人格 OverDrive 創立は 2010 年 (右クリックの仕方を教えてくれるレベルの職業訓練でサイトをつくった) で、 その頃から epub で本を売りはじめたのだけれど、 Amazon で本を売るようになったのは 2012 年 10 月で、 そうか、 あれから十年。 いろいろやってきたよな⋯⋯海外では事例があっても日本ではまだだれもやっていないことを率先してやってきて、 でも一度もなんにも報われなかった。 ウェブサイトだけはゴージャスになったな、 十年前は自力で PHP を書くなんて想像もしなかった。 思うんだけど、 出版社が本にしたり、 売れたり、 ソーシャルメディアで話題になったり、 発言力のあるひとに絶賛されたりするのって、 まともな家庭で愛されて育ったひとだよな。 もしくは、 わかりやすい困難に打ち克つ機会に恵まれたひと。 いずれにせよ、 あらかじめ他人や世間に愛されてなきゃ。 ものごとの感じ方には最低限、 共通の経験にもとづく土台、 分かち合える部分が必要だ。 そんなのがあるからこそ、 いいねやリツイートをされたり話題になったりするわけだ。 つまり、 おれの人生そのものに汎用性がなさすぎて共感の余地がないんで、 そんな人間の書くものは世間のひとたちにゃ、 バズるバズらぬ以前に理解のしようがない。 おれの本が出版社どころかだれからも相手にされないのは、 複数の方から言及されたように、 人間の生の感情が書かれているから。 いやそれが小説ってもんだろうがよと思うのだけれど、 残念ながら、 そうであった時代は四半世紀前に終わった、 少なくとも日本では。 当たり障りのない、 すでにどこにでもあるような 「なじみ感」 のあるもの。 プロの技術を感じさせない、 読者との敷居がないもの。 そういうものが話題にされやすく消費されやすい。 そういう企画でなければ会議を通らない。 で、 そういうのをゼロリスク低賃金で実現できる手段が AI ですよ。 企業にとってはいい時代ですね。 そんなもんだれが読むんだよという話で、 いずれ人間の読者には飽きられる。 計算され尽くした巧みさだけがあって、 生の感情がそこにはないから。 なので将来は読者も AI になる、 人間には理解できなくても AI なら上手に読むからね。 ターミネーターの未来戦争みたいな廃墟で、 人間が人間のためにサミズダートする世界はもうすぐそこ、 おれはそれを先取りしてるだけ。 まぁ生の感情だって条件さえ揃えればいくらでも再現できるんだけど、 プラットフォーマーはそういうのお嫌いでしょ。 この四半世紀、 排除されてきたのはそういうものだから。 そんなことを考えながらずっとウェイバックマシンで過去の人格 OverDrive をながめていた。 記録に残るのは 2013 年からで、 三年間のおれは失われている。 2016 年から WordPress に移行し、 翌年にはドメインと筆名も変え⋯⋯なんだおれ、 がんばってきたんじゃん、 過去のおれが目指していた場所にちゃんとおるわ。 もっと先が見えていて、 未来のおれはそこにいる。 たぶん、 またしてもひとりで⋯⋯。 この十数年ずっと主張してきたことなんで、 当時からおれを知ってるひとには耳タコだろうけど、 おれは本を以下のように定義している: 1. 本は言葉ないしそれに準ずるものをパッケージした (綴/閉じた) ものである。 2. 本はひらかれた文脈で網の目のようにつながっている⋯⋯。 人格 OverDrive はこれらの定義を可視化する試みで、 それをコツコツと実現してきた。 その間、 ますますはっきりしてきたのは、 コンテンツビジネスはいまじゃ権利商売で、 儲ける主体は表現者じゃなくて法律を使って商売する企業様。 出版は音楽のあとをちょっとずつ追いかけてるんだけど、 かつて音楽は無料配布ないしサブスク (表現者にとっては無料配布と大差ない) で販促して公演で稼ぐ、 というビジネスモデルになりつつあるといわれていた。 これがコロナでだめになって、 オンラインの物販が主体になった。 それも実際に売っているのはモノじゃなくアーティストの支援であって、 Tシャツなどのグッズやらヴァイナルやらにお布施する文化ね。 コロナでヴァイナルが売れたのはこれが理由。 おれは出版もそうなるとずっと主張していて、 その考えのもとに 2010 年から人格 OverDrive をやってきた。 で今後の展開、 epub の配布やウェブサイトでの無料公開で知ってもらって、 Tシャツやマグカップや iPhone ケースやプリントオンデマンド本の物販で稼ぐ⋯⋯といいたいところだけど、 それらの物販は出版の場合、 まったく儲からない。 まあぁあああああっっっっったくなんの儲けにもならない。 プラットフォーム企業だけが上前をがっぽりもっていく。 でいま考えているのはプリントオンデマンドじゃなくて、 おれが刷っておれが製本する手製本、 おれが刷るTシャツ、 とかそういうやつ。 世界でひとつだけのハンドメイド。 もうほんとにモノとしての価値じゃなく、 支援って概念が純粋にモノ化したような、 そういうとこに金を出してもらう。 集客して読者と対話しながら書いて連載して版をつくって印刷して製本して売って届ける。 それぜんぶをおれ (と、 対話と書くとこは寄稿者も) でやる。 読者のやることは対話と読んで拡散するとこだけ。 ウェブサイトを会員制にして epub を無料配布し、 希望者に手製本を売ることを考えている。 どうせだれも読まないし、 自分と国会図書館に一冊ずつあればいいからね。 いや手製本も進呈でいいな、 どうせだれも登録しないから。 自動両面印刷のレーザープリンタ、 一万円で買えるのか⋯⋯やれそうだな、 やってもいいな。 問題はおれが病的に不器用なことと、 表紙をどうするか。 POD より安くあげるのが目的なのに、 ぐぐって得られる情報は上製本ばかり。 読めりゃいい、 POD の劣化版でいいんだよ、 しょせんおれの自己満足なのにだれが気にする? あとは人格 OverDrive を、 会員制にしてコミュニティ機能をもたせると同時に寄稿者とのやりとりもサイト内でやれるようにしたい。 と考えているのだけれど、 なぜか BuddyPress が機能しない。 どうもおれが魔改造したテーマが干渉しているらしいのだけれど何がいけないのかわからない。 おれは病的に無能で人間性も最低だから、 客観的にいって、 いないほうが世の中のためだってのはわかっている。 でもけりをつけようにもしくじるに決まっているから、 他人に渋い顔されながら、 だらだらとみっともなく生きつづけるつもりで、 かといって他人に渋い顔されてまで生きるのは楽じゃない。 おひとり様 BuddyPress に自分を隔離して、 考えたことをぜんぶ実現して、 あたかもクレバーでスマートに人生を操っているかのような錯覚を得たい。 そうでなきゃ耐えられない、 だからきっとそうするんだ。
2022.
09.21Wed
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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