杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第333回: 独りの王国を築く

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2021.
11.06Sat

独りの王国を築く

書店からコロナの時代の愛について問い合わせがあり回答したら返答がなかった一般社会の商習慣とはそういうものかと思った手がけた本が実店舗に並ぶのは夢だったが考えてみれば無意味だ読みたい本がないので長いこと書店に行っていない実店舗ばかりか商業出版物そのものから遠ざかっているいまの商業出版物はプラットフォームのアルゴリズムに最適化されている自己宣伝が巧みで強くて正しくて美しくて大勢に持て囃されていておれのような読者には疎外感しかない身勝手な期待でしかないのかもしれないが本には独りである生き方を勇気づけるものであってほしい現代の商業出版はそれとは真逆に成り果てた出版物がそうであるからには読書も自己宣伝に基づく華やかな交流だけが読書を意味するようになった商業で生き残るにはプラットフォームに最適化されるしかなくそこでの論理は読書とは相容れないかつて読み放題にはゴミしか読むものがなかったのでゴミばかり読まれ読まれるから優先表示され表示されるからさらに読まれたささいなきっかけを核として雪だるま式に膨れ上がるアルゴリズムのおかげで本=つまらないゴミが既成事実になりかねなかった本という商材が成立しなくなるリスクは Amazon もわかっていてゴミはゴミ同士で関連づけて囲い込みなるべくゴミを好む客にしか読まれないようにアルゴリズムを調整するようになっただから海外では日本で KU が開始された年くらいから素人の本は読まれにくくなり旨味がなくなってプロのセルフへの流出も以前ほど話題にならなくなった資本投下が実を結びブランド価値が生じた時点でセルフに逃げられるフリーライド的な問題がかつてはあったが近年は聞かないアルゴリズムは注意して人為的に手を入れつづけないとフラッシュクラッシュを招くこれまでの悪影響も取り除けていない日本人は権威者に見せられたものを正しいと信じ込むゴミが互いに関連づけられ優先表示されたおかげでそれが価値のあるものであるかのように学習されたそのためゴミを好む客層が出現し関連付けで囲い込まれた作品を高評価するようになったかれらはゴミであればあるほど優れた本とみなすのでまともな本を逆にゴミ扱いするその価値観にもとづいてレビューがなされそれがその本の価値となる彼らが偶然まともな本を読めばその本は囲い込みに巻き込まれるひとたび関連づけられたら閉じ込められ抜け出せなくなりそこでの評価が絶対になるこのことが出版と読書に及ぼす影響は無視できない体力的な余裕のない現在の日本の商業出版では自転車操業のように目先の需要に隷属するしかなくマーケットインに偏りすぎだ現状そこでのマーケットとはプラットフォームでしかなく需要も個をないがしろにするアルゴリズムに最適化されたものでしかない読書は個を指向するのでプラットフォームの価値観とは相容れないアルゴリズムに適合しない本が出版されず書店に並ばぬ以上読みたい本を読むためには書いてくれる作家を探して出版するしかなくそこでの需要に基づくプラットフォームを築くことにしか可能性は見いだせない既存のプラットフォームやそこでの需要が個を否定し淘汰するならそれとは真逆のプラットフォームを創出するまでだ人格OverDrive をたとえばイシュマエル氏のファンコミュニティにするのもあるいはひとつの方向性だろうこの数年で実験は充分にやったその気になればいつでも実装できるただそれが本質的に個を指向する以上は他人が参加するとは考えにくいそのジレンマで実行に移さずにいる


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
ぼっち広告