イシュマエル・ノヴォーク

第9話: 一九七〇年カリフォルニア州ロサンゼルス / ミスター・ジョンソン。死んだよ

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.09.10

教会のように天井が高いリハーサル室では苛ついた顔のミラーがドラムスティックを冷酷な看守のようにしならせながらダグはどこに行った?と言った肩を上下させたフーパーがフェンダー社製ギターストラトキャスターを伸びた爪で弾いたコンボ・オルガンの前に座るフィルが
彼は自由なんだしたいようにやる権利がある
二時間もリハーサルに遅刻する理由が自由ならおれは遠い国に亡命するとミラーフーパーが
どうせまたビビアンとシケこんでいるんだろ? いい加減注意したほうがいいあんまり一人の女にのめり込むとロクなことにならないってさ
 フィルは喉を鳴らし一人の女にのめり込むのは……まぁ構わないけどね
それはあいつが自由だからか? おれたちの自由は?
ぼくに不満をぶつけられても困るよ
 ミラーはスネアドラムを軍楽隊のようにロールさせながら
ワイト島音楽祭は来週なのに肝心のダグは一回もリハーサルに姿を見せていないときたフープどうしたらいい?
 フーパーは潰れたパイのような帽子を撫で口を開く
流れに従うほうがいい逆らっても疲れるだけだしと言ってジャンゴ・ラインハルトのマイナー・スウィングを弾き始めたミラーはリズムに合わせてバスドラムを踏むとフィルが手をヒラつかせた
遊ぶのはよそうダグがいないと始まらないのは確かだけど曲を決めるぐらいはできるよ。 『無数の扉はやるとして、 『スプーンフルはどう?
口を曲げたミラーが 「『ブルージンからの曲はやりたくないあのアルバムは悪いただのパクりだと言ったフーパーが
ブルースにパクりもクソもない
 ミラーが舌打ちするとフィルがダグはあのアルバムのために詩を書いたって知っている?
カバーアルバムなのにか?
うんダグは一曲だけオリジナルを入れようとしていたんだでもルークが駄目だって言ったから
おじゃんになった?
そういうこと
 ため息をついたミラーがいい加減あのクソ野郎の首を切らないとおれたちはとんでもない馬鹿になる
 フーパーがもうなってると言ったミラーはフーパーを無視して
フィルダグの詩は読んだのか?
読んだよ短かったしらしくないと思ったけど
折角だからそれをやってみよう
ダグがいないのに?
あいつがいなくたってできることはあるだろう?
 目を細めたフーパーがコードは?
 フィルは手を擦り合わせながらブルース進行にしようメロディはないからダグの詩を詠むだけになっちゃうけどそれでもいい?
構わない
 ミラーが重々しい三連符のシャッフルビートを叩き始めフーパーが口笛を吹いたフィルは根音を重視したシンプルなベースラインを左手で弾き右手で和音を弾いた

 この亡骸を葬ろう
 星が息を飲み向こう見ずで好色な男を
 連れて行く先は六六と四九が交差する場所か

 スリー・フォークスから三マイルの距離を
 荷馬車に乗せられた棺が揺られてガタビシいう

 梅毒でトカゲみたいな肌になった男たちの
 密造酒の臭いがする涙は洪水になり
 ハーモニカの寂しい旋律が聞こえる

 我が子を悼んだ父親が待っている
 十字路で夢見る子を


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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