ノミのサーカス

連載第12回: ウィリアム・ボブロウ ~ザ・パッセンジャーⅠ

セビルは年代物の自動車らしいエンジン音と振動を伝えている。ボブロウが横目でブッチの身体中に描かれた刺青を見ると、視線に気づいたブッチが
「刺青が珍しいのか?」
「君はギャングなのかい?」
 ブッチは笑い、それから口笛を一吹きした。ボブロウが「おかしなこと聞いた?」と尋ね、ブッチが言う。
「おかしくはないが、会って間もないのにそんなことを聞く奴はいないぜ」
「変わっているかな?」
「あぁ、変わってる。でも、悪い意味じゃない。ボブ、お前はいいところで生まれ育ったんだろう。この場合、いいところっていうのは、金に不自由してないって意味だ」
「ぼくだって好き放題、生きてきたわけじゃないよ。それなりさ」
「おれはギャングじゃない。安心してくれ。だが、ムショには入った。それこそ、人生の半分以上」
「何をやったの?」
「喧嘩を多々。盗みを少々」
「ぼくから盗むようなものはないよ」
「見損なうな。おれはお前から盗むような人でなしじゃない。少しばかり長い話になるが……おれは一三で初めてムショに入った。喧嘩だ。あとはムショを出たり入ったり」
「更生した?」
「どうだかな。言えることは、おれには悪事の才能がなかったってことだ。才能がある奴はムショに入ったりしない。本当に悪事の才能がある奴っていうのは大統領になるんだ」
 ボブロウが笑い、ブッチは伴奏するかのように黒いギターケースを叩いた。フロア・タムのような音だった。ブッチが言う。
「今、おれがこうしているのは、ブッチ・サンダースのおかげさ。ブッチはナッシュビルのミュージシャンで、ギター一本、黒塗りの霊柩車に乗って来た。どこって、ムショに。慰問コンサートさ。ブッチは魔法使いみたいな髭で、いつも喪服を着ていた。ブッチは説教臭い歌を歌わなかった。檻の外、森や草原、草、川、光、ちょっとした恋とか、ありふれたものを歌った。一目見た瞬間から、おれはブッチみたいになりたいと思った。演奏が終わった後、おれはブッチにギターと歌を教えてくれと言った。すると、ブッチは髭を触りながらうなずいた。嬉しかったよ。今まで、見返りを示さないでうなずいてもらえたことなんて一度もなかったからな。それからっていうもの、毎月、ブッチが来るのが楽しみで仕方なかった。約束通り、ブッチは演奏が終わってからギターを教えてくれた。最初はギターの構え方だった。ブッチ曰く、〈ギターはショットガンをぶっ放すみたいに構えろ〉だそうだ。笑えるだろ? おれは腹を抱えて笑ったよ。次にブッチが来るまでの一か月、ギターの構え方だけをやった。〈そんな構え方じゃ駄目だ。それじゃあ、拳銃だ。そもそも、その態度はなんだ? いいか? ギターを構える瞬間からステージは始まっている。観ている連中には絶対に口を開かせるな。口を開いたら、何をしでかすかわからない。ひょっとすると、ギターを口に突っ込んでくるかも知れない。そう思わせるように振舞え〉それから……ようやく、おれがそれらしく構えられるようになると、ブッチはアルペジオの弾き方を教えてくれた。といっても、ピッキングについてだ。ピッキングって言っても、鍵開けのことじゃないぜ?」
 ボブロウが目を丸くしていると、ブッチが「ジョークだよ」と言った。
「コードの押さえ方には骨が折れた。Fのコードを押さえる時には、本当に骨が折れたような気がしたもんさ。それらしくコードが弾けるようになると、ブッチはそれ以上教えてくれなかった。おれが歌を教えてくれと言っても、〈それは教わるもんじゃない〉これだけ。仕方ないから、おれはブッチの真似をするようになった。でも、ブッチの前でそれをやると、怒鳴り散らすから、ブッチが帰った後、檻の中でやるようにした。一緒の房にいた奴が耳の遠い年寄りだったのは運が良かったとしか言いようがない。出所してから、おれはブッチに会いに行った。ナッシュビルなんて行ったことはなかったし、ブッチがどこにいるのかもわからなかった。とにかく、手当たり次第、聞きまくった。とうとうブッチが〈ホンキー・ビーン〉っていう店に毎日のように出演していることを掴んだ。おれは有頂天、ようやくブッチに礼を言えると思った。〈ホンキー・ビーン〉は小さくて、寂れた店だった。本当にこんな店にブッチが? っていうぐらいさ。バーテンダーにブッチのことを尋ねると、バーテンダー、なんて言ったと思う?」
 ボブロウが首を横に振る。ブッチは大袈裟に両手を挙げ
「先週、死にましたよ。だとさ。マジかよ! おれは気が動転して、バーテンダーを殴ろうと思った。殴らなかったけどな。見れば、小さなステージにはクッションのない椅子と、ギターがぽつんと置いてあった。おれは吸い込まれるみたいに椅子に座って、ギターを弾いた。ボブ、霊感っていうやつを信じるか?」
「そういうものは信じないことにしているんだ」
「かく言う、おれもそういうものは信じない。なぜって、神とやらを信じていないんだからな。それでも、その瞬間は違った。まるでブッチが後ろから手を添えて、肩を押してくれたような気がした。おれはブッチが歌っていた歌を歌った。バーテンダーは目を丸くしたよ。まるでブッチ・サンダースじゃないか! ってな。それで、おれはブッチを名乗ることにした。でもおれはブッチ・サンダースほど大した男じゃないから、ただのブッチさ」

