イシュマエル・ノヴォーク

第43話: チップの用意はいいかい? ~TAKEⅢ

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.12.31

幌のない馬車にはボロを来た二人の男が乗っている二人の片足は足枷で繋がれている馬車が揺れると片目が潰れた男が舌打ちし一本置きに歯が欠けた男が歯間から生臭い息を漏らす

チキンホッパー いい天気だと思わないかい? こんな日はうんといいことがあるたとえば今夜は月がない日だ暗がりからヒョイと身を乗り出せば馬も盗み放題前に組んだ奴はどうしようもねぇ馬鹿で馬に乗る時腹帯を締めやがった当然ヒヒン馬が暴れ出してそいつは地面に真っ逆さまそのまま頭を蹄の形に割られちまった本当だぜ? その前に組んだ奴はもっと馬鹿でおれが何を聞いてもシィしか言わねぇあぁそいつはメキシコ語しかわかんねぇんだ

 片目が潰れた男は首を鳴らし苦々しい目つきで足枷を睨む

チキンホッパー 自己紹介するよおれはチキンホッパーあだ名の由来は逃げ足の速さ

 片目が潰れた男がラブジョイと言う

チキンホッパー あだ名の由来はなんだい? アッチが凄いのかい?
ラブジョイ くたばれ
チキンホッパー 仲良くしようぜおれたちは兄弟みたいなもんさこれからおれたちは乳兄弟
ならぬ首兄弟になるんだしさ
ラブジョイ シィ
チキンホッパー メキシコ語はわからねぇ
ラブジョイ スペイン語だお前はどうしようもない馬鹿だな
チキンホッパー 馬鹿はお互い様さなぁ兄弟あんたは何をやったんだい? あぁわかるぜ言わなくてもそのつぶらなおめめがお喋りしやがる殺しだろ? 何人やったんだい? 一人? ケチ臭いぜ二人? もうひと声欲しいな三……ちょっと足りない五……思うんだが両手の指で数えられるぐらいじゃ半人前さヤンキー隊を潰せば大英雄なのにな
ラブジョイ お前を黙らせるには何が必要だ?
チキンホッパー 飽きたらダンマリするよおれはワクワクしているんだこの先に何があるのか気になって仕方がねぇ誰に聞いても教えてくれねぇし
ラブジョイ 底が抜ける台に上ってズタ袋をかぶるんだ
チキンホッパー 違う違うその先だよ誰も知らねぇんだ偉い奴は地獄と言ったがありゃ嘘さなぜってそいつが見たこともないものを言えるわけがねぇものとんでもない責め苦があるとすれば必ず逃げ出す奴がいるだろ? でも逃げて来た奴は一人もいねぇ知り合いにジョアオっていう奴がいたんだけどそいつは悪党だもし地獄とやらがあるならジョアオは地獄に行ったはずさでもジョアオは悪い野郎だからさっさと逃げ出してくるに違いねぇでも最近ジョアオを見た奴はいねぇ要するにだこの先はお花畑なんだよ別嬪がわんさかいてメシはチーズと果物肉は干し肉でも野ウサギでもない臓物なんか捨てちまうあんた山の牡蠣を食ったことがあるかい?
ラブジョイ なんだそれは?
チキンホッパー 知らねぇのか? いいぜ教えてやるよこれで一つ物知りになる山の牡蠣っていうのはおれにもあんたにも二つばかりあるものさあぁ牛のだがね
ラブジョイ そんなものは食いたくない
チキンホッパー 意外と美味いぜまぁ二度と食いたくないけどな
ラブジョイ アッチに行けば皿に山ほど盛られて食えるかもな
チキンホッパー いらねぇそれより別嬪がいいや緑とか赤のドレスを着た……あぁ絹のドレスがいいダンスを踊ってフィドルの楽隊が欲しいな踊り疲れたらベッドでしけこむんだ
ラブジョイ 女はコリゴリだ
チキンホッパー 女で何かあったってクチかい? 女を巡って殺しをやったとかそんなところかい?
ラブジョイ これで最後にしようと思ったあいつのために全部投げ出した
チキンホッパー 口笛を吹く熱いねそういうのは好きだぜでもあんまり熱を上げると燃えカスになっちまうお天道様はボンヤリしているように見せて意地悪だからなコロラドの平原で何人死んだと思う?
ラブジョイ 黙ってろ
チキンホッパー 仲良くしようぜおれたちは仲間さあんたが右足を出すならおれは左足を出すしあんたがおれの右頬を張ればおれはあんたの左頬を張る
ラブジョイ 嘘つきめ
チキンホッパー 嘘なんてついてねぇそれだけ大事ってことさ

