イシュマエル・ノヴォーク

第35話: ハイエナたち

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.12.10

冒頭陳述を終えて控室に戻ったマーガレットは疲労から吐き気を感じていた彼女はトイレに駆け込んで薄暗い穴に向かって朝食のマッシュルームサラダと胃液を噴出させることを考えるが駆け出すだけの気力もなかったマーガレットは真っ赤なショートヘアーを左右に振り自身が着用しているベージュのセーターとパンツをまじまじと見た服装を選んだのは彼女の弁護士であるジャッキーだジャッキーは派手な服装肌の露出を避けるように説いたがマーガレットはその意見に同意できなかったなぜならジャッキーは髪を染め直せとは言わなかったから
 法廷では陪審員たちによる好奇の目が全身を舐め肌を刺すように感じられたしかし彼女に抗議の声を上げることはできない自身の主張を簡潔に述べる以外のことは冒頭陳述において許されていないのだから
 控室に戻って来たジャッキーは紙コップに注がれたコーヒーをマーガレットに差し出した彼女は顎を上下させありがとうと言ってコーヒーを受け取ったコーヒーからは白い湯気が立ち上っている彼女は何かを言おうとするが硝子体を気ままに飛び交う飛蚊症のように取り留めのないイメージしかあらわれなかったジャッキーはセットされたブロンドの長い髪を掻き上げまずまずよと言ったマーガレットは口をパクつかせ落ち着くためにコーヒーを口内に流し込んだ嚥下する音が心音が聞こえた
マギーあなたは良くやった誇りに思っていいことよ
何もしていない
 マーガレットが言うようにこの日彼女は何もしていない代理人であるジャッキーの隣に座って陪審員たちの視線に耐えていただけだ夜が千の目を持つように法廷には二四の目があった好意的な視線を向けた者はいないように感じられたいつの間にか呆けていたマーガレットの目の前で手をヒラつかせたジャッキーが
いい? これは法律に基づいた戦いよ統計によると弁護士の弁舌は陪審員の判断にはほとんど関係がないとされている一パーセントにも満たないなんていうデータもあるだからどんなにジェフリー・ウァースが舞台俳優みたいに振舞ったからって怖がらなくていいの
 彼女は世界的なファッションデザイナーのような出で立ちの弁護士ジェフリー・ウァースを思い出すケーブルテレビで観た法廷劇よりはシェイクスピアの喜劇のように鮮やかな弁舌をマーガレットが小声で私たち勝てる?と尋ねるとジャッキーは彼女を見据え
勝つわ真実を捻じ曲げることはできない
だといいけど
 ジャッキーはさぁジョニーとエルヴィスもどきが下で待っているわ早く行かないとあの二人がトラブルを起こすわよと言ったマーガレットはぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し重い腰を上げた
 マーガレットは廊下をうつむきがちに歩いている一方のジャッキーはハイヒールで尻を揺らしながらジャッキーは突き立てた人差し指を左右に振りながら
裁判所を出たらまず何をするかわかる?
 マーガレットが首を横に振ったジャッキーが言う
ハイエナたちに餌をやるのよ
ハイエナ?
マスコミよ
私たちが餌?
あたしたちは餌じゃない餌は手なずけるためいいこと?
 
 出口の前ではアフロヘアーにブルース・リー風全身タイツ姿のジョニー・オーロラとダックテイルにパイロット・サングラスヌーディスーツ姿のスティーヴ・ブルームデイが腕組しながら立っていたジョニーはトンボのようなサングラスの縁を撫で口を丸く囲んだ口髭を指でなぞり
マギー調子はどうだい?
まずまず
 ブルームデイはドアに耳をあて記者がわんさかいると言ったジャッキーが
だから? 人なんて通りにわんさかいる珍しいものじゃない
 ブルームデイが肩を上下させるとジョニーはシケた顔していちゃ折角のステージが台無しだぜと言って床に置いていたカセットテープレコーダーを肩にのせて再生ボタンを押した
 ドアが開きスピーカーから大音量でボビー・バードのおれには助けが必要が流れ出す服役中に行われた野球試合で意気投合したミスター・ダイナマイトジェームス・ブラウンの影武者にして相棒保証人ボビー・バードのドスが効いた声が鳴り響くジョニーはコンデンサーマイクのような頭を振りながら記者たちの肩を抱いたブルームデイは大挙して押しかけたファンたちをかわすプレスリーのように振舞いメモ帳片手にペンを走らせようとしている記者から強引にペンを取り上げてサインしたキャノンニコンソニー富士フィルムのカメラは右往左往していたもののマーガレットに照準を合わせるとジャッキーがマーガレットの前に立った
ダグラス・ハイドパークの娘だという主張は本当ですか?
勝訴に自身は?
何か一言!
 腰に手をやったジャッキーが口を開くとマーガレットは後ろからジャッキーの口を塞いだ記者たちが呆気にとられているとマーガレットが一歩前に出た
私は私が正しいことを証明します
 シャッターが切られ明日のゴシップ記事の一面が決定する四人が颯爽と歩き出すと記者たちは道を譲った四人は前に停めたリンカーン・コンチネンタルに乗り込みジョニーがクラクションを鳴らしブルームデイが手を振った

