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海峡のまちのハリル
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海峡のまちのハリル

ときは、いまから百年まえ。かつて世界の中心といわれたオスマン帝国が黄昏の時代を迎えていた。その都である〈海峡のまち〉で、トルコ伝統のマーブリング紙〈エブル〉をつくる職人の孫ハリルと日本人の貿易商の息子たつきが出会う。

「エブル」をつくる工房の家に生まれ育った少年ハリルは、周囲の友だちは新設された学校へ行っているのに、工房の親方である祖父のもとで下働きする毎日。一方、日本からやってきた貿易商の息子たつきは、異国の不慣れな土地で折り紙遊びで暇を持て余している。そんなふたりが海峡のまちで出会い、友情を深め、おたがいの感性をとおして、この街に生きる自分を見つめ直していく――。

アジアを描かせたら右に出る者はいない、『せかいいいちうつくしいぼくの村』の絵本作家・小林豊が絵を、その弟子でトルコをフィールドに取材執筆を行なう末澤寧史が物語と文を担当。師弟コンビが、20世紀初頭のイスタンブルを、生き生きと描く。


¥2,970
三輪舎 2021年, 大型本 60頁
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受け継がれていく伝統と新たに生まれるもの

海峡のまちのハリル

紙の本にも電子の本にもそれぞれよさがある。 『海峡のまちのハリル紙の本のよさを最大限活かした絵本だ

 箔押しのタイトル一枚一枚手作業で貼られた表紙絵と切手切手は柄や貼られた位置が一冊一冊異なるこの異常に手間のかかる造りのためかこの本の発売は遅れに遅れ著者のぼやきが出版社の HP で連載されるほどだったけれどそれだけの手をかけただけのことはある唯一無二の本になっている

 舞台は約千年前の帝国の都スルタンテペトルコのイスタンブール)。 主人公のハリルは学校にも行かず祖父の仕事を手伝っている祖父は伝統工芸エブル水の上に染料を溶かして描く絵マーブリングの職人だが最近は国内では古くさいものとして見向きもされず注文が減っているそんな中異国の商人なかむらはエブルの美しさを高く評価し輸出用に大量の注文を入れるなかむらの息子たつきとハリルの交流を通じてエブルの描き方が紹介される

 ふたりがエブルを描くための画材を探しにバザールの奥へ奥へと入っていく様子エブルの描き方を学んでいく様子には読んでいるこちらも同じ体験のなかに巻き込んでいくような臨場感があるこのあたりの描写は実際に現地でエブルの描き方を学んでいた著者の経験が存分に活かされているのだろう

 挿入されているエブルも美しく本の構成により自分が実際にエブルが仕上がったところを目の当たりにしたような感動がある

 どの国でも似たような状況かもしれないけれどいま伝統を受け継いでいくのは本当に大変なことだ千年前のイスタンブールでハリルのおじいちゃんのようにそれでも次に繋いでいこうと情熱を燃やしてきた人達がいた古くさいと言われながらも昔からの素材を使い技法を変えず守り作り続けてきただからエブルは現代に残っているのだが私は商人なかむらと息子たつきの存在にも注目したいエブルの価値を理解し自国にその美しさを伝えようとした情熱技法を学ぼうとする好奇心彼らのような存在もまたエブルの存続に必要だった日本人のなかむらは未知なる良いものを求めてトルコまで旅しエブルと出会ったエブルは古いものだというのが大衆の認識であったところに新たな価値観で良いものを見いだす人が現れて風穴をあけていく

 この物語の主人公ハリルは航海に出たままの父の帰りを待っているハリルとたつきはふたりの国の伝統を合わせた祈り方を日々重ねて無事を願うふたつの国が出会って生まれた希望変わらないものと新たに生まれるもの受け継がれて続いていくものエブルという伝統工芸の魅力を存分に伝えてくれる一冊だった

(2022年10月06日)

寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。人格OverDriveに憧れてダメ元でお願いしたら書かせて頂けることになってしまい震えている。永遠の前座。
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小林豊
1946年 -

主な作品に、『せかいいちうつくしいぼくの村』(産経児童出版文化賞フジテレビ賞)、『ぼくの村にサーカスがきた』、『せかいいちうつくしい村へかえる』、『えほん 東京』、『まち ぼくたちのいちにち』、『えほん北緯36度線』(以上ポプラ社)、『さくらのまち』、『あいたい友だち』(ともに佼成出版社)、『淀川ものがたり お船がきた日』(岩波書店)などがある。

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末沢寧史
1981年 -

絵本作家・小林豊のもとで絵本づくりを学び、『海峡のまちのハリル』(三輪舎、小林豊/絵)を創作。本のカバーと表紙のデザインギャップを楽しむ「本のヌード展」の発案者。2021年に小さな出版社どく社を仲間と立ち上げる。

末沢寧史の本