D.I.Y.出版日誌

連載第323回: 生存報告

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
07.02Fri

生存報告

朝日新聞に twitter の話題に便乗する浅ましい記事が出た品出しをする書店員が棚越しに母子の会話を聞いたという。 「ネットだと自分が興味のあるものしか見ないけど中略思いもよらなかったものになにこれおもしろそうってなるでしょだから本屋さんに来て実際に棚を見るのがいいのよこんな低次元の記事に月額料金を支払わされているのかとがっかりしたたしかに棚づくりは読書の文脈の編集であってそこでの思いがけない出逢いを期待して客は書店を訪れるしかしそれは Amazon の関連づけ表示にしても同じことだし逆にリアル書店がどれだけ独自の視点で棚をつくっているというのか取次が押しつけてくる商品をただ版元別カテゴリ別五十音順に並べているだけではないかそこにあるのは読書の文脈でも書店員の人生を映す視点でもなく商売の都合だけだそれをギャディスJ Rの小学生よろしくアルゴリズムで極限まで効率化したのが Amazon のランキングや関連づけであるにすぎない紙の本の香りがそんなに好きなら再現した香水が売られているそんな時代錯誤の屁理屈がどれだけ電子書店のアルゴリズムを汚染したと思っているのか権利者との契約の整備に足踏みしているうちに読書の文脈は淘汰され今後いっさい入り込む余地がないほどになって本の香りどころか偏見や小児性愛や性差別を拠り所とする金の悪臭しかしないありさまだインターネットではソーシャルメディアにせよ書店にせよ客の好みを排除して商売に都合のいいものだけを選ばせる意図があまりにも鼻につくたとえばかつてフォローしたバンドの新作を毎週金曜に表示してくれた Spotify はいまや押しつけがましいサジェストのみ何があなたの好みを知ろうなんで自分の好みを企業に教わらねばならないのだ客は企業に見せられたものを全世界と信じる表示機会を抑制されたら存在しないも同然だフィルター・バブルを生成するのは企業であって個人の嗜好はいっさい顧みられない独自の好みや考え方といった主体性は許されず個人がどうあるべきかは企業が決めるこれがファシズムでなくて何だろうその事実をなぜだれも問題視しないのか企業に与えられた夢をずっと見て安心してたいのかソーシャルから排除され淘汰されるのが怖ろしいのか腰抜けどもおれはご免だね錯覚でもいいから人生を自力でコントロールできている実感を得たい押しつけられたものは見たくない見たいものだけを見ていたい三年分のサーバ代の請求がきてこの生き方に金を投じている事実を思い出した四万も支払ってこんな駄文を書いているオール・トゥモロウズ・パーティーズに垂れ流すだけにも月に七百円かけている見たい世界を見るためだけに金も労力も惜しまないWEB の組版にしてもそうだ文章を見たいように表示するために試行錯誤しているFONTPLUS が連続した約物のアキを OpenType 機能の chws と vchw で調節する機能に対応したそうだ日本語の長文を WEB フォントのみで読ませるのはいい考えに思えない表示速度が遅くなるからだchws と vchw でアキを調節するのは同じでも約味フォントで約物だけ置き換えるのが現実的な対応だろうしかし人格 OverDrive ではあえて使っていない試して満足のいく成果は得られたが結局は別のやり方を選んだPHP で約物を置換して半角空白を足し約物は halt で半角に空白は word-spacing で 50% にして連続した空白や行頭行末の空白が無効になるのを利用してそれらしく見せているspan で囲うことの副次的な効用として書き出しに鉤括弧が来ても dropcap がひと文字で表示される問題点はふたつあるword-spacing に%なんて指定は存在しないと W3C の validator に怒られるし余計な半角空白が挿入されるのでテキストをコピーするとおかしなことになるコピペの都合や文書構造の観点からは約味にすべきなのだが現状のやり方は自力でひねり出したので愛着があるし凝った効果を実現できている調べたかぎりではよく似た手法のプラグインがあったが複雑でかつ無理のあるやり方だった自力で考案した手法のほうがまだしも単純でむりがない迷うがこれでいいことにしたイシュマエル氏の連載を書籍化するにあたりいずれ宣伝が必要になるだろうから twitter アカウントを開設したSafari の拡張機能を使って自分のツイートしか見えないようにした今後余力があればツールに月額料金を支払って機械的にフォロワーを増やす努力をするかもしれないいまはまだその気力がない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。