 馬車が木組みの橋に差し掛かると御者の隣に座った保安官がウィンチェスター銃を握る埃避けコートを着た男がくわえた葉巻にダイナマイトを近付けて点火する保安官がやめろと叫ぶ
 爆発によって橋が崩れ落ち河に丸太が落ちていく爆風で馬車はひっくり返りラブジョイとチキンホッパーは投げ出されるチキンホッパーは口から砂が混ざった唾を吐き額から流れる血を手で拭うチキンホッパーはラブジョイを立ち上がらせると肩を組んで器用に走り出す

ラブジョイ お前が仕組んだのか?
チキンホッパー 知らねぇよでも誰だか知らねぇがそいつはいい奴さ

 二人は別れ道に差し掛かるとチキンホッパーはこっちだと言って右に走ろうとするがラブジョイは左に走ろうとして足がもつれてしまう地面に転がった二人は土を舐めるラブジョイがチキンホッパーの頬を拳で殴るとチキンホッパーは石ころを掴んでラブジョイの側頭部を殴るお互いの頭から血が噴き出し血走った目から涙が滴り落ちるチキンホッパーはラブジョイの首筋に噛みつきラブジョイが拳を振り下ろす
 ウィンチェスター銃を構えた保安官が二人を蹴り上げる保安官は肩を上下させながら息切れしている保安官が二人を見下ろす

保安官 やり直しだ
チキンホッパー どこからだい? 馬車を修理するところからかい? それとも橋を吹き飛ばすところ?
保安官 最初からだ頑丈な馬車を用意してやるし橋がない場所を通ってやるこの際だから絞首台も頑丈にしてやる

 ラブジョイは指で頭に触れ顔を歪める

チキンホッパー そんなに至れり尽くせりじゃあ悪いあんたに代わるよ
保安官 遠慮するな二度も首を吊られる奴はいないんだからな

 遠くからは誰かが歌うジョン・ブラウンの遺骸が風に乗る


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。

連載目次


  1. 一九七一年 パリ、ホテル・アンリ四世
  2. 二〇〇三年 アーカンソン州リトルロック
  3. リトルロック空港
  4. アーカンソン州リトルロック
  5. カリフォルニア州ロサンゼルス
  6. カリフォルニア州サンタモニカ
  7. カリフォルニア州ビバリーヒルズ
  8. アリゾナ州エルコ
  9. 一九七〇年カリフォルニア州ロサンゼルス / ミスター・ジョンソン。死んだよ
  10. 私たちは何者か?
  11. テキサス州ダラス
  12. アーカンソン州リトルロック
  13. カリフォルニア州ロサンゼルス
  14. カリフォルニア州ブエナパーク
  15. アーカンソン州リトルロック
  16. サタデー・ナイト・サタナイトショー
  17. 黒いブラックサバス
  18. カリフォルニア州スキッドロウ
  19. ブリテン・ボード・システム
  20. カリフォルニア州インペリアル郡 ~ジャック・トレモンド
  21. カリフォルニア州インペリアル郡 ~スティーヴ・ブルームデイ
  22. 裸の街
  23. 明敏で過敏なパーセプション (一九六六年 アップビート誌 九月号より)
  24. カリフォルニア州サンディエゴ ~ドーピーズ
  25. ピンクパープルの力学
  26. カリフォルニア州サクラメント
  27. 一九七〇年 コロラド州プエブロ
  28. ハート・オブ・グラス
  29. 屈折した知覚
  30. ミズーリ州セントルイス
  31. 離見の見
  32. 審理前会議
  33. オーディション
  34. 予備審問
  35. ハイエナたち
  36. デイライト
  37. アリゾナ州フェニックス
  38. 立証を終えて
  39. ブリテン・ボード・システムⅡ
  40. テキサス州エルパソ
  41. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅠ
  42. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅡ
  43. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅢ
  44. テキサス州エルパソ ~天使のホンキートンク
  45. はかりごと
  46. 煙が目にしみる
  47. フロリダ州マイアミ
  48. モルフォゲンの輝き
  49. 暗号美学
  50. フロリダ州タイタスビル
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