イシュマエル・ノヴォーク

第32話: 審理前会議

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.12.10

焦げ茶色の会議室の中では椅子に腰掛けたジャッキーが足を組んだ白いシャツにタイトスカート姿のジャッキーはウェーブがかったブロンドと香水までが完璧なキャリアウーマンでありよしんばジャッキーの性別が男であっとしても違和感を覚える者は少ないなぜなら人は真実ではなく外面ばかりを見るものだからジャッキーは隣に腰掛けている長い白髪をポニーテールに結びダークスーツその下には特徴的な丸襟シャツを着たカール・ラガーフェルドのような弁護士ジェフリー・ウァースを横目で見たジャッキーはこの男を知っている正確にはこの男の経歴を流れるような舌と類まれな頭脳を持ち常に依頼人に勝利をもたらす男ジャッキーはこの男の経歴に曇りがないわけではないことを知っている学生時代にはボクシングに明け暮れたもののアマチュア・ボクサーで終わってしまったという事実を週末は髪を整えずにラフな服装でロサンゼルスのヒスパニック系住民に無料の法律相談を行っていることを
 ジャッキーは目の前で深々と腰掛けている男を見た本人には似ていないベートーヴェンの肖像画ソックリの男で昼食にスパークリングワインを一杯飲んできたように頬が紅潮している裁判官ハリー・ノートンノートンは面白みに欠ける名前ではあるものの目つきは剽軽者のそれであり好奇心や愛嬌が見え隠れしていた咳払いしたノートンが言う
スケジュールの確認をその前に君たちは本当に和解できないのかな? 折り合いをつけようとは思わない?
 すかさずウァースが依頼人はそう考えていませんと言うとノートンは裁判官には似つかわしくない安酒場でお喋りしているようにそうかと言った
ミズ・トレモンドいや……この場合は何と呼んだほうがいいかな?
呼びたいほうで結構よ
それじゃあトレモンド君ジェフ君たちは争っている争点は……
 ジャッキーがあたしの依頼人がダグラス・ハイドパークの娘であることを認めてくれればいいと言うと微かに首を捻ったウァースが証拠は?
 自信たっぷりの顔でジャッキーがもちろんあると言いウァースが微笑を浮かべたウァースの微笑からは嘲りが感じられずこれから起こる法廷闘争を楽しみにしているように見えたノートンが
スケジュールの確認をしよう和解が無理だとしてもと言い事務的な口調で日程についての提案をはじめるウァースはノートンから視線を逸らさず一言一句正確に記憶しようとまばたきの回数すら減少させる

 会議を終えたジャッキーは疲労を感じていたジャッキーがコートを羽織ろうとするとウァースは慣れた手つきでエスコートした
慣れているのね
そうでもない君こそ
断るほど無礼者じゃないだけよ
 口角を吊り上げたウァースが私の依頼人に言ってくれると嬉しいと言った会議室を出た二人は廊下を歩き出した床に敷かれたカーペットの上を磨き上げられた黒い革靴とピンヒールが打ち付けるジャッキーがエレベーターのボタンを押そうとすると後ろからウァースが手を伸ばしてボタンを押したジャッキーが言う
ありがとうでもボタンを押すぐらいはできる
すまないそういうつもりではなかった
それじゃあどういうつもりかしら? 聞かせてくれる?
 ウァースが頬を掻くと到着したエレベーターのドアが開き二人はエレベーターに乗り込んだ
自然にすることだからとウァース
何をするのにもお伺いを立てろなんて言うつもりはないでもそうね……あたしたちは対等なのわかる?
もちろん
わかったのならいいこのことはこれでおしまいところであなたの経歴を読んだわ一つ疑問があるどうして無料法律相談なんてやっているの? 罪滅ぼしのつもり?
 ウァースはエレベーターの天井を見つめ次にジャッキーを見た
彼らにはシンパシーがある
あなたはマイノリティには見えないけど?
外面と内面は違う物心ついた時には両親がいなかった養子だったんだ養親は素晴らしい人たちだった
養親がヒスパニック系?
そう素晴らしい人たちだ養親たちと外見が異なるから奇異な目で見られたしそのことを面と向かって言われたことも一度や二度じゃないとはいえ誇りだ息子として扱ってくれた二人は愛されることの素晴らしさを教えてくれた
あたしの親とはエラい違うわね
 ウァースがそれぞれが事情を抱えていると言うとジャッキーが
マーガレットもねと言った
 エレベーターの油圧式ドアが開きジャッキーはまた会いましょうと言って出口に向かって歩き出した


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。

連載目次


  1. 一九七一年 パリ、ホテル・アンリ四世
  2. 二〇〇三年 アーカンソン州リトルロック
  3. リトルロック空港
  4. アーカンソン州リトルロック
  5. カリフォルニア州ロサンゼルス
  6. カリフォルニア州サンタモニカ
  7. カリフォルニア州ビバリーヒルズ
  8. アリゾナ州エルコ
  9. 一九七〇年カリフォルニア州ロサンゼルス / ミスター・ジョンソン。死んだよ
  10. 私たちは何者か?
  11. テキサス州ダラス
  12. アーカンソン州リトルロック
  13. カリフォルニア州ロサンゼルス
  14. カリフォルニア州ブエナパーク
  15. アーカンソン州リトルロック
  16. サタデー・ナイト・サタナイトショー
  17. 黒いブラックサバス
  18. カリフォルニア州スキッドロウ
  19. ブリテン・ボード・システム
  20. カリフォルニア州インペリアル郡 ~ジャック・トレモンド
  21. カリフォルニア州インペリアル郡 ~スティーヴ・ブルームデイ
  22. 裸の街
  23. 明敏で過敏なパーセプション (一九六六年 アップビート誌 九月号より)
  24. カリフォルニア州サンディエゴ ~ドーピーズ
  25. ピンクパープルの力学
  26. カリフォルニア州サクラメント
  27. 一九七〇年 コロラド州プエブロ
  28. ハート・オブ・グラス
  29. 屈折した知覚
  30. ミズーリ州セントルイス
  31. 離見の見
  32. 審理前会議
  33. オーディション
  34. 予備審問
  35. ハイエナたち
  36. デイライト
  37. アリゾナ州フェニックス
  38. 立証を終えて
  39. ブリテン・ボード・システムⅡ
  40. テキサス州エルパソ
  41. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅠ
  42. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅡ
  43. チップの用意はいいかい? ~TAKEⅢ
  44. テキサス州エルパソ ~天使のホンキートンク
  45. はかりごと
  46. 煙が目にしみる
  47. フロリダ州マイアミ
  48. モルフォゲンの輝き
  49. 暗号美学
  50. フロリダ州タイタスビル
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