 可視光がジェイコブの梯子のように降り注いでいた天から地へと伸びる光線をカモメが横切りまばたきしたマーガレットがさっきはごめんなさいと言った
謝ることなんてないわそれよりもあたしこそ謝らなくちゃいけないあなたの意思を無視していた
そんなことない私こそジャッキーに頼りっぱなしまるで子どもみたい
 ジョニーは片手でアフロヘアーを軽く叩き
今年のタイム紙の顔はマギーだぜ
 ブルームデイはダックテイルを一撫ですると
いいやおれたちだ今更だがドーピーズっていうのがしっくりきたように思う
ジャッキーはため息をつきこんな時も自分のこと? まったくエルヴィスもどきはおめでたいわねジョニー次の交差点で私を降ろしてマギーに行って欲しい場所があるアリゾナ州のフェニックスにある不死鳥葬儀社〉。 ダグを埋葬した会社で住所はここよと言ってメモをマーガレットに渡した
ブルームデイはヌーディスーツの袖をまくって腕毛を撫でながら
葬儀屋なのに不死鳥なんて性質の悪いジョークだ
マーガレットが裁判に私がいなくてもいいの?と尋ねるとジャッキーが
立証はあたしだけで問題ない裁判はあなたを変えるかも知れないでもそれは書類上のことあなたにはもっと大事なことがあるあなたにはするべきことがある
 ジョニーが口笛を一吹きして交差点だぜところでギターを構えた奴は見えないなと言って停車させるとジャッキーは
真実は見えにくいものよ面倒ごとはあたしが引き受ける書類を精査して弁舌を磨くことも厭わないマギーあなたは前に進んで自分を見つけなさいと言うなり自動車を降りた


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。

連載目次


  1. 一九七一年 パリ、ホテル・アンリ四世
  2. 二〇〇三年 アーカンソン州リトルロック
  3. リトルロック空港
  4. アーカンソン州リトルロック
  5. カリフォルニア州ロサンゼルス
  6. カリフォルニア州サンタモニカ
  7. カリフォルニア州ビバリーヒルズ
  8. アリゾナ州エルコ
  9. 一九七〇年カリフォルニア州ロサンゼルス / ミスター・ジョンソン。死んだよ
  10. 私たちは何者か?
  11. テキサス州ダラス
  12. アーカンソン州リトルロック
  13. カリフォルニア州ロサンゼルス
  14. カリフォルニア州ブエナパーク
  15. アーカンソン州リトルロック
  16. サタデー・ナイト・サタナイトショー
  17. 黒いブラックサバス
  18. カリフォルニア州スキッドロウ
  19. ブリテン・ボード・システム
  20. カリフォルニア州インペリアル郡 ~ジャック・トレモンド
  21. カリフォルニア州インペリアル郡 ~スティーヴ・ブルームデイ
  22. 裸の街
  23. 明敏で過敏なパーセプション (一九六六年 アップビート誌 九月号より)
  24. カリフォルニア州サンディエゴ ~ドーピーズ
  25. ピンクパープルの力学
  26. カリフォルニア州サクラメント
  27. 一九七〇年 コロラド州プエブロ
  28. ハート・オブ・グラス
  29. 屈折した知覚
  30. ミズーリ州セントルイス
  31. 離見の見
  32. 審理前会議
  33. オーディション
  34. 予備審問
  35. ハイエナたち
  36. デイライト
  37. アリゾナ州フェニックス
  38. 立証を終えて
  39. ブリテン・ボード・システムⅡ
  40. テキサス州エルパソ
  41. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅠ
  42. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅡ
  43. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅢ
  44. テキサス州エルパソ ~天使のホンキートンク
  45. はかりごと
  46. 煙が目にしみる
  47. フロリダ州マイアミ
  48. モルフォゲンの輝き
  49. 暗号美学
  50. フロリダ州タイタスビル
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