イシュマエル・ノヴォーク

ペリフェラル・ボディーズ

第25話: サタデー・ナイト・インタビュー

書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.06.05

 ロサンゼルスのラジオ放送局スーパーカリフォルニアエクステンドシドヴィシャスより

 真っ赤なネオンサインに放送中の文字が浮かび上がるコンソールに腹をのせたイースタン・ジェイコブスは火の通りをよくするために真ん中をくり抜き油脂で揚げたピルグリム・ファーザーズ伝来の砂糖に包まれた米軍正式レーションを一口放った上機嫌な顔のジェイコブスが脂ぎった唇を舐め太い指でカウントするコンソールのツマミが持ち上げられると音量はジェイコブスの血糖値とともに急上昇ガラス張りのブースの中にはアフロヘアーにブルース・リー風の黄色い全身タイツミラーボール状サングラス首にかけられてはいるがこれまで一度も使用されたことがない平和的ヌンチャクは男がリズムに合わせて首を振る度に鎖が擦れ双頭マイクがノイズを拾ったDJのジョニー・オーロラはアフロヘアーを一揉みすると口を開く
今夜一発目の曲はボビー・ウーマックで一一〇番街交差点』。 アルバムのリリースは一九七二年皆はこの時何をしていたか覚えているかい? 覚えていない? もしかして親父とお袋さんが仕込んで拵える前? 自慢じゃないがおれは覚えているぜその年おれは生まれて初めて親父の車に乗ってボロ家に突っ込んだ目をキョロキョロどうもボロ家に見覚えがある埃塗れでひどいもんだがハっとしたよ何故って自分の家だったんだからな

 ブースの外にいるジェイコブスが笑顔を浮かべ油脂揚げ空洞炭水化物の残りを口に放った

親父がすっ飛んできて車をどかせと怒鳴ったまぁ当たり前さおれだってそうするだろうしなでも後進したら家が崩れちまうかも知れない親父もそれに気が付いたらしくて今度は車を動かすなどうしたかって? 車が突き刺さったままにしたんだその時おれは閃いたもしかすると観光名所になるんじゃないかってね実際は何日かしたら見たことがない連中がゾロゾロとやって来た親父が押し問答をしたが連中の一人が車に乗って後進するとどうだもちろん家はぺしゃんこどうしてそんなことになったのかって? 親父が税金を一ドルも支払っていなかったからさ家は差し押さえられていたんだがボロすぎて欲しがる奴なんていやしないそこに車が突き刺さった連中にとっちゃ勿怪の幸い渡りに船ってわけだ一つ学んだよ税金は死神よりも確実ってさ

 コンソールの前に座るジェイコブスが腕組し二重顎を撫でながら微かに首を左右に振った

OKに同意今日はとっておきの電話ゲストがいるんだイングルウッド……ボビー・ウーマックならこう呼んだ場所つまりはゲットー出身のトラックメイカーラスター・ライカーガス

 ブツリと接続が繋がる

─ もしもし?
よぅラス元気にしているかい?
─ うん
そいつは良かったもし元気がないと言われたらおれは電話線を引き抜いてブースの外にいるイースと二人で夜通しダンスしなきゃいけないところだっただよなイース?

 ジェイコブスが手をヒラつかせる

ラス聞いてくれよイースの奴喜んでだとさ! ラスもどうだい?
─ ダンスは遠慮するよぼく運動は得意じゃないんだ
ダンスは運動神経じゃないぜ? ダンスは心さ暗い洞窟の中で書き殴ったものがあるぐらいだしヒトの歴史はダンスもちろん音楽の伴奏つき極め付きの陶酔ってやつさ多分DJがいただろうその時はシャーマンと呼ばれていたかもな繰り返すがダンスは運動神経じゃない世の中には踊らないダンスっていうのもあるらしいそうショー・コスギとサニー・チバ神秘の国スキヤキ・ハラキリのニッポンにあるって聞いたその時おれは思ったよえーっとつまりそういうことだって
─ それはどういう意味?
さぁ?

