イシュマエル・ノヴォーク

第25話: ピンクパープルの力学

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.11.12

深紅のランボルギーニ・ムルシエラゴの交換を終えたばかりのタイヤが九一号線のアスファルトに吸い付くように停止した白いズボン為替と紋章を合成したような金糸の刺繍が施された黒いシャツに紫がかったサングラスのトラウトマンはサイドミラーで自身の髪を確認した水草のようにフサフサした髪にはワックスが塗られており外灯に照らされた髪がメデューサのように輝いている微笑を浮かべたトラウトマンは助手席のグウィネズの太腿に片手をのせ自動車の車体と同じ色をしたグウィネズのガーターベルトを指で弄んだグウィネズはミニワンピースの上から乳房を指でなぞり隣に停車したトラックの運転手に向かって中指を突き立てた細長い街路樹謝罪するように首を垂れる外灯ピンクパープルの空には白んだ月が浮かんでいるグウィネズが言う
エリックがあなたにビジネスを持ち掛けたって話は本当?
トラウトマンは僅かに口角を釣り上げ鼻翼から伸びるほうれい線が浮かび上がった
世の中で一番見つけにくい奴はなんだと思う?
 小さく舌打ちしたグウィネズがなぞなぞは嫌い持って回ったような言い方もと言うとトラウトマンは喉を鳴らして
口の堅い奴だ何を言ってもそのことを言いふらしたりしない本当の意味での賢さだ
彼は馬鹿よ誰が見てもわかる賢くなくたってわかる
どうしてそんな馬鹿と寝る? 旦那じゃあ満足できないのか?
 後ろ髪を掻き上げたグウィネズが満足しているわジョーほど自由にさせてくれる男はいないし
それは金のことか?
お金もベッドも
 信号が変わりトラウトマンはサイドミラーで自身の髪を確認するとアクセルを踏んで自動車を発進させた外灯バー薬局繁体字のネオンが地面から平行に引き伸ばされるハンドルを片手で握るトラウトマンはグウィネズの内腿を愛撫したトラウトマンが言う
誰しも欲望はあるが秘密を打ち明けたいっていうのは特にデカい誰かに喋ればどうなるかわかっていても喋らずにはいられないグウィネズおれの仕事はなんだ?
知っているけど聞きたくない
聞いたからって困る仕事じゃないドラッグを売っているわけでも女を提供しているわけでもない……ただのナイトクラブのオーナーだ
「〈ただのナイトクラブのオーナーはミキサー車を買ったりしない
 トラウトマンの額に皺が寄りサングラスの上からでも怪訝な顔をしていることがわかった
コッパードは全部喋ったんだなまったくしょうがない馬鹿だ
 グウィネズが悪戯っぽく笑い尖った犬歯が見えた
セックスは上手よ試してみたら?
 手をヒラつかせたトラウトマンがおれの趣味じゃないと言ったグウィネズは両手の指をあやとりするように動かしながら
ミキサー車を買うナイトクラブのオーナーは聞かれたら困るんじゃないかしらね
たしかにおれは車を用意してやった運転手も国境を越えさせるつもりだろうが何を積ませるのかは聞いていないし聞く気もない
 グウィネズは恥丘のカーヴをなぞるトラウトマンの指にはめられたルビーを摘んで笑みを浮かべた
失敗するわよ賭けてもいい
おれは賭けをやらないおれがやっているのはビジネスビジネスは力学だ
経済学じゃなくて?
まどろっこしく考えるなリンゴが落ちることと同じように考えろ
そんなに単純なの?
リンゴが落ちたのにオレンジが地面にあるなんてことはない結果は力学だ世の中の連中はそういったわかりきったことに気が付かないこうしたいこうなって欲しい……欲望のせいで力学を受け入れることができない
欲望を取り除くためにパイプカットした?
 トラウトマンはグウィネズの太腿から手を放し突き立てた人差し指で円を描いた
ガキがいればいずれそいつはおれの首を狙う
パラノイアね
いいや事実だずっと昔から繰り返されている話しは変わるが最近命の使い方について考える命の使い方……あれができたら死んでもいいとかこれを手放すぐらいなら死んだほうがマシとかそんなように言う奴は多いがそういう連中は嘘つきだモノや出来事に執着する自分を見せているだけまるで自分のペニスがどれだけデカいかを言い合うみたいになわかるか?
私はペニスをぶら下げていないからわからないわね
ペニスは比喩だ
それぐらいわかるそれでジョンあなたはどうやって命を使いたいの?
 交差点の信号機が赤信号に変わりランボルギーニ・ムルシエラゴが停まるV型一二気筒の闘牛のいななきにも似たエンジン音を聞いた通行人たちが振り向くトラウトマンはピンクパープルの空に浮かぶ白んだ月を見ながら力学に従うと言った


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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