時間を遡って天井の Yes を No に書き換えて The Beatles の解散を防いで世界を救う小説を書くつもりだった。 メンタルが悪すぎて資料を読めないんで諦めた。 資料を返して手製本にかんする解説書を四冊借りてきた。 案の定どれもハイソで器用で上品なインテリ金持向けだ。 そうじゃなくて、 おれみたいな発達障害の貧乏人でもつくれるような、 手間と金をかけずに楽に製本する方法を知りたいんだよ。 ゆとりのある社会階層のお洒落な趣味としてではなくてさ。 サミズダートってのは追い詰められた貧民が必要に迫られてやることなのに、 それに応えられる情報がない。 調べれば調べるほど 「教養と金と時間と器用さをすべて兼ね備えた特権階級のおしゃれな趣味」 って印象が。 本文用紙 30 枚入りでコピー用紙 300 枚と大差ない値段か⋯⋯不器用なおれには敷居が高すぎるし、 一冊にこんなに手間をかけていられない。 これじゃ POD のほうがむしろ安上がりだわ。 安く上げるために手で製本することを考えていたけれど、 どうやら逆であるらしい。 大量生産するから安くできるのであって、 手で一冊ずつ製本したら高くつく。 読むための本ではなくて贅沢な工芸品になってしまう。 やりたいのはそんなことじゃない。 教養やゆとりのあるひとたちのためのお洒落な工芸品としては、 高くついても正しいと思う。 でも、 うちの本はそれじゃだめ。 水や食べものとおなじ生活必需品だから。 粗雑だっていいんだよ。 貧しい若者が気軽に買えるくらい安くなければ。 だれのための出版かって話。 おれの頭にはいつだって追い詰められた若き日の自分がいる。 何も持たず味方もだれひとりいないかれのためにおれは書いて出版する。 そういう意味でおれのやっているのは旧共産圏のサミズダートや D.I.Y. カセットカルチャーに似ている。 おれは出版で Martin Newell とおなじ道を追いかけている。 Lou Reed が死んだときは、 かれが死ぬということの意味がわからなくて、 喪失感にとらわれたり 「哀しい」 と自覚したりしたのは数年後だった。 Newell が死んだらおれは立ち直れないかもしれない。 なんというか、 子どもの頃から自分を溺愛してくれた叔父さんみたいな。 動画や写真で見慣れたかれの部屋は子どもの頃からいりびたっていた部屋みたいだ。 あまりにも身近で自分の一部のようにかんじている。 たぶん、 おれにもかれのような asd 的傾向があるんだと思う。 まぁおれがかれのように再発見されることはないけれど⋯⋯。 実際おれは小説でもウェブサイト制作でもほかにだれもやっていないことをやってきたし、 無名の個人が片手間でやっているにしては才能の発掘においても打率は高いと思うのだけれど (メディア取材が二回、 プロデビューがふたり)、 なぜだれも理解しないのかわからない。 次に進むべき道は手製本だ。 手間のかかった美しい工芸品としてではなくて、 単に価格を下げたいがためと、 自分の机で出版のすべてを完結させたいがための雑な本。 POD はピタゴラ装置みたいにまわりくどい。 あまりにも融通がきかない。 どうせおれしか買わないのに金と手間がかかりすぎる。 業者を通じて AmazonPOD を使うにしても KDP Print を使うにしても (おれはその前身の CreateSpace しか試していない)、 たかが自己満足するためだけにやるにしては、 あまりにも迂遠に感じられる反面、 「Amazon で売る」 という点だけは利点がある。 それはそれとして利用しつつ、 本筋はおれが印刷して手で綴じておれのサイトで売る、 ということになりそうだ。 Google アナリティクスが使いづらくなり、 素人には何が何やらわからなくなって、 だれにどれだけ読まれているのかわからなくなったので、 もうどうでもよくなったのもある。 金をかけてこだわって美しさを追求する上製本ではなく、 とにかく安くつくりたい。 極端な話、 雑な紙束であっても本として読むことができればそれでいい。 でもそういう情報はぐぐったかぎりじゃ見つからない。 POD とおなじ価格じゃ意味がないんだよと罵りながらサイトを改修した。 FireFox でも小説を読めるようにした。 おなじことをやろうとしているひとのために書いておくけど、 str_replace で連続した約物を span で囲って halt で 50% 幅を適用して半角空白を足しているんだよ。 縦書きでは vhal だ。 半角空白は連続したり行頭行末にきたりすると吸収されるから、 アキ量がちょうどよくなる。 ところが FireFox は vhal を扱えないらしくて縦書きではぐしゃぐしゃに表示される。 もともと FireFox にはドロップキャップのマージンに不具合があって、 使いものにならないので無視していた。 でもユーザが三分の一もいるのではちょっと可哀想かなという気もする。 それで縦書小説にかんしては半角空白でのアキ量調整をやめて、 連続した約物のアキを vchw で調整する約味フォントを使って FireFox でもまぁ読めるように改修した。 ウェブでドロップキャップをやると行頭に鉤括弧がきたとき次の文字まで拾ってしまう。 それが半角空白と鉤括弧なら span で囲われた鉤括弧だけがドロップキャップになるんで都合がよかったけど、 約味を使うやりかたでは行頭行末で鉤括弧が調整されることはないんで不具合がでる。 迷ったけど FireFox ユーザの便宜を優先することにした。 なんて博愛精神に満ちたおれ。 ドロップキャップは鉤括弧を span で囲うことで解決した (FireFox のマージン不具合は放置)。 str_replace も併用してうまい具合にやっている。 ほんとうは preg_replace の正規表現で行頭の鉤括弧だけ置換したかったんだけどやり方がわからなかった。 FireFox の :first-child:first-letter でマージンがおかしくなるのは有名らしいんだけど、 縦書きの不具合はおれしか気づいてないらしくて (日本人はほんとうに従順だな)、 ぐぐっても何も情報が見つからない。 ブラウザ自体の不具合なのでどうにもならない。 諦めた。
2022.
10.20Thu
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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