 景色、ビル群が走り去る。ボブロウが「これまでは、ナッシュビルで生活していたのかい?」と聞くと、ブッチは苦虫を噛み潰したような顔で頭を振った。
「ナッシュビルは糞だ。連中に言わせると、おれは反抗的で、ショーマンシップに欠けるんだそうだ。とはいえ、ブッチだって同じだったはずだ。だから、おれはオースティンに行く。ブッチはオースティンで演奏していなかっただろうしな。おれはブッチのぶんまで生きてやる。ブッチが手にできなかった成功とやらを手にして、ブッチに華を添えたい。わかるかい?」
「君と、ブッチ・サンダースは親子みたいだね」
 ブッチがうなずき「恩人さ。人生の意味を教えてくれた」
 ハンドルを握りながらボブロウが「人生に意味は必要?」
「おれがムショを行ったり来たりしながら死んだり、殺されたりすれば意味はないだろうな。でも、今は違う。おれはやるべきことがわかっている。ボブ、お前はどうだ? ドライブを続けていて、わかったことがあるか?」
 ボブロウは答えない。答えることができない。手をヒラつかせたブッチが言う。
「まぁ、そのうち見つかるさ。おれに見つかったんだからな」
 それきり言葉が途絶えた。ブッチの吹く哀切な調子の口笛が車内に響くセビルのエンジン音と混ざり、荘厳なグレゴリオ聖歌のように聞こえた。

