街の本屋さんが消えると、 本屋を見て歩くことで起こる 『素敵な本との偶然な出会い』 がなくなると心配する声があがる。
そうだよね、 と思いながらもどこかずっと共感できずにいたのは、 私が本屋さんでそういう出会いをしたことがないからだ。
私は家庭にお金が回ってこなかったタイプのニセ貧乏な家で育ったので、 お小遣いはとても少なく、 「これを買う!」 と決めたものしか買う余裕がなかった。 高校生になってからバイトを始めたけれど、 その頃は漫画を描いていたので、 漫画の画材や好きなアーティストの CD を買い、 友達とたまにカラオケするくらいで精一杯だった。
その後も、 推しに貢ぐことはあっても、 偶然の出会いで購入したものって、 あまり思い出せない。 私の買い物はまず 「これ」 と決めてそこに向かいお小遣いをためるので、 前情報が何もない、 冒険するような物の買い方はできなかった。
いわゆるジャケ買いなんて、 この歳になってもしていないってことに気づく。 小さい頃からの経験が染み付いているのだろうか。
良いと思ったものを手元に残すために買う。 つまりアニメが良かったから DVD を買う、 原作を買う、 という類の買い方。
もしくは、 好きなアーティスト、 作家さんの出す作品を買う、 アーティスト買い、 作家買い (この言い方であってる?) という買い方。 これは内容は知らなくても、 その人自身のファンなので購入する。
ということで、 私の中で偶然の出会いにより購入する機会が、 この長い人生の中でほとんどなかったのだ。
お金もなかったのだ! (悲しい⋯⋯)
これでは私の世界はまったく広がらないではないか、 と思うけれど、 そんな私でも偶然の出会いが起こる場所がある。
それが図書館だ。
実は図書館でも、 基本的には、 好きな著者とか前情報を頼りに気になっていた本を探しちゃう質なんだけど、 目に入った瞬間タイトルや装丁に惹かれて本を手に取りページをパラパラめくったり、 冒頭を読んだりして、 これはと思ったものを借りたことがある。 小さい頃はよく図書館に入り浸り、 片っ端から日本昔話とかイソップ物語の類を読み漁っていた。
最近は図書館をゆっくり練り歩く、 ということはなくなってしまったけれど、 予約システムはとてもありがたく使わせていただいている。
図書館を歩かなければ、 本との偶然の出会いはなくなるのでは、 と思うかもしれないけれど、 今、 私の出会いの場所は別に存在している。
これはなかなかにマニアックだと思うけれど、 読書メーターやブクログなどで、 自著に感想をくださった方が他に読んでいる本を眺めにいくことがある。
私が書くお話は、 私が読みたいと思って書いた作品なので、 私の作品を気に入ってくださった人が読む本は、 私も好きな本である確率が高いのではないか、 という勝手な想像だ。 読書メーターでいえば 「相性」 という機能に近いイメージ。
これがとても良い感じで、 いくつか気になった本を図書館で予約して読んでいる。 もちろん人気な本になると待ち時間は長くなるけれど、 そこはあまり考えずに気軽に予約している。 予約さえしておけば、 待ち時間が短いものからコンスタントに 「準備ができましたメール」 が来るからだ。
図書館で借りた本は、 2週間で返却しなければいけないため積読にならないのがとても良い。
(私はすでに残りの人生すべてをかけても読めないのでは?ってくらいの積読がある。 そのほとんどが電子書籍なので、 どれだけの積読量なのかはいまいちつかめていないけれど、 めっちゃたくさん積んでいる。 読みたい本はたくさんあれど、 圧倒的に時間が足りない)
拙著も誰かとそんな偶然の出会いをしてほしいと思うけれど、 そもそもつい最近までは電子書籍のみの活動。 リアル書店に拙著は並んでいなかったし図書館にもない。
電子書籍のくくりでは一応商業誌と並んでいるけれど、 自著→商業作品へのつながりはできたとしても、 商業作品→自著の流れは起きにくいよなぁと寂しく感じていた。
そんな中、 今年は人格OverDrive さんから、 ペーパーバック版を2冊出版させていただいた。
紙の本への憧れもあったけれど、 何より多くの人の手にとっていただくためには、 デジタルの世界から外へ旅立つことも必要なのではないかと思っていた。
電子書籍は遠くの人にも瞬時に届く。
紙の書籍は人から人へと渡り歩くことができる。
いつか私がふらりと訪れた図書館や古本屋さんで自著を見つける日が来たら、 「おかえり」 と声をかけ、 手に取ると思う。 そんな素晴らしい日が来ることは恐らくないだろうけど、 夢くらい見てもいいよね。
私の中で勝手に思っていることだけれど、 本には二つの幸せがあると思う。
一つは購入していただいた方の本棚の中で長い時を過ごし、 時々開いてもらえる幸せ。
もう一つは、 たくさんの人の手に渡り、 旅をする幸せ。
最近になって、 素敵な本たちと思いがけない出会いができる場所がたくさんあることを知った。 街の大きな本屋さんとは違う、 本好きな方たちが個人的に経営している個性豊かな本屋さんや古本市のようなイベント。 そんな素敵な場所に、 思いがけず私の本も旅立つことになった。 多くの人の手を渡り、 旅をして、 たくさんの人に愛されたら、 とても嬉しいなぁと思う。
毎日たくさんの本が出版され、 そんな星の数ほどある書籍の中から、 私の本を選んで読んで、 そして感想まで書いていただける状況は、 奇跡に近い確率なのでは?と思う。
改めまして、 拙著を読んでいただいた皆様、 本当にありがとうございます。
そしてペーパーバック版を手掛けてくださった人格OverDrive の杜さんに、 心から感謝を。