「ヒトデは星にちなんで名付けられました。フランス、およびドイツでは『海の星』と呼ばれています。この生物は一見すると柔らかいように見えますが、コブ状、針状の突起が並び、丈夫なつくりになっています。消化管は下面の中央の口から伸び、腕が集まる中央の盤と呼ばれる箇所の大部分を占める胃に通じています。そこから上面中央に開く肛門へと直腸が続いています。胃は大きく、二つに分けられ、最初の噴門部は大きく、筋肉質です。これは食物を採る際には体外に広げられます。後方の幽門部からはそれぞれの腕に管が伸び、その先で左右に分かれてそれぞれの腕の内部にある肝盲嚢につながっています。水管系は皮膚と内骨格の間を走っており、他孔板から石管が下側に伸びて口周辺を取り巻く環状水管に続く。そこから歩帯溝中央を走る放射水管へとつながります。神経系は水管に沿って環状神経と放射神経が走っています。生殖巣は肝盲嚢の下に腕に一対ずつあり、腕の間の位置の盤上周囲に開きます。また、体腔内にはシダムシ類が寄生しています。ヒトデの発生の多くは体外受精で、ふ化した幼生はプランクトンとして生活します。この頃はビピンナリア幼生、ブラキオラリア幼生と呼ばれます」
ロックバンド、〈パーセプション〉のヴォーカリスト、詩人のダグラス・ハイドパークはソファに深々と腰掛け、全裸のまま二の腕をチューブで縛り上げている。テーブルには空になった注射器が散乱しており、注射針が鈍い光を発している。遮光カーテンの隙間から三本の光が差し込み、ピラミッドのような形を作っている。ブラウン管の中ではフランス語の教育番組が放送されているが、ハイドパークの耳には入っていない。なぜなら、今、彼の脳内はジアモルヒネが血液脳関門を突破し、言語化不可能な、ありとあらゆる快楽が駆け巡っているから。ハイドパークの全身を蝕む、悪魔のように意地の悪い物質は、ネバダ州エルコにある、ハイドパークの生家、母親のエリザベスが弾いてくれた初学者向けピアノ曲集と同じ名前の製薬会社が製造した。二つの水酸基を酢酸とエステルにした鎮痛剤、眠りの王と無水酢酸で煮られたもの。人生の半ばで道に迷ったダンテと彼を導くウェルギリウスを追いかけ回す悪魔が落ち込んだ瀝青のように性質の悪いもの。
ハイドパークが上体を起こし、深く息を吐きながら身体を弓なりにくねらせる。ブラウン管の中では白衣を着たゲイリー・クーパーに似た男が言う。
「プランクトンとして海中を漂った後に、幼生は海底に降ります。口の部分の周辺を中心に、新たな体が作られる形で変態が行われ、ようやくヒトデらしい姿になるのです」
連載目次
- 一九七一年 パリ、ホテル・アンリ四世
- 二〇〇三年 アーカンソン州リトルロック
- リトルロック空港
- アーカンソン州リトルロック
- カリフォルニア州ロサンゼルス
- カリフォルニア州サンタモニカ
- カリフォルニア州ビバリーヒルズ
- アリゾナ州エルコ
- 一九七〇年カリフォルニア州ロサンゼルス / ミスター・ジョンソン。死んだよ
- 私たちは何者か?
- テキサス州ダラス
- アーカンソン州リトルロック
- カリフォルニア州ロサンゼルス
- カリフォルニア州ブエナパーク
- アーカンソン州リトルロック
- サタデー・ナイト・サタナイトショー
- 黒いブラックサバス
- カリフォルニア州スキッドロウ
- ブリテン・ボード・システム
- カリフォルニア州インペリアル郡 ~ジャック・トレモンド
- カリフォルニア州インペリアル郡 ~スティーヴ・ブルームデイ
- 裸の街
- 明敏で過敏なパーセプション (一九六六年 アップビート誌 九月号より)
- カリフォルニア州サンディエゴ ~ドーピーズ
- ピンクパープルの力学
- カリフォルニア州サクラメント
- 一九七〇年 コロラド州プエブロ
- ハート・オブ・グラス
- 屈折した知覚
- ミズーリ州セントルイス
- 離見の見
- 審理前会議
- オーディション
- 予備審問
- ハイエナたち
- デイライト
- アリゾナ州フェニックス
- 立証を終えて
- ブリテン・ボード・システムⅡ
- テキサス州エルパソ
- チップの用意はいいかい? ~TAKEⅠ
- チップの用意はいいかい? ~TAKEⅡ
- チップの用意はいいかい? ~TAKEⅢ
- テキサス州エルパソ ~天使のホンキートンク
- はかりごと
- 煙が目にしみる
- フロリダ州マイアミ
- モルフォゲンの輝き
- 暗号美学
- フロリダ州タイタスビル
- 螺旋のたたかい
- 名なしのパリ
- カリフォルニア州ロサンゼルス ~舌の差
- ネバダ州エルコ ~引き裂かれた休息
- 一九七一年 カリフォルニア州オランチャ
- ブリテン・ボード・システムⅢ
- イン・ゴッド・ウィ・トラスト
- 知覚の子
- 回転円卓
- 新しい知覚
- アップビート誌 編集長記〈新しいパーセプション、ライブ評〉
- ジャッキーに薔薇を
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