ユーザの視界をコントロールする、 つまり見せたいものだけを見せることで利益を得る商売なんだよ、 プラットフォーム企業は。 アパルトヘイトで成り上がった出自の、 暴走自動車で財をなした武器商人が、 自分の所有物で何をしようが勝手じゃないか。 いやなら自分でサーバを建てればいい。 だれもが一国一城の主となって自分自身を独裁すりゃいいんだよ。 楽犬舎は一般開放しないことにした。 自分の言葉に責任をもつ権利 (=自由) のための仕組みなのに、 他人の建てたサーバに所属するんじゃ意味がない。 他人に責任を負いたくないし、 そのスキルもない。 他人が視界に入ると、 つい較べて惨めになる。
ためしてないけど、 Mastodon のアプリは候補から著名な大規模汎用サーバを選ぶようになってるらしいね。 それでどこかに所属するわけだ。 租税回避でケイマン諸島にあるような企業の 「製品」 にね。 なむさんが、 まずアプリを入れてみるとおっしゃっていて、 そういうことじゃないんだけどなぁとおれは思ったのだけれど、 ふつうのひとにとっては、 そういうことなのかも。 進学したり就職したり、 結婚して家庭をつくったりするように、 それが当然なのかもしれない。 だとしたら、 まちがっているのはおれのほうだ。
ひとつのサーバに大勢のひとが所属するという考えに、 そもそもなじめない。 社員とか家族とか政治団体とか、 なんらかの同一性を訴える目的なら、 まぁ⋯⋯わかる。 のえるさんの DTP-Mstdn.jp みたいな同業者の集まりや、 小嶋智さんの読書好きサーバ bookwor.ms みたいな、 同好会や趣味のサークルのようなやつとかね。 楽犬舎を寄稿者や読者向けのサーバにする案もそういう理屈からだった、 やめたけど。 独自実装された機能でサーバを選ぶのもわかる。 そういう意味ではのえるさんの Fedibird は特徴があっていいかもしれない。
でも企業の大規模汎用サーバに隷属する価値観はわからない。 たぶん、 そういう生き方なんだね。 きっとそれが正しいんだ。 世間では。
集まるといえば人格 OverDrive も ActivityPub 対応したので寄稿者の集う Fediverse サーバではある。 寄稿されるたびに楽犬舎のおれのタイムラインにも流れてくる。 一夜文庫さんが盛り上げてくれているし、 イシュマエル氏が連載中だし、 くみたさんも書いてくれているし、 なむさんも一作寄稿してくれたから、 かなりゴージャスな誌面になってはいる。 いっときでもこんな時期があるのは光栄だ。
しかしその余波で、 なむさん (の作品ではなく世間的な評価) に憧れるファンを断る業務が生じつつある。 なんで小説にまるで関心がないひとが小説を書き、 わざわざ本好きのサイトに寄稿しようとするのか理解できない。 試合を見たこともなければルールも知らないのにテレビ局の花形アナウンサーと結婚したくて野球選手になるようなものか。 報道になんの関心もないけど野球選手と結婚して社会的ステータスを得たいからメディアに就職するとか。 なるほど生産的だ。 そんな価値のあるあなた方が、 なぜわざわざうちを選ぶ?
小説を書く能力のない素人の短文をフラッシュ・フィクションと称するらしい。 生産性の時代にはそういうソーシャルメディアに最適化されたものが喜ばれる。 いまの読者は何かを感じたり考えたりするのを悪と教わって育ってきた。 権力にとって都合が悪いからだ。 経験と技術によって書かれたものは、 読み味わうにも経験と技術を要するし、 何かを感じたり考えたりすることが求められる。 だから蔑み、 素人くさいものを尊ぶ。 見慣れぬ独自性を憎み、 画一的なだれともおなじものを 「なじみ感」 から称賛する。 一瞬の消費を正義と見なし、 じっくり読み味わうものを憎む。 感情を動かされるのを非効率とみなして不快に感じる。 そして主人公がなんの葛藤も経ずに成功する物語をもてはやし、 起伏のある物語をきらう。 みんなが権力に従ってつながることを重視し、 疎外されることを畏れ、 疎外される者を貶める。
いまの日本において、 映画や小説や音楽は社交の手段でしかない。 さもなければ大企業が貧しい若者から搾取する手段だ。 「推し」 「推し活」 なる魔法の言葉を考えたメディアの商売人は賢いよ。 貧しい若者からいくらでも搾り取れる、 立ちんぼさせてまでね。 しかも合法だ。 数秒の動画、 フラッシュ・フィクション、 推し活⋯⋯何も感じさせず何も考えさせずに搾取する。 それが現代の日本。 この状況をつくりだした責任をメディア、 とりわけ出版社はどう考えているのだろう。
責任? いや功績か。 金になるからいい。 生産性。 そういうことなんだろうな。 視界をコントロールし、 見せたいものだけを見せて、 読者に何も感じず何も考えなくさせるのがメディアの使命ってわけだ。 戦争の準備は着々と進んでいるって聞いたよ。 あなた方の努力が実りつつあるようで、 よかったね。 でも頼むから、 おれの読みたいものを奪わないでくれ。 お願いだ。 まぁあなた方が脅威を口実にこの国をどう変えたところで、 いくらでも出し抜くつもりではいるけどね。 ガリ版刷りの手製本や、 X線写真のレコードで⋯⋯。
つまるところ、 それが人格 OverDrive や楽犬舎ってわけだ。