ノミのサーカス

連載第5回: ウィリアム・ボブロウ ~朝日のようにさわやかに

ベセスダのアパートに朝日が差し込む。白と黒、モノトーンのインテリアに鎮座したグレーのソファ、デヴィッド・スミス風のひょろ長いライト、床に敷かれた毛足の長いラグ、ラタンのボールチェアの上にはプラスチックのカラスがうずくまっている。キャビネットの上に置かれた携帯電話が鳴り、ナイロンのボクサーブリーフ姿でベッドから這い出たボブロウが携帯電話を手にとった。退職金が振り込まれたことを告げる機械的なEメールの文体。ボブロウは義務的な態度で閑散としたクローゼットを開け、白いシャツ、黒い上下に身を包み、仕上げに黒いネクタイを締めた。ボブロウは大学進学祝いとして父親のガストンから贈られたフェンディの旅行鞄に下着やタオル、シャツを詰め込むと携帯電話でダラス行きの空港チケットを予約した。


作家、ジャズピアニスト、画家。同人誌サークル「ロクス・ソルス」主催者。代表作『暈』『コロナの時代の愛』など。『☆』は人格OverDrive誌上での連載完結後、一部で熱狂的な支持を得た。