 ラスターが噴き出し笑い声がスタジオに響く

OKに同意みんなも知っての通りラスターは話題のアルバム11のトラックメイクをしたラッパーのクローフィッシュとはどういう経緯で組みはじめたんだい?
─ レーベルの社長から紹介されたんだ
イカした社長だおれに羽が生えていたら今すぐ飛んで行きたいぐらいさ
─ そう? ありがとう伝えておくよ
ラスターとクローフィッシュはビッグアップルで制作しているアルバムには環境音が多く使われているみたいだけどあれはどういう意味があるんだい?
─ ぼくは譜面が読めないし楽器もできないパッドを叩いてリズムパターンは作れるけれどコードとかコードの繋がりについてはわからないんだでも気持ちよく響くものはわかるからそういった音を出してくれる人たちに協力してもらった
それはスタジオに集めてかい?
─ 録音用のMDを使って外で録ったんだカセットテープだとノイズがひどくて……
野外録音?
─ そうそうロウアーマンハッタンで知り合った人がユダヤ系でサウスブロンクスの歴史について教えてくれたんだ興味を引かれたから行ってみたんだ
ラスはどこに住んでいるんだい?
─ チャイナタウンだよ
サウスブロンクスに住んでいるもんだとばっかり思っていたよまったく思い込みって奴は天敵だな
─ そうだねでも思い込みがぼくたちをぼくたちにしているものでもあると思うんだぼくはアフリカ系でトラックメイクをしているから大勢の人がぼくをドラッグを吸いすぐに女の子にちょっかいを出すと考えていると思う実際のぼくは全然違うだけどこの思い込みをさかのぼっていくとラップミュージックを自然に聞くことができた理由でもあるぼくはこの考えが嫌いだったラップミュージックは好きだから聴いている好きだからノートパソコンを買ったたしかにそうなんだけどぼくがぼくになった理由はやっぱり思い込みなんだ
これまた哲学的だ
─ 友だちに言わせるとぼくはニューヨークのストア主義者らしいから
興味深い話がポンポン出てくるなプレイヤーたちは全部野外で録ったものなのかい?
─ パーカッションとギターアコーディオンはそうだよパーカッションの三人組とははじめは地下鉄で会ったんだけどその後また地下鉄で会ったんだ運命的なものを感じた急いで事情を説明してMDをとり出して録音させてもらったんだギターのマヌはイーストビレッジに住んでいてクローフィッシュの紹介マヌはプエルトリコから来た人でギターのチューニングを一度もしたことがないんだってギャラリーでの即興演奏を録音させてもらったんだアコーディオンは近くに住んでいるリーさんリーさんはとにかくいい人でいつも食べ物をわけてもらったりしているアコーディイオンが大好きで中国の民謡を弾いてくれたよ
サックスのクレジットはフェルドマンってなっていたけどこれも知り合いかい?
─ イツホクはジャズマンなんだサウスブロンクスで生まれ育った人だよ五〇年代にチャーリー・パーカーを見てサックスを始めたんだってだから今は七〇歳を超えているのかなはじめは別の機会で録音を依頼したんだけど素晴らしかったからもう一度頼んだんだ
フェルドマンっていうのは名前から察するにユダヤ系かい?
─ そうイツホクからも色々と教えてもらったんだイツホクはスタジオで録音したんだけど彼のテイクは一〇分もかからずに終わっちゃったから残りは音楽理論のレッスンジャズがあんなに理論的な音楽だっていうことを知ってすごく驚かされたよ
生活音とか環境音とかはどうやって録ったんだい?
─ あれは町中を歩き回ったんだクローフィッシュから自転車を借りてハンドルにMDをヒモで結び付けてサイクリング採集した音を加工したんだ
最高にイカしているぜ
─ ありがとう
詩について聞いていいかい?
─ そっちはクローフィッシュの担当なんだ彼は頭にバンダナを巻いてタンクトップを着ているし気の向いた所で生活している同時に彼は読書家で暴力沙汰なんて一度も起こしたことがない人は見掛けによらないっていうことを教えてもらった
クローフィッシュの詩はイカしてるたとえば、 〈ヘイ愛しているぜとか、 〈おれのアソコはなんて偉大なんだとかおれが七二年に車で家に突っ込んだ時代と大して変わらないことは詩にしない勿体ぶった言い回しでもない中心はドーナツみたいに空洞で周りにある周りにあるものがハートっていうことでいいかい?
─ 多分そんな感じだと思う
OKに同意それじゃあクローフィッシュ&ラスターのアルバム、 『一一から曲はペリフェラル・ボディーズ


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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