 二時間ほど走らせると、マクドナルドの看板を見たボブロウが吸い込まれるようにハンドルを切った。
「腹が減ったのか?」とブッチ。
「うん」
「ちょうどいい。ジャンク・フードはおれのソウル・フードなんだ」
 セビルを広々とした駐車場に停めると、二人は自動車から降りた。ブッチが言う。
「悪いがトイレに行ってくる。注文しておいてくれるか?」
「何にする?」
「何でもいい。好きなものを頼んでくれ。金は払うぜ」
「わかったよ」
 右に曲がったボブロウは店内に入り、左に曲がったブッチは電話ボックスよりも狭いトイレに向かって歩いて行く。
ボブロウはバーガーセットとバナナシェイクを二つずつ注文した。店員は店を間違えてしまったと思うような赤毛だった。店員は仏頂面でうなずくと、厨房に向かってボソボソと喋った。店内にはソブラノ・サックス、エレキ・ギター、ウッド・ベース、ドラムといった標準的なフュージョンバンドによるビリー・ジョエルの『素顔のままで』が流れている。全体的なサウンドはありふれているものの、ソプラノ・サックスだけが奇怪なウェイン・ショーターのようなフレーズのソロを吹いていた。
 バーガーセットをトレイにのせたボブロウが席を確認しながら歩いていると、自動ドアが開き、ブッチが焦った様子で入って来た。ボブロウが「どうしたの?」と言う前に、ブッチが口を開いた。
「さっさと行くぞ」
「テイクアウトじゃないよ」
「やばいことになった」
「どういうこと?」
 ブッチが腕をボブロウの肩にまわして「さっさと行くぞ」と言った。バランスが崩れたバナナシェイクが床に落下した。
 外に連れ出されたボブロウはブッチにセビルに押し込まれた。助手席に座ったブッチが
「早く車を出せ」
「一体、どうしたの?」
 ブッチは舌打ちすると、ボブロウの足とアクセルを踏み込んでセビルを発進させた。慌てたボブロウがハンドルを左右に振り、自動車が蛇行運転した。一分ほど経つと、ボブロウは溜息をつき、口を開く。
「何があったの?」
 ブッチはバーガーを頬張り、もう一つをダッシュボードの上に置いた。ブッチはボブロウが持って来たトレイを窓から放り投げ、プラスチック製のトレイが割れる音が聞こえた。
「それで、何があったの? いい加減、聞かせてくれてもいいんじゃないかな?」
 ブッチはバーガーをムシャムシャ食べている。ケチャップがシートに落ちると、ブッチは手で拭き取った。
「トイレで喧嘩になったんだよ。おれから吹っ掛けたわけじゃない。いつまで経っても出てこないから、ドアを蹴ってやったんだ。そうしたら、出て来た野郎、何をしたと思う?」
「さぁ?」
「おれを罵りやがった」
「それで、君は何をしたの?」
「腹を一発、小突いてやった。そうしたら、そいつ、そのまま倒れちまった」
「傷害罪だよ」
 バーガーを食べ終えたブッチは包装紙を丸めて外に投げ捨てた。
「不法投棄」とボブロウ。
「早く食ったらどうだ? 冷めちまうぞ」

バーガーを食べ終え、すっかり上機嫌な様子のブッチはくわえ煙草で鼻歌を歌っている。カントリー歌手らしい、素朴なメロディーラインだった。ボブロウは煙を避けるようにパワーウィンドウを下げた。
「煙草は嫌いかい?」
「嫌いというか、身体に悪い」
「身体に悪いものは嫌いか?」
「うん」
「じゃあ、バーガーなんてもってのほかだぜ。デンプンとか炭水化物、脂なんか死にたい奴しか食えなくなる」
「デンプンも炭水化物も脂質も必要だよ。危ないのは食品添加物」
 首を傾げたブッチが「なんだって? もう一度言ってくれよ」
「食品添加物は避けたほうがいいってこと」
「ショクヒンテンカブツ? そんな言葉、どこで覚えるんだ? 大学か?」
「大学に行かなくても知ってるよ」
「そうなのか? ムショを出たり入ったりのおれにはサッパリだ」
「ごめん。そういう意味じゃないんだ」
 ブッチは肩を上下させた。刺青が笑ったように見えた。
「お前はFのコードの押さえ方を知っているか? チューニングのやり方は?」
「ギターは弾けない」
「そういうことだ。お前はショクヒン……を知ってる。おれはギターを知ってる。それだけ。引け目に感じることじゃない。どの道、全部を知ってる奴はいないんだからな」
「ありがとう」
「礼を言うようなことか?」
「うぅん。少し気が晴れたんだ。だから、お礼ぐらいは言わせてよ」
 ボブロウはダッシュボードの上で冷えたバーガーに手を伸ばし、片手でハンドルを握りながらバーガーを口に運んだ。ケチャップがシートにこぼれ落ちるとティッシュで拭き取った。

