D.I.Y.出版日誌

連載第338回: 汚れの落ちない石鹸

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2022.
06.11Sat

汚れの落ちない石鹸

プラットフォームは有名人を優遇し無名人を冷遇するし裁判は金を持ってるやつの勝ちフォロワーが万単位でフォロー数がゼロのアカウントが誹謗中傷への厳罰化をと書いていて怖いと思ったプラットフォームが冷遇するのは無名人だけじゃないけっこう前の話だけれどアフロアメリカンの有名俳優がひどい差別にさらされたときTwitter の運営は何もしなかった多くの利用者が差別の申立てをしたけれど却下その後トランプは優先表示されて結果はご存知の通りだ現代ではプラットフォームが人間の価値を決めるその判断基準はギャディスの描く小学生のようだ違法ではないからやる金になるからやるひとびとの価値観に根ざした差別は社会通念であり法にも触れず金になるその力に乗っかりフィルターバブルで膨れ上がらせればいいプラットフォームを後ろ盾につけた価値ある人間はない人間に対してなんでも好きなことができるZの旗印のもとにウクライナ市民を虐殺し強姦するロシアの若者たちのように民主主義を実現したいならトランプの凍結を解除して右派にも平等とかいうんじゃなくて単純に表示優先度を無名人とおなじにまで下げればいいんだよ存在しないのとおなじくらいにまで表示を抑制していいねもリツイートも加点しなければいいしいいねをタイムラインに流す仕様もやめればいい言論の自由がお望みならいいねを廃止してリツイートも引用リツイートだけにして意見を加えなければ共有できないようにすればいいところがかれらはそうしないなぜか民主主義は金にならないからだ市民からの搾取こそがかれらの目的でありそのための効率的な手段そなわち民主主義に見せかけた中央集権こそがかれらが実現せんとすることだかれらは個人の価値を認めないあなたがあなたであることはかれらの商売を揺るがす金になるファシズムの時代へようこそもちろんあなたの金ではないあなたが金なのだあるいは石鹸やランプシェード

三年間つづけた Mastodon サーバを停止したFediverse の利用者層が期待はずれだったからだそこも女児アニメ画像アイコンばかりの世界だった望む読者はそこにはいなかった合わない客に読まれて変な評価をされるくらいなら売れなくていいしフォロワーも減っていいそりゃまぁ売れに売れて大評判売上も評価もうなぎ登り⋯⋯みたいになればおれだって欣喜雀躍狂喜乱舞するだろうけれどそういう種類の本じゃないしなぁおれがひとりで自己満足してるほうがいいよそうさせてくれと思うがそうさせてはくれないのが Amazon なり Twitter なりのプラットフォームだかれらはおれに無能を思い知らせずにはおかないおれは愛されずに育っていちどもだれからも肯定されたことがないのだけれどなんだかんだいってやはり肯定されたい気持は棄てきれずにいる他人に頼らず自力で肯定したいAmazon の商品ページという公の場に自分の作業の結果が表示されるのはそのための自己満足に役立つ江戸時代算額を神社に納めたアマチュア数学者たちも似たような心地だったのではないかところがそのようにして売ることには難点があって客層はおれと合わないし有能な他人がどうしても視界にはいる自己満足で自己肯定感を高めたいのに逆の結果になるなむさんみたいに自分に最適の客層を見出す/に見出されるのはどうやってやるんだろうなかれは同人誌即売会やソーシャルメディアや公募イベントで地道に人脈をつくっていったようだけれどおなじことはおれにはやれないそしてそもそもおれに合った客層が存在しないおれは凡庸な人間なので読書傾向もそれほど変わっているとは思えないしそれどころか読書家ですらないからだれでも読んでるような有名な本しか知らないはずなのにそれでも他人とはかみあわないなぜなのかわからないすこしでも読書傾向がかぶるひととかおれがいいと思う書き手はみんな高学歴高収入で生まれ育ちや暮らし向きがぜんぜんちがう知性も教養もおれとは別世界だおれが否応なしに感じて生きてきたようなことは知らずにすんでいるひとたちじゃないかって気がするだからおれの書くものを読んでもきっと理解しないおれに似た他人はどこにもいないおれの書くものをわかってくれる他人はいない

一冊書き終えてから次を書きはじめるまであいだがあいてしまうのは落胆を乗り越えるのに時間がかかるから歳を経るにつれ失望が降り積もって乗り越えるのが困難になる無名人が書くのを許せないひとが一定数いて何か書くたびに目をつけられて無名人のくせにけしからんこらしめてやろうと黙るまで説教される書けば罰されるのがわかっているしそんな経験を重ねれば自分が世間的にまちがっているのは身に染みるから気力をふりしぼるのが年々むずかしくなるどう読んでもすぐれているとしか思えないおれの小説がだれからも評価されずばかにされるだけなので価値があるコンテンツというのがどういうことなのかわからなくなった黒澤明の古い映画をみていた当時の世相がわかって興味ぶかくはあったものの退屈のあまり一時間で挫折した他人の小説もおなじ理由で読めないおれのがだめならどんな評判のいい本もたいしたことはないかのように思えてしまう無能を晒してみずからを貶め自己肯定感を毀損するだけなのになぜ書くのか自分でもわからないたぶん病気なのだろう。 『KISS の法則ガーベッジ・コレクションを絶版にしたどちらも中身は屑以下で表紙だけが気に入っていた迷っているのが逆さの月2001 年の習作を 2018 年に書きなおした代物装画は⋯⋯気に入ってはいないけれど手間はかけた断崖絶壁で犯人に追い詰められて鳩が飛んだり雨のパレードで逃走劇をやったりするんでアクションは悪くないけれどまぁゴミ。 『悪魔とドライヴくみたさんのすぐれた装画のおかげでおれの本ではいちばん売れたけれどいいのは外側だけで中身はしょせんゴミおまけに CreateSpace で出した本なのでいろいろと不具合がある残すならペイパーバックをつくりなおす必要があるけれど内容にそこまでの価値がないのでこれも迷っているたぶんもう次は書かないだろう他人の本をつくるほうが自己満足できる今後は優秀な書き手を集めて文芸プラットフォームのようなことをやって出版もどしどしやっておれはその片隅でひっそりと目立たないようにこのような屑日記を書き綴るようになるだろうそれならいずれ運営費くらいはアフィリエイトで回収できるようになるかもしれない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。