D.I.Y.出版日誌

連載第331回: 権威者のマウントもアルゴリズムの大衆操作も読書には要らない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
12.13Mon

権威者のマウントもアルゴリズムの大衆操作も読書には要らない

年配の権威者による書評で売ることができる本も数秒の動画で売ることができる本もおれが読みたいものとはまるで別物だピンチョンを知的な大人の嗜みみたいに持ち上げて別の何かを貶めるひとはわかっていない。 『かいけつゾロリを大人が読んだっていいじゃないか⋯⋯ピンチョンのおもしろさはむしろかいけつゾロリに似ているはずなのにだれだってあると知らされたものしか知りようがないし読み方楽しみ方だって教わらなければわからないその努力を出版関係者は怠ってきた出版不況といわれた二十年前からその場しのぎでとりあえず手っとり早く売れるものばかりを優先してきた書評家にせよ編集者にせよただの読者には見いだせない視点や文脈を先んじて提示しなければならない自動車を知らない顧客により速い馬を売るような商売では先が見えているしそもそも別の視点に気づかせてくれるのが読書だ耕さなければ文化は豊かさを失い痩せ衰えて何も実らなくなる書評とは販促手段かといえばそれは違う結果としてそうなることはあっても本来はそれ自体が読みもので読みものであるからには批評の対象となりうるソーシャルメディアの人気アカウントによる紹介はそれとはまた異質だ無害かつ刹那的な消費財を提供して自らをブランディングするのが彼らの仕事ストアやソーシャルメディアの表示優先度はアルゴリズムが決める優先表示されたものが権威づけられて売れるつまり売れる本はアルゴリズムが決めているアルゴリズムが決めたより速い馬を出版社は作家に書かせるだったら書くのも読むのもアルゴリズムにやらせればいいそこに出版と読書の未来はないというか少なくとも民主的な未来はあるのはビッグブラザーと焚書だけだ例えば一人称と三人称多視点しか読んだことがなければ神視点の小説をまともに読めず下手だと勘違いするだろうそうした幼い誤解も読書においては必要な通過点なのだけれどアルゴリズムは刹那的な消費に最適化されているので読者の長期的な育成など一顧だにせずその幼い声ばかりを増幅する書評/紹介をあえて販促手段とみなして考えてみると現在の出版/読書には権威主義特権的エリートとソーシャルメディア上のファッションふだん読まない人の二極しかないこれセグメント的に評価軸が異なっていて後者は本来は顧客じゃない層を広く取り込む発想で前者は富裕層の権威強化富裕層の権威強化ってのはつまりセメント靴を百万とかで売る高級ブランドみたいな手法ね前者も後者も子どもの頃から読むのが好きでただおもしろいから読んできたって読者を疎外するいまの出版業界はそういう読者としては普通本を読む時点で普通ではない)」 の客をないがしろにしている富裕層ってのは比喩だけど高学歴でいい仕事に就いているひとたちが、 『かいけつゾロリを見下しながら高尚な文学理論で小難しくお上品に語っちゃうようなそういう読み方しか許されない小説をだれが読む? 普通の本好きは文学理論も映えもわからないけどピンチョンに爆笑するよそんなおれたち普通の読者に読書を取り戻したい権威者のマウントからもソーシャルメディアの映えからもこぼれ落ちる価値とその読み方見つけ方を示したいどのフィルターバブルからもエコーチェンバーからも疎外された言葉でなければ救えないものがあってそんな本を読みたいそのために epub や POD や WordPress による地下出版サミズダートで何ができるかずっと考えているアルゴリズムを出し抜くのだ抜け目なくやりたい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。