 アン・リチャーズ・コングレスアベニュー橋の下から一晩で一〇トンもの昆虫を平らげる大蛇が飛び立つ。黒い点描、墨絵のようなコウモリの大群がレディバード湖へ向かう。

 フォート・ワース・アベニュー九〇五、〈ラ・スモーク〉セビルを路肩に停めると、ブッチがギターを抱きかかえて自動車を降りた。
「礼を言う。お前がいなければ、ここに来れなかった。一杯、おごらせてくれよ」
「飲酒運転は犯罪だよ」
「なら、酒はなしだ。バーガーでもどうだ?」
「二時間ぐらい前にマクドナルドを食べたばかりだし」
 ブッチがカウボーイハットのつばを撫でて言う。
「ビールなし、バーガーなし。それならどうだ? それとも、今度は駐車禁止を理由にするか?」
「ぼくはトイレ待ちをしていただけのはずなのに、いつの間にか暴力沙汰を起こしたり、ポイ捨てをしない」
 ブッチは首を傾げ「そうだな。お前はそういう奴だ」と言った。
「ぼくはつまらない、退屈な人間だ。友人を亡くしてから、理由ばかりを探している。ぼくはマイクの葬儀に行くべきだった。でも、怖かった。空っぽの棺の前で何て言ったらいいのか、どんな顔をしたらいいのかわからなかった。せめてと思って、ダラスにある、マイクが生まれ育った家に行った。ぼくにしてみれば大冒険さ。自分でもわかっている。こんなことに意味はないってことが」
 バーベキュー・スパイスの香り、通り過ぎるバイカーたちの排気ガス。ブッチがドアに手を置き、言う。
「一つ言わせてもらう。お前はいい奴だが、理由に縛られてばかりいるのは悪い癖だぜ。もちろん、おれみたいになれとは言わないけどな」
 ハンドルに手を置いたボブロウが喉を鳴らし
「せっかく、オースティンに来たんだし、付き合うよ」
「そりゃいい。飲もうぜ」
ボブロウは小さくため息をついて「今日は車の中で眠ることにするよ」と言った。
〈ラ・スモーク〉は広々としたガレージのような店で、ウェイトレスたちが慌ただしい様子で行ったり来たりしている。天井から釣り下がった電球には、それぞれアルファベットが書き込まれており、それらを目で追って集約すると〈オースティンを風変りな街のままに〉という標語になっていた。
 二人はバーベキューとビールを注文した。皿の上には、信じられないほど大きい牛肉とポテトフライ。たっぷりのタルタルソースが添えられている。頬を膨らませたブッチが
「腹いっぱいでも、これなら食えそうだ。そうだろう?」
「努力するよ」
 掲げられたジョッキ、大声のお喋り。ブッチは小さなステージの隅に立っているヴォーカルマイクを見るなり薄ら笑いを浮かべ、ギターケースを開けた。ブッチは傷だらけで塗装が剥げたアコースティック・ギターのネックを掴んでマイクの前に立った。それから、三本足の椅子に腰掛けた。ブッチは腕を回し、刺青だらけの腕が軟体動物のように見えた。ブッチを見た客が指笛を吹いた。マイクのスイッチをいれたブッチが
「おれはブッチ。ナッシュビルから来た。その前にいた場所は、この通りだ」
 両手を合わせるような仕草のブッチ。見えない手錠。
「OK、まず言わせてくれ。ナッシュビルはクソだってことをさ」
示し合わせたような客たちの合いの手。
「一曲だけ歌わせてくれ。金は気に入ったら。もし気に入らないって言うのなら、耳を塞いでいればいい。今から歌う曲はブッチ・サンダースっていう男から教わった。多分、誰も知らないだろう」
 長調の三和音、分散和音が掻き鳴らされる。電球のまわりを蛇の目模様の蛾が旋回している。クリっとした目をしたヤモリが舌なめずり。属七音のけだるい音が通奏低音のように響く。ブッチの肌に所狭しに刻まれた猥褻な言葉やハート、髑髏、イバラが踊り出す。

 丘を越えれば、お前の家がある。
 羊の群れを横切って、半神たちとジャムをして
 落ちてきた星を拾おう。

 丘を越えれば、お前の家がある。
 トウモロコシ畑を通り過ぎたって、紫色の雌牛なんかいやしない。
 ハイウェイマンたちと賭け事するだけ。
 丘を越えれば、お前の家がある。
 デカい尻をした法の番人が通せんぼしたって構わない。
 おれは迂回する。ただ、それだけのこと。

