D.I.Y.出版日誌

連載第333回: 手を尽くして道に迷う

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2022.
02.18Fri

手を尽くして道に迷う

元年とよばれた 2010 年に自主出版レーベルを起ち上げ二年後に黒船Kindleが来航しサブスク元年の 2016 年までにプラットフォームの限界を痛感した利益の最大化のみを意図するアルゴリズムはなじみ感やネタ消費に最適化され優先表示で買わせる商品を均一化し読書本来の価値を疎外する本は閉じられている読書とは独自視点の提示による内省手段であり個に向かうものだ方やプラットフォームは個人のちがいや内省を許さない万民が等しく消費に開かれることを要求する個々の本は閉じているが互いに網の目のようにつながっている本来そのつながり文脈は書店の棚づくりによって提示されるべきだがプラットフォームのアルゴリズムに寸断され均一の型だけが残った。 『ベンドシニスターの均等主義を思わせるプラットフォームと読書とは本質的に相容れない相容れぬために表示頻度を抑制されたロングテールを支えるだけの企業体力が出版社にはないこのままでは読書文化は画一的な表示によって滅びる独自視点に基づく読書の多様な価値が認められなければ自著のコンバージョンも望めないそこで改めて外部からゲリラ的に価値や文脈を提示してやる必要を感じた2017 年に人格 OverDrive ウェブサイトを自著の販促から読書の価値を提示する方向へと路線変更したのはそれが理由だ柳楽先生やイシュマエル氏に連載をお願いしたのもそのような意図があってだ単にファンだから読みたいからというのが先にあるがしかし現状はうまく機能していない柳楽先生の阿部和重論は阿部和重さんご本人にリツイートされイシュマエル氏のは完結するなり爆発的に大勢に読まれて 28( にわ ) ノ烏さんの書評が note 運営にリコメンドされるに至ったいっぽう自著の今月の売上は 102 円柳楽先生にせよイシュマエル氏にせよ各々のファンにのみ読まれて互いに行き来はない網の目のような可能性までは提示できておらずまして自著までは到達しないウェブサイトの導線設計に難がある断たれているか不充分なのだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。