イシュマエル・ノヴォーク

第27話: 一九七〇年 コロラド州プエブロ

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.11.19

助手席のダグは欠伸をし眠気覚ましの煙草に火を点けた七八号線は二車線のはずだが対向車とすれ違うこともないあたりは真っ暗闇で外灯は一つも見当たらない灯りはぼくが運転するキャデラック・フリートウッド・エルドラドだけこうやってダグと二人で過ごすのはいつ以来だろう? ステージスタジオ撮影インタビューパーティ……メンバーとして一緒にいることはあってもダグと二人でいるという感覚はない彼はぼくを避けているバンドの運営方針に不満があることはわかっているつもりだでもレコードが売れなければぼくたちはおしまいそのためにもメディア露出を増やさなきゃいけない本当ならこんなことは全部ルーク・サンシャスが請け負う仕事だぼくは彼の仕事を横取りしていることになるのかな? そんなことはない彼は海賊版対策を一度もしていないステージ最前列でテープレコーダーを回されちゃあやる気は削がれる一方だ

 ダグはぼくが自由を切り売りしていると考えている正しいし認めるでもその切り売りした対価が家やエルドラドになっているダグだって高級ワインを買ったりしているしお金の何割かはドラッグになっているダグの薬物依存が深刻になったのはビビアンと付き合いはじめてからだ彼女は浮気性で不安定彼女の何がダグを魅了するのかはわからない多分ダグはドラッグと同じようにビビアンに依存しているでも彼女がダグを救ってくれることはない

 ダグにビビアンと別れるよう勧めた時は大喧嘩になったツアー中の滞在先のホテルのエントランスで掴み合って……お互いに興奮していたしロビーが止めに入らなければ殴り合いになっていたと思うぼくとダグの関係はこれまでにないほど悪いそんな時にダグからドライブを持ち掛けられたでも関係改善のための……ビビアンと別れると言ってくれれば最高だけどそういう素振りはない延々とエルドラドを運転しているだけいっそコロラドじゃなくてアリゾナに行くべきだったかな?
 
 制作中の四枚目のアルバムはうまくいっていないタイトルすら決まらないスタジオの中はこの七八号線と同じように真っ暗……暗示的だ
 
 ドライブを続けることが苦痛だこれまでダグといて苦痛を感じたことは一度もなかったのにデビューするまでは毎日が夢のようだった次に何ができるのか? ぼくたちはどこまで行くことができるのか? 毎日毎秒模索していたロビーがガラクタを持って来てみんなで組み立てて完成させた打楽器兼弦楽器通称、 〈ダイアンはアコースティックギターと木琴小さなシンバルを幾つもぶら下げて蛇腹に切ったゴムタイヤをくっつけたものだった一所懸命にハンドルを回すとガムランみたいな音楽が奏でられる。 〈ダイアンを使ってレコーディングできたことは歴史に残ることだと思うでもパーセプションが最高傑作だなんて思いたくないファースト・アルバムが最高傑作なら転落しかないことになってしまうまだ何かできるはずだ少なくともダグは……
この間イギー・ポップが会いに来た
 いつもダグからの話は突然はじまるぼくが
「〈ザ・ストゥージズの? 最近売れているみたいだね多分君を意識しているよと言うとダグは前を見たまま
おれのことが好きだからもっと上を目指すと言っていた
君より上を? それは……随分と志が高い
おれよりも長く生きれば上に行ける
 ダグの言葉から嫌なものを感じた彼の言い方はまるで死にたがっているように聞こえたからぼくは咄嗟に
君がいなくなったら悲しいよと言った言ってしまった言わされたという感じだった
続くものがある続かないものも
続くよぼくたちは続く続けたい
 煙を吐き出したダグが停めてくれと言いぼくが聞き返したするとダグは再び停めてくれと言ったブレーキを踏んで自動車を停めると彼は自動車を降りた
トイレかい?
 ダグからの返事はない彼はどんどん歩いて行くぼくは自動車を降りてダグを追う
こんな夜道で危ないよコヨーテとか獣がいるかも知れない
獣? たしかにこの世は獣だらけだ
そういう意味じゃないよ危険かも
いつだって危険に満ちている
 彼の少し後ろを歩きながらぼくは世の中の危険なことについて挙げていくぼく自身意味が繋がっていないしあやふやなことを口に出していると思いながらダグは急に立ち止まって振り向いた相変わらず気難しい顔だった
おれたちはどこまで行けると思う?
早く車に戻ろう
聞いているんだ答えてくれ
どこまででも付き合うよだから早く戻ろう
 彼は親しげにぼくの肩を抱き子どもみたいに笑ったダグは人差し指を突き立て空に輝く星々を指差した


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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