 丘を越えると、お前の家がある。
 舞い上がってラッパを吹く小僧たちとジャムをする。
 ページがめくられ、行先が告げられる。

 すり鉢みたいな勾配をまっさかさま。
 今度は十字路でブルースを教わろう。
 それじゃあ、待っている。

 歌い終えたブッチはカウボーイハットのつばを一撫でした。客たちのまばらな拍手。遅れてボブロウも拍手をした。チップが放られ、ブッチは金を拾った。ブッチはギターのネックを掴んだままテーブルに戻って来た。椅子に腰掛けると、受け取ったばかりのチップでビールを追加注文した。
「上手いんだね」とボブロウ。
「ありがとよ。ボブ、お前には世話になった。お前がいなけりゃ、ここに来れなかった」
「お礼なんて、よしてよ」
「おれの勝手さ。おれは勝手に礼を言い、トイレで気に入らない奴をぶん殴るんだ」
「人を殴るのはよくないよ」
「そうだな。それで、ボブ、お前はどうだ? 勝手にやっているか?」
「そうじゃなかったら、こんなことしない」
「本当か? 好きでやっていることか?」
「好きじゃない……探しているんだ」
「何を探しているんだ?」
「わからないから探しているんだ……わかっていたら……」
「探したりしない」
「うん」
 ブッチが牛肉をビールで流し込み
「まぁ、そのうち、見つかるさ。答えって奴は向こうからやってくるだろう。おれがブッチと会ったようにな。ボブ、お前はいい奴だ。だから、アドバイスさせてくれ。やるべきことをやるな。やらなくていいことをやれ。おれが思うに、すべきこと、したほうがいいことなんてものは全部まやかしだ。お前が一番やりたいことをやればいい」
ボブロウが見上げると、天井ではヤモリが蛇の目模様の蛾を咀嚼していた。

 翌朝、ボブロウは汗と牛肉の脂の臭いが立ち込める自動車の中で目を覚ました。通りでは観光客たちが楽しげな様子で歩いているのが見えた。ボブロウはバックミラーを曲げ、微かに漂うアルコールの臭いに顔をしかめてから自動車を発進させた。延々と続く道路は霞んで見えた。

 小一時間ほど走らせるとトラビス湖が見えた。道の脇には黄色いバスが見えた。バスからは弧を描いた鎖が伸びており、鎖はオレンジ色の囚人服を繋いでいた。囚人たちはお喋りしながら立ち小便をしている。囚人たちの近くにはショットガンを構えた保安官が煙草を吹かしながら立っていた。ボブロウはセビルを停め、保安官に近付いた。保安官は胡散臭そうな、警戒した目つきで言う。
「何の用だ?」
「立往生しているみたいだから、何かあったのかと思ったんだ」
 囚人の一人が「ほれ、おれのビッグ・ボーイを見ろよ!」と言うと、保安官は地面に煙草を捨てて
「次に勝手に口を開いたら、その汚い尻にショットガンをお見舞いしてやる」
 囚人は口にチャックする真似をして薄ら笑いした。呆れた顔の保安官が
「こいつらが小便をしたいと喚くもんだから、停めた。この通り、なんでもない」
「どこに行くんです?」
「ダラスの裁判所に連れて行かなくちゃならないんだ。こんなクズ野郎どものために司法取引だとさ。まったく、信じられんよ」
 ボブロウがうなずくと、囚人たちが口笛を吹いた。苛立った様子で保安官が「今度、舐めた真似をしたら、皮棍棒を嫌というほど味合わせてやる」と言うと、囚人たちによる放屁のレスポンス。ボブロウは「そうですか。ぼくはこれで」と言って、セビルに乗り込んだ。

——カタルニアで大規模デモ。ヨーロッパで独立の波は広がるか?  ニューヨーク・タイムズ紙——


作家、ジャズピアニスト、画家。同人誌サークル「ロクス・ソルス」主催者。代表作『暈』『コロナの時代の愛』など。『☆』は人格OverDrive誌上での連載完結後、一部で熱狂的な支持を得た。