタブカラーシャツ細い黒のニットタイビートルブーツにレノンハットで気分は 60 年代それで満足してもいいのにオプションのファーつきフードがほしくなった実用性からいえばいらない見た目も好きじゃないもともとついてたとしたらはずすと思うなのにつけることができると知ったら試してみたくなったんだよどうもおれにはそういう悪癖がある機能があると試してみたくなるんだいらないのに

  Fediverse もそうなんだ何度も書いてきたけど生煮えの思考を垂れ流せる UI が好きなだけであってよそと連合する必要はないんだよ他人に読まれるために書くわけじゃない頭のなかの妄想や言葉を外に出してすっきりしたいだけ努力してかたちにしておれにもこれだけのことがやれたんだと自己満足したいだけ理解されずに貶められるくらいなら人目に触れたくないなのによそと連合する機能があるとつい試したくなる数年前に前のサーバを建てたときはペドアニメアイコンのギークしかいなかった最近は考えの近いひとが増えてきた気がして思いきって他人を視界にいれることにしたんだよせばいいのに調子に乗って読んでくれよとぼっちの帝国のリンクを投稿までしたいつものひとりごとのつもりで反応を期待したわけじゃないでもひょっとしたら気の合うだれかに見つけてもらえるかもと浅ましく願ったのも否定しないこないだ思いだせなかったのは SION の鬼は外だったこんな唄だよ

だれにも見つかりたくないくせにみんなに見つけてほしいどうなってんかな三つから進歩なし

 おひとりさまで自己完結する予定だったのにたぶん原因は通知機能だぴょこぴょこと音を立てて数字が増えるんでつい気になるそんなつもりはないのに知らず知らず他人に気に入られようとしてしまう浅ましい人間にはなりたくない自己満足で自己完結したいなのにおかしな方向へ行っていたいつもこのくりかえしだ。 『GONZOだってただ頭から追い出したいだけだった読まれようとして書いたわけじゃないし出版すれば貶められて無価値や無能を思い知らされるだけとわかっていただから書き上げたその日に原稿をゴミ箱へ棄てたなのに数ヶ月後には発掘して出版していたあげく売れないわ低評価ばかりつけられるわで惨めな思いをしてさんざん懲りたはずなのにまたしても似たようなことのくりかえしフォローした他人にいちおう読んだけど不快なことばかり書いてあって怖いので序盤で挫折したといわれた。 「読書は性交とおなじで自分を傷つけないことが保証されている相手しか受け入れたくないともわざわざ侮辱するくらいならなんで読むのかというかそれ以前に見ず知らずの他人にいきなり性的な話をするあんたのほうが怖いだろと思ったたぶん性的価値のあるひとたちはそんなふうに面と向かってあなたには価値がないと告げるのに慣れてるんだろうな

 おれにとってソーシャルメディアは四人囃子おまつり怒ったみんなに殴られるとわかっているなのになんでいそいそと出かけていくんだろうおろしたてのバラ色のシャツまで着てやっぱ向いてないわやめようやめよう通知は切ったペド画像で世界の爪弾きとなっている日本の大規模サーバふたつを拒否した。 「ローカルってのも要らないんだよなおれしかいないんだからダイレクトメッセージは迷惑でしかないしリストもブックマークも使わない検索と連合百害あって一利なし返信機能も自分の投稿をつなげてぶらさげるにはいいけど他人に話しかけたり話しかけられたりは好きじゃないというか怖い通りすがりの他人に性的能力の欠如を云々される機能はごめんだよそもそも入力欄が左にあって右にいらんリンクが並ぶ UI が好きじゃないかといって microblog.pub はストイックすぎるし建て方もわからない右ペインぜんぶ CSS で消した不自然な余白ができたけれどしょうがないそこに並ぶおまつりをおれはもう見たくない街へは二度と出かけないおろしたてのバラ色のシャツは自室で着て楽しむどうせ殴られるだけだとわかっているからね

  ActivityPub のいいところは自分のサイトさえフォローしていればだれもいないひとりぼっちのタイムラインでも寂しくないところ自分や寄稿者がサイトになんか書いてくれたら流れてくる寄稿者がだれもいなくても自分で投稿すればいいあたかも他人のようにおれがもうひとり別にいるかのように感じられて心強いおっ杜昌彦の新作かってなるわけですよ唯一の読者であるところのおれがねおれにはそういうのが必要だソーシャルな交流じゃなくてさおれがおれであることで罰されるのではなくおれであることに安心していられるいわば自分の体臭を嗅いで安心する変態みたいなもんだよ

  Twitter やはてブを眺めるそこではいつもおまつりだ火のないところに煙を立てて業務を妨害し今後この国で支援事業をおこなうのを困難にしたひとびとを眺める人権や民主主義の概念がこれだけ憎まれるようになったのは教育の失敗だ人権や民主主義を国民が知るようになれば権力には都合が悪いだからこそそのような教育が行われてきたでもこの国は一度それで滅びたのだかつて角川源義が書いたようにそうなるのを防いだりそうなったとき抗うのが出版の役割なはずでそれをしてこず権力におもねるばかりだった出版業のひとたちは反省すべきじゃないのかそうは思うけれどかれらにはむりだろうなとも思うあの名文もかなり前に削除されたしね

自分を傷つけないことが保証されている小説しか読みたくないって意見それ小説ってもんのアイデンティティ全否定じゃんと思ったのだけれどでもたぶんいまの読者の総意を代弁した声だろうなって気がする感情を動かされることをかれらはきらうそれは攻撃的なものと見なされる読む前後で何も変えられない小説しかいまのこの国では許されない権力が国民をそのように調教してきたからだ都合の悪いものをひたすら排除してきた結果そうなった

 いまの子どもたちは海外文学を教わらないし学校図書館の予算はおそらく年々減らされている世界で大ヒットした映画の興行成績が日本でだけぱっとしないのもそのせいだと思う米国の価値観が全世界で通用するのもおかしな話なんでそれ自体は別にいいのだけれど)。 子どもたちは読む技術が未発達のまま成人する論理的な思考も欺瞞を読み解くこともできないまま意味を考えることもない狭い視野を全世界とする内向きの意識のままそのようにしてひとびとは異質なもの感情や価値観を揺すぶるものを憎むようになる権力に与えられたものこそが絶対の正義で反するものや異なる視点は攻撃的で怖いとされ憎まれ蔑まれ排除されるそうした動きに出版は抗わねばならなかったのにおもねるばかりだったそれがいまのこの国をつくった権力を礼賛し人権を憎む社会のできあがり新しい戦前をつくりだしたのは出版業界だよ

 そんな時代に小説を書いても貶められるだけだおれはもう殴られたくないファー付きフードの M51 とバラ色のシャツを着て笑っていたいひとりでねそのために epub やプリントオンデマンドでサミズダートするよ原稿は燃えないというのは嘘だけれどおれはGONZOを燃やせなかった。 『ぼっちの帝国を読んでくれとおまつりの街で口走ったまったく浅ましいねどうなってんかな三つから進歩なし


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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