イシュマエル・ノヴォーク

第23話: 明敏で過敏なパーセプション (一九六六年 アップビート誌 九月号より)

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.11.12

─ やぁダグ調子はどう? ファースト・アルバムパーセプションの売れ行きは絶好調悪いとは言わせないよ?
ありがとう
― 今西海岸のラジオ局はこぞって君たちの音楽を流しているファンたちの間では君は稀代のロッカーで現代のウィリアム・ブレイクでそれに救世主彼らにメッセージはあるかい?
ありがとうとしか言い様がないなその前に少し落ち着いて欲しい気もする
― ファンの熱狂に戸惑っている?
そう戸惑っている一年前まではパーティとか撮影とかインタビューそういったものに縁がなかったからのんびり暮らしていた
― どんな生活をしていたんだい?
普通だよガールフレンドの家で起きたらコーヒーにシナモンの匂いがついたビスケットを浸すテレビを点けるし新聞も読む
― 理想的な夫みたいだ
結婚はしていないよガールフレンドが買ってくるんだひょっとすると隣の家から拝借していたのかも
― その娘とは?
別れたよある朝起きたら鞄がテーブルに置いてあって、 〈好きなものを詰めたら出て行ってそれでおしまい
― もったいないことをしたね
僕が?
― いいや彼女もし今も付き合っていたら途方もない金額が転がり込んできていただろうに多分今頃は舌打ちしているんじゃないかな?
それはないと思う
― それからはどうやって暮らしていたんだい?
ジノの家に転がり込んだこちらから相談したわけじゃなくて彼から提案された本を読んだり詩を書いたりしていたよアルバムの曲のほとんどはジノの部屋で作ったジョンとロビーが楽器を持ち込んでね時間はいくらでもあったから有意義な時間を過ごせたクリエイティビティに富んでいた
― 今もジノ・フィルの家に住んでいるのかい?
いいやデビューしてからはアパートの家賃を支払うことができるようになったしお互いにプライベートの時間を大切にしようという話になったんだだから今は一緒に暮らしていない
― なるほどところで影響を受けた音楽について聞かせてくれるかい?
ブルースが好きだロバート・ジョンソンライトニン・ホプキンスBBキングハウリン・ウルフ白人がブルースを聴いたり演奏することに嫌悪感を抱く人がいることは理解しているでもブルースは素晴らしい音楽だこの国が崩壊して誰かが歴史の本を書いたとしようほとんどのページは暴力差別戦争で埋まっているだけどブルースはアメリカの美として残り永遠に輝くだろう確信しているよ
― アメリカの崩壊を?
いいやブルースの永遠性
― 君はベトナム戦争には反対? 君のファンの多くは反対のようだけど?
誘導尋問みたいだ先に答えが決まっている
― それじゃあ賛成?
賛成や反対については言いたくないでもそうだな……常に社会は自由と平等で揺れ動いている自由と平等は性格が違うものだ相容れない自由を追求すれば平等ではないし平等を追求すれば自由が疎外されてしまうみんながバランスを考えるべきなんだそう平和や愛について
― 君はフラワーピープル?
ちょっと違うと思う
― 創作について聞くよ? 曲は誰が書くんだい?
メンバー全員でアイディアを出し合うんだだから誰がというのはないよ
― 詩も共同作業?
それは僕が書いているでもメンバーの意見で変えたりはしょっちゅう
― 影響を受けた作家は?
あまり小説は読まないから影響と呼べるほどのものじゃないだろうけどジェイムズ・ジョイスウィリアム・バロウズヴァージニア・ウルフが好きだ
― 詩人は? ウィリアム・ブレイクやホイットマンは君の詩に近いものを感じる
その二人のことは父親みたいに思っているコールリッジやシェリーも好きだアルバムに収録された藻の夢の歌詞は以前見た夢をモチーフにしているコールリッジはクーブラ・カーンで驚くべきものを書いた知識として得る前にカーンの庭園を夢見たというものだ同じようなものあるいは少し規模が小さいものでは化学者のケクレも同じような体験をしている彼の場合夢をヒントにベンゼンの構造理論を思いついたそうだその夢は大きな原子が小さな原子を引き連れながら飛び回って大きな原子が連なっていくというものだ。 『藻の夢それよりももっと規模が小さい個人的だしいささか偏狭だでも悪くないと思ったジノも良いと言ってくれたしそのまま採用した
― いい判断だったと思う印象的だし
ありがとうそう言ってくれると嬉しい
― 詩を作る時に意識することはあるかい?
そうだな……いつも頭の片隅にシェイクスピアがいる彼は偉大で……天才多分僕以外にも同じように考えている人はいると思うけれど一応個人的な意見としてこの国で詩作する人間ほぼ全員がシェイクスピアに嫉妬しているだろうヴィヨンやマラルメジュネは素晴らしい詩人だが彼らはフランス語を使っている英語僕たちと同じ言葉を操る偉大な天才思うにこの国の文学はイギリスからどうやって離れるか乗り越えるかを考えたところから始まったと言えるんじゃないかな
― イギリスコンプレックス?
そうとはいえこの流れも変わってきているけれど
― 他にやりたいことはあるかい? たとえば映画に出演するとか
俳優なんてとてもできそうにない学生時代に戯曲を書いたことはあっても演じることはなかったあまり積極的じゃないんだ
― ステージ上の君はまるで王様みたいに見えるよ
そう? 意識したこともない
― 今後のパーセプションの予定はどうなっているんだい? 次のアルバムの構想はもうあるのかな?
ギグの合間にリハーサルをやっているよでもあんまりうまくいっていない疲れているし少し休みが欲しいと思っているマネージャーのルークが休んだら後悔するって言うし僕自身そう思うからとりあえずやっているルークはマネージャーだけどプロデューサーも兼ねているんだいつ寝ているの? って思うぐらいに忙しそうにしている精力的でいい奴だよ
─ 次のアルバムはどんなものになる予定? もしよかったら聞かせてくれないかな?
それは秘密だよ針を落としてからのお楽しみでも楽しいものになると思う
― それは楽しみだ最後にもう一度ファンに一言いいかい?
もちろんえーっと……いつもありがとう手紙は全部目を通しているもし君が住んでいる町の近くでギグをすることがあったらその時はよろしくそれじゃあ会える日を楽しみにしている

 インタビュアー ウェズリー・シモンズ


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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