くみた柑のオキラクニッキ

連載第2回: 本との出会い方

アバター画像書いた人: くみた柑
2022.
11.28Mon

本との出会い方

街の本屋さんが消えると本屋を見て歩くことで起こる素敵な本との偶然な出会いがなくなると心配する声があがる

そうだよねと思いながらもどこかずっと共感できずにいたのは私が本屋さんでそういう出会いをしたことがないからだ

私は家庭にお金が回ってこなかったタイプのニセ貧乏な家で育ったのでお小遣いはとても少なく、 「これを買う!と決めたものしか買う余裕がなかった高校生になってからバイトを始めたけれどその頃は漫画を描いていたので漫画の画材や好きなアーティストの CD を買い友達とたまにカラオケするくらいで精一杯だった

その後も推しに貢ぐことはあっても偶然の出会いで購入したものってあまり思い出せない私の買い物はまずこれと決めてそこに向かいお小遣いをためるので前情報が何もない冒険するような物の買い方はできなかった

いわゆるジャケ買いなんてこの歳になってもしていないってことに気づく小さい頃からの経験が染み付いているのだろうか

良いと思ったものを手元に残すために買うつまりアニメが良かったから DVD を買う原作を買うという類の買い方

もしくは好きなアーティスト作家さんの出す作品を買うアーティスト買い作家買いこの言い方であってる?という買い方これは内容は知らなくてもその人自身のファンなので購入する

ということで私の中で偶然の出会いにより購入する機会がこの長い人生の中でほとんどなかったのだ

お金もなかったのだ!悲しい⋯⋯

これでは私の世界はまったく広がらないではないかと思うけれどそんな私でも偶然の出会いが起こる場所がある

それが図書館だ

実は図書館でも基本的には好きな著者とか前情報を頼りに気になっていた本を探しちゃう質なんだけど目に入った瞬間タイトルや装丁に惹かれて本を手に取りページをパラパラめくったり冒頭を読んだりしてこれはと思ったものを借りたことがある小さい頃はよく図書館に入り浸り片っ端から日本昔話とかイソップ物語の類を読み漁っていた

最近は図書館をゆっくり練り歩くということはなくなってしまったけれど予約システムはとてもありがたく使わせていただいている

図書館を歩かなければ本との偶然の出会いはなくなるのではと思うかもしれないけれど私の出会いの場所は別に存在している

これはなかなかにマニアックだと思うけれど読書メーターやブクログなどで自著に感想をくださった方が他に読んでいる本を眺めにいくことがある

私が書くお話は私が読みたいと思って書いた作品なので私の作品を気に入ってくださった人が読む本は私も好きな本である確率が高いのではないかという勝手な想像だ読書メーターでいえば相性という機能に近いイメージ

これがとても良い感じでいくつか気になった本を図書館で予約して読んでいるもちろん人気な本になると待ち時間は長くなるけれどそこはあまり考えずに気軽に予約している予約さえしておけば待ち時間が短いものからコンスタントに準備ができましたメールが来るからだ

図書館で借りた本は2週間で返却しなければいけないため積読にならないのがとても良い

私はすでに残りの人生すべてをかけても読めないのでは?ってくらいの積読があるそのほとんどが電子書籍なのでどれだけの積読量なのかはいまいちつかめていないけれどめっちゃたくさん積んでいる読みたい本はたくさんあれど圧倒的に時間が足りない

拙著も誰かとそんな偶然の出会いをしてほしいと思うけれどそもそもつい最近までは電子書籍のみの活動リアル書店に拙著は並んでいなかったし図書館にもない

電子書籍のくくりでは一応商業誌と並んでいるけれど自著→商業作品へのつながりはできたとしても商業作品→自著の流れは起きにくいよなぁと寂しく感じていた

そんな中今年は人格OverDrive さんからペーパーバック版を2冊出版させていただいた

紙の本への憧れもあったけれど何より多くの人の手にとっていただくためにはデジタルの世界から外へ旅立つことも必要なのではないかと思っていた

電子書籍は遠くの人にも瞬時に届く

紙の書籍は人から人へと渡り歩くことができる

いつか私がふらりと訪れた図書館や古本屋さんで自著を見つける日が来たら、 「おかえりと声をかけ手に取ると思うそんな素晴らしい日が来ることは恐らくないだろうけど夢くらい見てもいいよね

私の中で勝手に思っていることだけれど本には二つの幸せがあると思う

一つは購入していただいた方の本棚の中で長い時を過ごし時々開いてもらえる幸せ

もう一つはたくさんの人の手に渡り旅をする幸せ

最近になって素敵な本たちと思いがけない出会いができる場所がたくさんあることを知った街の大きな本屋さんとは違う本好きな方たちが個人的に経営している個性豊かな本屋さんや古本市のようなイベントそんな素敵な場所に思いがけず私の本も旅立つことになった多くの人の手を渡り旅をしてたくさんの人に愛されたらとても嬉しいなぁと思う

毎日たくさんの本が出版されそんな星の数ほどある書籍の中から私の本を選んで読んでそして感想まで書いていただける状況は奇跡に近い確率なのでは?と思う

改めまして拙著を読んでいただいた皆様本当にありがとうございます

そしてペーパーバック版を手掛けてくださった人格OverDrive の杜さんに心から感謝を


2013年に第一作目となる『記憶の森の魔女』をKindleにて出版。他に、タイムリープを題材としたロングセラー作品『今度君に逢えたら』、初のコメディとなる『行き先はきくな』など。電子書籍を中心に活動中。