バラクーダ・スカイ
第14話: バロース社製電動タイプの前で ~テイクⅢ
タイプライターから吐き出された紙を力任せに引っ張って千切ったジェイクは紙をクシャクシャに丸めて宙に放った。マリファナを口にくわえたジェイクは紙送りボタンを何度も押し、吐き出された煙が白紙を揺らした。
「水の中でだけ存在する本『アクア・ナダ』……品種改良された新しい魚。ヌエボ……ガラ・ルファを改良したほうがいい。ヌエボ・ルファ……悪くない。だが、これをどうする? だからどうしたっていうんだ?」
横隔膜を震わせながらため息をついたジェイクは床の上で座禅を組みながら腕を組む。球形サングラスの奥から浮かんだ眼光はサーサーン朝ペルシアで生まれたボーディ・ダルマのようである。薄紫色をした湿った煙が次々と円を描きながら消えていく。トレーラー・ハウスの窓辺から垂れ下がる時計は傾いており、首切り人のような秒針が切り取った瞬間に封をする。シュロスのペレキューデースによって創作されたクロノス。年代記、同調、持病、時代錯誤の兄弟。ため息と共に煙を吐き出したジェイクが言う。
「どちらにせよ、世の中はがらんどう。だとしたら?」
球形サングラスを撫でたジェイクが立ち上がり、タイプライターのキーの上に手を置く。そして、白鍵と黒鍵の闘士であるセシル・テイラーのようにキーを打ちはじめた。
連載目次
- 星条旗
- テキサス人
- 保釈保証書不要につき
- バロース社製電動タイプ前にて
- アスク・ミー・ナウ
- ユートピアを求めて
- ヴェクサシオン
- フィジカル
- バロース社製電動タイプ前にて ~テイクⅡ
- ジェリーとルーシー
- プレイヤー・レコード
- イースタン・タウンシップから遠く離れて
- エル・マニフィカ ~仮面の記憶
- バロース社製電動タイプの前で ~テイクⅢ
- 炸裂する蛾、網を張る蜘蛛
- 窓の未来
- セックス・アフター・シガレット
- バロース社製電動タイプ前にて ~テイクⅣ
- アタリ
- 小カンタベリー、五人の愉快な火かき棒
- 回遊する熱的死
- 顔のないリヴ・リンデランド
- 有情無情の歌
- ローラースケーティング・ワルツ
- 永久機関
- エル・リオ・エテルノ
- バトル・オブ・ニンジャ
- 負け犬の木の下で
- バロース社製電動タイプ前にて ~テイクⅤ
- エアメール・スペシャル
- チープ・トーク
- ローリング・ランドロマット
- 明暗法
- オニカマス
- エル・マニフィカ ~憂鬱な仮面
- ニンジャ! 光を掴め
- バスを待ちながら
- チープ・トーク ~テイクⅡ
- ブルックリンは眠らない
- しこり
- ペーパーナイフの切れ味
- 緑の取引
- 天使の分け前
- あなたがここにいてほしい
- 発火点
- プリズム大行進
- ソムニフェルムの目覚め
- テイク・ミー・ホーム
- オン・ザ・コーナー ~劇殺! レスリングVSニンジャ・カラテ
- 血の結紮(けっさつ)
- 運命の交差点
『バラクーダ・スカイ』の次にはこれを読め!