D.I.Y.出版日誌

連載第346回: どこへも行けない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2022.
11.28Mon

どこへも行けない

無能感ということばはあるだろうかおれの父親は自分を神とこころえる異常者だったいわば全能感の権化だ幸か不幸かおれは境界知能ではあっても自己愛や支離滅裂なこだわりは遺伝しなかった虐待されて育ったし何をやってもしくじりだれともうまくやれない無能感でいっぱいだ事実屑だから生きているのは社会の迷惑でしかない生き恥をさらして給料泥棒するのにもう疲れたこんな気持がつづくのは耐えられない

 お天使もきくなも☆も評判がいいし柳楽先生や mimei さんや一夜文庫さんもよく読まれているプロの編集者ならいい本をつくったと思えるんだろうかおれのばあいは寄稿者がすごいだけだひとごとでしかない他人はだれもが輝いている読書も出版もいやになった人間としての最低限のスペックを持ち合わせない事実を思い知らされるからだおれはおれであるがゆえに価値がない疎まれ蔑まれときとして憎まれる他人はおれでないがゆえに価値があり愛される努力すればするほど認められ称賛される愛はたがいに寄り集まる性質をもち地上におけるその総量は一定だ生まれつき奪われた屑は遠くから目を細めて見守るしかない糞溜に生まれたら一生臭うそういうことだ

 代わりに何か自分をいいと思える趣味を見つけなければいっときの錯覚でいいどうせ人生を愉しむ権利なんてない勘ちがいして自己満足するしかない読書はもちろん映画だって書くために見ていたのでつまらなくなったおれのがだめならこれだってだめだろうとしか思えなくなったジム通いも走るのも人間を見るのがいやでやめたサイトをいじるのは楽しかったでもやれることは全部やってしまった楽器はひけないし唄もうたえない音楽は愛されて育つ子ども時代がなければ身につかないかつては社会訓練のために交通機関を乗り継いで都会の他人に会いに行ったりしていたひとも移動も苦手なので努力して克服する達成感がえられたもうそんな元気はないうまくやれない惨めさしか感じられない

 読書も出版もひととのつながりがあってこそなんだなと学んだなむさんは創作文芸コミュニティ一夜文庫さんは書評 SNS や一箱古本市のつながりを大切にしていてそこから見いだされ書店や出版社とのつながりができたりしている機会が増えるにつれてかかわりは網の目のように結びつきつながりも強まるおれにはそれがないひととかかわれないしつながれないふつうにふるまう方法を知らないどこでもだれともうまくやれないとり残されているこれからもずっと死ぬまできっとインセルやテロリストや陰謀論者もおなじように感じているんだろうでもかれらには仲間がいる正しいと思い込むだけの自己愛もおれには何もない

 公共の場で垂れ流すべきじゃない自己隔離と趣味を兼ねてひとりごと専用サーバを建てるつもりだったまっしろな画面が表示されるだけファビコンが表示されるから DNS 設定やインストールはできているはずVPS の業者に問い合わせたらもっと金をよこせといわれた1G じゃ客として認めないよせめて 4G からだね顔洗って出なおしなインターネットはおっかねえとこだお金がかかるなぁ月額 3,227 円もだせないよ⋯⋯とべそをかきながら 1,738 円の 2G にしてもらったたしかに今度は白い画面じゃないサーバに接続できませんページを開けませんでしただって前より悪くなってるむこうは商売だからグレードのせいにするけどたぶん原因はそんなことじゃない2017 年のスタートアップスクリプトそのものが実情にあわないんだと思うインストールされるものが古いとか互換性がよくないとか何かおれには理解できない類いで文句はいえないVPS 業者が提供するサービスは仮想サーバであってその使い途じゃないスタートアップスクリプトは動作を保証されないあくまで客がどうにかすべきものだ

 おひとりさまに戻りたくなるタイミングが遅かった半年前ならポルトガルのヒューゴさんもまだ募集していたしというか使わせてもらっていた)、 ほすと丼なんか新規入会キャンペーンまでやっていたのにおれはあべこべに三年運用したサーバを閉じてしまったどうも暴走自動車が鳥かごに突進してきたタイミングとMastodon の大がかりな更改が重なったみたいなんだよなそれでかれらは新規募集をやめてしまったらしいしらんけど結論として Mastodon はひとりごとを垂れ流したいだけのおひとりさまには向かない金持の技術者が大勢の客を集めてそれなりの規模のサーバを運営するのに向いているだれかの建てたサーバに所属するなら鳥かごと何も変わらない数年前にも挫折してそれでヒューゴさんに頼んだのだけれどやっぱり敷居が高かったなぁ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。