夜の雑記帖

連載第7回: 林檎とパイン

アバター画像書いた人: 一夜文庫
2022.
10.20Thu

林檎とパイン

会社の取引先の社長にインド人の気さくなおじさんがいる英語が堪能で日本語も挨拶程度できる世界を飛び回っている貿易会社社長優しくていいひとなのだが唯一の欠点があるカラオケが大好きでちょっとでも隙があるとすぐオールカラオケに誘ってくるのだ

一度だけ明日の朝の飛行機の時間までカラオケに行くから付き合って!と言われてインド人社長に部下のインド人おじさん達と会社の皆が連行されるのに付いていったことがあるしかし想像してみて頂きたい相手はインド人こちらはジャパニーズピーポー

共通する流行歌がない

インド人はあまり洋楽は聞かないようだビートルズは知っている! とか言うのだが実際歌ってみると全く反応がない名前だけは知っているが知っている曲がめちゃくちゃ限られているようだ

ちょうど私は社長の隣に座っていたのだが社長はニコニコしながら自分のターンになると我々の全然知らないインドポップスを熱唱する知らないなりに必死に盛り上げる日本勢しかしこちらが入れた曲が社長の知らない曲だと⋯⋯社長は私達の顔をキッと覗きこむまるでお前らよくも俺の全然知らない曲を入れやがったな!といわんばかりに 社長はインド人にしては温和な顔をしているのだがそれでも日本人よりは濃く目力のある顔をしているあのぐりぐりの大きな目でおい!みたいに見られるのはめちゃくちゃプレッシャーだそしてもちろんインド勢は知らん曲が流れたからといって知らんなりに一生懸命盛り上げようなどという忖度はしない空虚な時間が流れていく

元バンドマンの先輩が金を取れるレベルに完成された俺ら東京さ行くだを熱唱するだだスベるオシャレ男子が爽やかに湘南乃風を歌い上げるスルーお客様にしょっちゅうナンパされているゆるふわちゃんがAKB48 をふわる無反応どういうことだ何ならウケるんだインド人知らんインドポップスで盛り上がろうとする日本勢も苦しくなってきたどうしようこのまま朝まで盛り上がらなかったらいくらなんでも気まずすぎる

という状況で私のターンが回ってきたある意味ここでの選曲が会社と取引先の将来を左右するといっても過言では⋯⋯ ある別にいくらスベッたところで仕事のお付き合いに関係はないのだだがしかしこの空気で朝まではツラいよな

意を決した私は起死回生の一曲を入れたこれがウケれば場の空気は一変するただしスベれば今夜の私は終わる一か八かの賭けだった

そしてイントロが流れたジャステン・ビーバーがシェアしたことで爆発的に広まり当時全世界を賑わせたあの名曲SNS からもテレビからも街角の有線からも絶えず流れていたあの名曲が

♪ ピポパポペポパポキュイィィィン! PPAP !♪

そう! ピコ太郎のPPAP (Pen-Pineapple-Apple-Pen)

おぉ! インド人が! インド人社長と部下の御一行様が! イントロだけでさっきの目とは違うまなざしで私を見ている! これはあれだ! 全世界共通のアホを見るまなざしだ!

空気は一変したしかしこれが流れてしまったら最後一切の手抜きは許されない照れてごまかすなどもってのほか全力で歌い切るしかない

私は立ち上がり踊り出した記憶を頼りに適当にしかし一切の照れはなく全力でピコピコ踊り出した全力で歌ったスベらないようにそして著作権に引っ掛からないようにさぁ皆様もご一緒に! 脳内再生お願いします!

アイハッバぺェェェン! アイハッバアポー! ⋯⋯ゥウン! アポーぺェェェン!

おぉ笑っているインド人が笑っているではないか

アイハッバぺェェェン! アイハバパイナポー! ⋯⋯ゥウン! パイナポーぺェェェン!

おぉ社長が立った社長が立ったぞ

アポーぺェェェン! パイナポーぺェェェン! ⋯⋯ゥウン! ペンパイナーポーアッポーぺェェェン!

立った社長が私の隣で歌いながら踊りはじめたではないか

ペンパイナーポーアッポーぺェェェン!

ピポパポピポパポピポパポ⋯⋯♪ 

社長と私は一緒にのけぞって最後のキメポーズを完成させたのだった

この後はもう誰が何を歌っても大盛り上がり最後はあのディスコソングの名曲Dancing Queenを歌いながら私とチークダンスを踊った社長は大満足で私の掌にチューをひとつして翌朝のフライトにも遅れず無事乗って帰っていった。 『ABBAは知っとるんかいというツッコミを私の胸に残して

というわけで皆様明日からすぐ使える便利なライフハックですワールドワイドな接待カラオケで選曲に困った時は迷わずPPAP一択ですよ


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。杜作品を読み人格OverDriveに憧れている。