D.I.Y.出版日誌

連載第345回: いつだって袋小路

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2022.
11.09Wed

いつだって袋小路

人格 OverDrive への寄稿敷居が高くなっちゃってるのは何をやるにもおれを通さなきゃいけないからだとわかっているシステム上そうせざるをえないんだたとえば連載は WordPress のカテゴリで管理しているのだけれど故意やうっかりでほかの寄稿者の連載がだいなしになるのを避けるためおれにしか触れないようにしてある代わりにおれはなるべく寄稿者の意図をくみ取るべく努力している設定に意図を反映させるにはやりとりを避けて通れない相互の協力によってなりたつ作業だこれは質を担保するためにも避けられないかもしれないなコミュニケーション能力ありきなんだわ作家は

 最初から評価されるひととおれみたいにいくらやってもだめなひととのちがいはコミュニケーションの上で書いているかどうかだと思ういきなり長編を書いて応募ではなくてあえて短いのを多くのひととかかわりながら積み重ねる作品のためではなくて他人とのかかわりを重ねるために書くそのようにして積み重ねた実績のうえで長編を書くのだけれどその作品にしても作品ありきではなくて多くのひとたちとのコミュニケーションの延長上にあるそういうのが評価されるんだ仕事ってそういうものだから

 なんでおれはだめなんだろうって内省からもその結論には達していたけれどここ数年人格 OverDrive で大勢の作家とかかわってきて理屈ではなく実感として身に染みたやっぱそういうことなんだよおれは遺伝と生育環境のために社会性に欠陥がある生きていることが恥ずかしいそんなやつの書くものを人前に出しちゃだめだ

 おれの書くものがだめな理由は経験したことしか書けないからってのもあるかもな物語の都合で作家や編集者をよく登場させるけど商業出版のことは何も知らないし風俗店の内装がどうなっているかとか知らないし車の運転方法すら知らずそういうのをすべて想像で書いている知っているひとからしたらおかしな描写だろうコミュニケーション能力があればちゃんと取材できるだろうし社会経験があればそれだけで説得力のあるものを書ける境界知能のおれはただだめな人生について愚痴を垂れ流すだけだいくらエンターテインメントの技術で仕上げたところでしょせん話にならない

 そもそも精神を病んでいる人間は作家にはなれないもてなす側は健康でなければ鼻水ずるずるくしゃみ連発の板前の料理になんかだれが手を出すものかこれまで書いたものをざっと読みかえしてみたら技術的にはどれもそれほどひどくはなかったでもどこかで線引きをすべきだと感じたしそう感じさせるものはどれも病との距離感を見誤っていた小説は手綱がとれていなければ商品として読みものとして健康な理性で客観的に管理されていなければ

 コミュニケーション能力にせよ社会経験にせよ精神衛生の面にせよ人間としてまともでなければ社会の迷惑だまして大勢の前に出る職業作家になんてなれない健康でまともな社会人であることが最低限の前提でそれがあっての作家なんだよなおれはそうじゃなかった

 おれの本にていねいな感想を書いてくれた asa_suzz さんのツイートで教わったのだけれど、 「いろんな生き方や考え方を示して後からくる人のためにこの道抜けられますの看板を立てていくのが作家の仕事だと田辺聖子はいったそうだ人生経験が豊かな作家の言葉だけに説得力がある小説はきっとそういうものだとおれも思ういっぽうおれはいつだって袋小路のどん詰まりだ。 「この先行き止まりの看板だってひょっとしたらだれかの役には立つかもしれないでもだれがその先を知ろうとするものかふうんじゃあ読まないよと通過するだけだ

 もちろんおれだっておなじ経験はだれにもしてほしくないだから書いている不幸にしておなじ道に迷い込んだひとあるいはおれとおなじように邪悪なものに追い込まれて抜け出せなくなったひとそういうひとのために四半世紀おなじ気持だと伝えたくて書いてきたでもそんなことが何の役に立つのか抜け道を教えてくれなければわざわざ金や時間や労力をついやして読む意味がない

 作家にはなれなかったけれど書いてきたすべてを全否定するつもりもない手綱がとれていると判断したものは公開している。 『血と言葉以降はどれも問題ないお蔵入りにしたものだって必要な経験だった失敗を経なければ何も書けない人前に出るべきではないと自覚できたことだって大きな収穫だ何ひとつむだじゃなかったよ

 書いた通りに表示させたい気を利かせたつもりで勝手なことをされたくないとの気持があったので wptexturize を停めていたダブルクォートについて調べるうちに勝手に変換されたやつが全角だとは知らなかった)、 ひとさまの文章は変換されたほうが美しく表示できるのではないかと考えはじめたためしに有効にしてみたどこかに大きな不具合がでるかもしれないいまのところ特におかしなところは見当たらない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。