夜の雑記帖

連載第2回: あの日に書いた報告書

Avatar photo書いた人: 一夜文庫
2022.
10.02Sun

あの日に書いた報告書

万引き犯に酷い逃げられ方をしたことがある

私の勤務先の雑貨屋の店舗は繁華街の隅っこにあり普通のお客さんももちろんいるがワンカップ片手に入ってくる酔っぱらいだのハッパにラリった若者集団だのも来たりして明らかに普通のオシャレなショップよりも治安が悪い

その日もどこか薄汚れた白人青年が一人でブツブツ何かを言いながら店内に入ってきたあきらかに何かをキメていたそいつはアクセサリーコーナーで安物の石付き指輪を両手両指すべてに各ひとつずつ嵌めそのまま出ていこうとした大胆すぎる犯行

当然制止しようとしたのだが振り切られて店の外へ逃げられ走って走って追いかけたがついに追いつけなかった。 「万引きです! 捕まえてください!と叫んだのだが街を行き交うたくさんの人達の中には当然そんな危ない外人を身体を張って捕まえてくれるような親切な人はいなかったモーゼの波のように左右に分かれていく人垣の間を万引き犯は一直線に走って行ってしまった

その足で近くの交番に駆け込んだら新卒っぽいボケッとした若造の警官にあ~万引きは店の外に出たらもう駄目ですね~とダルそうに言われ一応被害届は出したものの絶対に捕まらないことはどう考えても明らかで私は忙しい午後の小一時間を無駄にしてしまった

腹が立っておさまらない私は職場で皆に共有する万引き報告書を書く際普通なら多くても五行ぐらいで済ますところをB5 用紙全面にびっちり埋まるくらいの量を書いてしまった万引き犯を追いかけたが通り掛かりの人が誰も捕まえてくれなかったし警察も何もしてくれなかったとか明らかにビジネス文書として失格の憤怒と怨恨に満ちた内容だった本来朝礼で読み上げられるだけのはずの報告書は今週は長すぎるからコピーを回しておくから各人で読んで! ヨロシク!ということになり異例の文書として回覧されることになった

大変だったねと言いながら同僚の子がそれを読んでいた一回読み終わってからこれ面白いねと言ってもう一回読んでいた。 「なんか面白い

そう言われて万引きされて嫌な気持ちになっていたのがすっとおさまった

最近ふとそんなことを思い出したあんなふうに読んでもらえるものが書けたら最高だなと思う私のライバルは自分が書いたいつかの万引き報告書なのだ


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。人格OverDriveに憧れてダメ元でお願いしたら書かせて頂けることになってしまい震えている。永遠の前座。
ぼっち広告