元年とよばれた 2010 年に自主出版レーベルを起ち上げ、 二年後に黒船 (Kindle) が来航し、 サブスク元年の 2016 年までにプラットフォームの限界を痛感した。 利益の最大化のみを意図するアルゴリズムは、 なじみ感やネタ消費に最適化され、 優先表示で 「買わせる」 商品を均一化し、 読書本来の価値を疎外する。 本は閉 (綴) じられている。 読書とは独自視点の提示による内省手段であり個 (孤) に向かうものだ。 方やプラットフォームは個人のちがいや内省を許さない。 万民が等しく消費に開かれることを要求する。 個々の本は閉 (綴) じているが互いに網の目のようにつながっている。 本来そのつながり (文脈) は書店の棚づくりによって提示されるべきだがプラットフォームのアルゴリズムに寸断され、 均一の型だけが残った。 『ベンドシニスター』 の均等主義を思わせるプラットフォームと、 読書とは本質的に相容れない。 相容れぬために表示頻度を抑制されたロングテールを支えるだけの企業体力が出版社にはない。 このままでは読書文化は画一的な表示によって滅びる。 独自視点に基づく読書の多様な価値が認められなければ自著のコンバージョンも望めない。 そこで改めて外部からゲリラ的に価値や文脈を提示してやる必要を感じた。 2017 年に人格 OverDrive ウェブサイトを自著の販促から、 読書の価値を提示する方向へと路線変更したのはそれが理由だ。 柳楽先生やイシュマエル氏に連載をお願いしたのもそのような意図があってだ。 単にファンだから、 読みたいからというのが先にあるが。 しかし現状はうまく機能していない。 柳楽先生の阿部和重論は阿部和重さんご本人にリツイートされ、 イシュマエル氏の 『☆』 は完結するなり爆発的に大勢に読まれて 28( にわ ) ノ烏さんの書評が note 運営にリコメンドされるに至った。 いっぽう自著の今月の売上は 102 円。 柳楽先生にせよイシュマエル氏にせよ各々のファンにのみ読まれて互いに行き来はない。 網の目のような可能性までは提示できておらず、 まして自著までは到達しない。 ウェブサイトの導線設計に難がある。 断たれているか不充分なのだ。
2022.
02.18Fri
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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